借地人の必要費と有益費の償還

一五年ほど前に、所有地をAに貸し、Aは飲食店を建てて経営していました。まだ借地の期間は残っているのですが、先日Aがやってきて、町が寂れたので商売をやめるから土地を返したい言う申入がありました。さらにAは、土地の上の建物や井戸にかけた費用、さらに地盛りの費用まで払えといってきました。井戸は、土地を貸した当時、まだ水道がきていなかったので、Aが掘ったもので、その後に水道ができてからは、ほとんど役に立っていません。地盛りは、土地が道路より一尺ほど低かったので、Aが勝手にしたのです。こんな費用も、地主もちになるのでしょうか。
ふつう解約が問題となるのは、地主から解約申入があった場合ですが、本問は借地人の方からの解約という、比較的珍しいケースです。一見したところ、借地法などによって保護されているのは借地人ですから、本問のように地主が不利益をこうむっても、借地人さえ保護されればよいのだから、期間前の借地人からの解約は当然有効だ、と考えられるかもしれません。しかし、借地人の保護は、もっぱら借地利用の存続という面ではかられているのですから、必ずしも、いつでも借地人は土地を地主に返すことができる、という結論がでてくるわけではありません。特に期間を定めて土地を貸した地主は、少なくともその期間内は地代をとれると考えているのですから、この地主の利益を無視することは、妥当ではないでしょう。ですから、むしろ、期間を定めて借りた借地人、その期間内には原則として解約できないと考えるべきでしよう。ただ、本問のように飲食店というような場合に町が寂れた事態は、賃貸借を締結したときに予想もできなかったとも考えられますから、例外的に期間前の解約を認めてよいと思います。
ところで、本問の借地契約が期間の定めのないものだとしますと、民法六一七条によりいつでも解約申込ができ、申込後一年経つと契約は終了します。このことは、借地法二条、三条が三〇年または六〇年と借地権の存続期間を定めていることとは、関係ありません。いずれにしろ.本問の解約ついては仕方ないことになりましょう。

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土地

Aは、土地の上の建物や井戸にかけた費用および地盛り費用を払え、といっているのですが、建物についてはすでに述べましたのでここでは、あとの二つについて考えてみましよう。民法六〇八条は、賃借人が賃借物について必要費や有益費を支出したときは、賃貸人に対してその償還を請求することができる、という趣旨を規定しています。Aの要求は、この規定を根拠にしているわけです。ですから、問題は、井戸、地盛りなどの費用が必要費、有益費といえるかどうかにあります。
賃貸借の目的から客観的に判断して、目的物の価値を増加させるのに支出した費用だけでなく、目的物以外のものを改良したため、目的物の価格を増加させる費用も、有益費とみられます。判例によれば、盛土、石垣の築造、下水および道路の開通費工場敷地の賃貸借における、道路より低い土地の地盛りの費用はもとより、賃借建物直前のコンクリート舗装工事、花電灯設備に関する費用も、有益費とされています。ただ、雑草の茂った荒れた畑を、耕作のため賃借した場合に、賃借人が雑草を除去し畑地の面目を改めたとしても、その費用は、賃借人が使用収益そのもののために支出したものである、として、有益費と認めていないことに注意する必要があります。もっとも、学者 はこれに反対して、その償還を認めるべきである、としてはいますが。賃借人が償還請求できる必要費は、ほんらい賃貸人が目的物を使用、収益できるようにするべきであったのに、それをしないため、賃借人が支出したものに限られます。ですから、賃借目的物の原状維持、原状回復のための費用や、目的物を通常の用法に通する状態で保存するために支出した費用は、必要費といえますが、使用、収益そのもののために必要な費用は、償還請求できる必契費に含まれません。判例に現われたもの をあげると、宅地として借りた土地が近隣の土地の地盛りのため窪地となり、家屋の敷地としては雨水がたまるため不適当となったので、地盛りしたときの費用建物所有を目的とする借地が、震災で付近一帯の地盤沈下の生じたため、河川の侵入により宅地としての用をなさなくなったため、借地人が地上げするために支出した費用などは、必要費とされていますが、契約締結当特質借物が契約の目的に合う使川、収益に適しない場合に、賃借人がこれを契約目的に適した状態にするため支出した費用は、必要費ではないとして、じめじめした窪地を建物所有の目的で借りた賃借人が支出した盛土費用の償還請求を否定した例があります。
本問の井戸を掘るためにAが支出した費用は、どうみても必要費とはいえず、せいぜい有益費というのがいいところでしょう。次に、地盛りの費用はどちらになるかということでは、判定に苦 しみます。ただ、いえることは、地盛りの結果土地の価値が増加するのが通常でしょうから、よほどの事情がないかぎり、そのままでも使える土地をAが地盛りして使用した結果、その余得があなたに及んでいると見られますので、少なくとも有益費としては処理される可能性が強いと思われることです。
Aの支出した費用が必要費か有益費かによって、法律上の取扱が、かなりちがってきます。かりに、井戸を掘るための経費が必要費だとしますと、Aは地主に対し費用を支出したときから、ただちに償還請求権を行使することができます。ということは、Aが費用を支出したときから、地主の費用償還債務は履行期に達していることになって、支出後Aが何もしないまま一〇年経つと、償還請求権は時効によって消滅します。ですから、井戸を掘った金を払ったのが一〇年以上前で、その後Aからその費用の償還請求をうけあ なたが払うといわれていないかぎり、この費用については、時効を楯にとって、払わないですますことができます。
有益費は必要費とちがって、Aは地主に対し借地契約が終了してはじめて、その償還を請求することができるにすぎません。ですから、本問では、この償還請求権が時効にかかって消滅したとみる余地は、まったく ありません。しかし、その額、支払の時期については、必要費と有益費では大きなちがいがあります。必要費は、Aが支出した額そのものを一度に払わなければなりませんが、有益費については、次のような取扱が認められているからです。
まず、有益費は、借地契約が終了しなければAの方から償還請求できませんし、その額が多いときは、終了と同時に地主の方でそれを一時に支払わなければならないとすると、たいそう困るときもあるので、地主の方からそのことを申し出られれば、裁判所は地主のために償遠の時期を延ばすことができる、とされています。ふつう、必要費、有益費の償還をうけないとき、Aは土地を明け渡すのを拒むことができるのです が、期限が許与されたときは、Aは全額の償還をうけていなくても、明渡しを拒むことはできません。
また、地主が償還しなければならない額は、Aが実際に支出した金額、または、土地の価格の現実の増加順のどちらかであり、地主の方でそのいずれかを選ぶことができます。ですから、この選択ができるようにするため、Aは、支出した費用の額と現実の増加順とを立証しなければなりませんし、これをしないときAは、土地の引渡しを拒むことはできません。
必要費、有益費の償還義務を免除したり軽くする特約があるときに、つねにこのような特約を有効とみることができるかは、かなり問題です。特に賃借人がつけ加えた物を賃貸借終了時に収去する義務を賃借人が負う旨の、償還請求権放棄の特約は、その物を社会通念上撒去することが不可能であると認められるときは、無効であるとされています。ですから、この種の特約の効力は、いちじるしく制限されている、といえます。したがって、本問では、仮に特約があったとしても、前述の結論は変わってこないでしょう。

土地
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