債務不履行による解除と買取請求

四〇年ほど前に所有地を貸し、借地人はその上に長屋を建てて十数世帯の人々に貸家していました。長屋が古くなって家賃の上りもはかばかしくないせいか、借地人はここ数年地代を払いませんので、契約解除の通知を出しましたところ、借地人は、解除されるのは仕方がないが、長屋を買い取ってくれと申入がありました。老朽化した長屋なぞ買い取ってもどうにもならず、本当は長屋を取り払って、アパートでも建てたいのですが、その気配を察して、長屋の連中は、借家人組合とかと一緒にさわぎ立てています。どうしたらよいでしょうか。
借地人がその債務不履行とりわけ地代不払いのため契約を解除された場合における建物買収請求の問題ですが、ついでに、この借地人から長屋を借りている人たちはどうなるかについても少し説明しましょう。
判例は、借家人の造作買取請求権の場合をも含め、ずっと一貫して債務不履行者の買取請求権を否定してきています。すなわち、大審院には、借他人が毎月払いの地代を一年分滞納したため解除されたケースにつき、もし買取請求を認めるならば、地主に買い取る気持や資力がないときには「借地人が如何に債務の不履行を為すも貸他人は契約を解除することを得ざると事実上同一の結果となり法律の精神に反する」とする例などがあり、最高裁にも、同じく地代を二年数カ月滞納したため解除された事案に関し「借地法四条二項の規定は誠実な借地人保護の規定である」という理由によって、借地人の買収請求を否定したものがあります。したがって、数年間も地代を滞納したため契約を解除したという本問の場合には、借地人から買取請求がなされても、地主はそれを蹴って差支えありません。ただ、続けて説明しますように、借他人の地代不払いが背信行為とならない特別の事情ありということになれば、借地契約の解除そのものが許されませんが、本問ではそういう問題を生じる余地もありません。

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この判例からもおわかりでしょうが、借地人の債務不履行にもとづく契約解除に対して建物買収請求がなされたという事件をみますと、いわゆる債務不履行の中味は、すべて賃料の不払い、滞納になっています。およそ賃料の支払は賃借人にとって最も基本的な義務の一つですから、しょつちゅう地代を滞ったり相当の期間にわたって払わない借地人が、契約を解除されたうえ建物買収請求権まで否定されても、ある程度はやむをえないことといえましょう。不払いの程度、状況によって買取請求だけは許すことも考えられます が、判例は、みましたとおり、そういう例外を認めるような形勢にはありません。
ただ、賃料不払いにもかかわらず契約解除を許さないという場合が認められるならば、借地関係は継続するので、追い出されたあげくの建物買取請求という問題自体が生じないだけでなく、そういうときには、その後における建物買収請求権もあると考えられます。問題は、どういう場合がそれにあたるかですが、借家のケースにおいては、四ヵ月分の家賃不払いがあったにもかかわらず借家人にいわゆる信頼関係を破るほどの不誠意はないと認められたため、家主からの解除を許さなかった判例があります。これは、家主が負担すべき修繕費を借家人が支払っていて、賃料と差し引けると思っていた事案ですが、借地の場合でも、地代の不払いが背信行為にあたらない特別事借ありと認められれば、やはり解除はできないわけです。もっとも、借地の関係では、地主の行動、態度にもとづき賃料の不払いが正当づけられるような場合は、あまりないと思いますが。
この問題は、賃料不払い以外では、どういう場合に債務不履行としての借地契約解除が認められるか、また、解除できる場合には、同時に建物質取請求も否定されるか、という二股にわかれます。なお、借地権を無断で譲渡、転貸したときにも、解除が問題になってきますがこの場合は建物取得者に建物買取請求権が認められますから、ここでは言及しません。
さて、第一の問題につき、普通に考えられますのは、いわゆる用方遵守義務に違反したことを理由とする借地契約解除の場合です。この用方違反のうち、無断ないし禁止特約違反の増改築については、別の解説にゆずりますが、そのほかでも、例えば借地人が隣接する土地へまたがって建物を建てたため、地主の店舗経営上たいへんな支障をきたすという本案において、用方違反を理由とする解除が認められた判例などがあります。借地人のこういった用方違反は、もちろん彼の債務不履行になります。したがって、第二の問題つまり建物質取請求ができるか否かも、判例の立場では、債務不履行によって解除された不誠実な借地人ということで、消極に解されましょう。
債務不履行に関連して一、二つけ加えますと、建物滅失彼の再築が用方違反であるときは、更新拒絶のほかに解除が重なって現われ、後者に関して建物買取請求ができるか否かという問題を生じます。また、借地人が、解除されてやむをえない債務不履行をたまたま期間満了の直前にした場合、地主の更新拒絶に対して建物買取請求をなしうるか、という問題も考えられます。この場合は、地主のほうで実は債務不履行による解除もできる事情があるということを証明したら、おそらく買収請求は認められないでしょう。
借地人が、ここにみましたように、債務不履行者として建物質収請求はできないで建物収去、土地明渡しをしなければならない場合、長屋に済んでいる十数世帯の人たちはどうなるでしょうか。彼らは、借地人の所有する建物を彼から賃借しているのであって、貸し借りの目的物自体をまた借りしている転借人とは違いますが、似た状況にはあります。むしろ、借地権が消滅した場合の地位を問題にするならば、地主と無関係である点が転貸借よりずっとはっきりしています。したがって、少なくとも、適法転借人が受けうる保護以上のものを借地上建物の賃借人に与えることはできません。そこで、転貸借でいえることは、この問題に関するかぎり借地上建物の賃貸借でも当然にいえるという意味において、転貸借の判例も使いながら説明していきます。
問題は、三つの場合にわかれます。まず、借地権の消滅が地主と借地人の合意解除による場合は、借家人に背信行為があるといった特別の事情でもないかぎり、借家人は出る必要がありません。この点は転 貸借でも同様です。次に、借地権が期間満了で消滅した場合については、転貸借のケースしかありませんが、特別の事情がないかぎり転借人は明け渡さなければならない、とされています。最後は、本問のように、借地人の賃料不払いなど債務不履行にもとづいて地主が契約を解除し、借地権が消滅するといった場合です。判例は、大審院当時から転貸ケースについて、転貸借も終了するとしてきていますが、最高裁には、転借地人から借家している者が、転貸借は解除がなければ当然には終了しないと争ったケースについて、借家人を敗訴させた事例もあります。
したがって、長屋の人たちは、地主が借地契約を適法に解除している以上、借家契約の解除がなくても立ち退かなければならないことになりましょう。その人達としては、地主の明渡請求が信義則に反すると主張するか、あるいは解除が偽装のもので実は合意解除だと主張、立証するしか方法がありません。しかも、後者は証明が必ずしも容易ではなく、また、前者の方法は成功度を予測することが困難です。

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