再築建物の買取請求

三〇年前に私の店に隣接する所有地の空地をAに貸し、Aは小さな店舗を建てて商売をしていました。Aの商売はなかなか好調で、何カ所かに出店を作り、営業の主力はむしろ他の店舗にあるようです。三年ほど前に、貸地上の店が火事で焼け、Aはさっそく今までよりずっと立派な店を建てはじめました。貸地の期間の残りも少ないことですので、せいぜいバラックぐらいにしておくようにAに申し入れましたが、Aはそれにかまわず、店舗を建ててしまいました。今年でちょうど貸地の期間も切れますので、土地を返してもらい、私の店を拡張したいと思い、Aに交渉したところ、返してもよいが、建物と営業権と借地権の代金合計三〇〇〇万円をよこせという申入がありましたが、この場合は払わなければならいのでしょうか。
借地の期間が切れる前に建物が滅失したときは、その原因が自然的か人為的か、借地人の意思に よるか否かにかかおりなく地主は、残った期間をこえて存続するような建物を建てるのに対し、異議を述べることができます。この異議は、遅滞なく述べられなければなりませんが、本問では、Aが立派な店を建てはじめたので、せいぜいバラックぐらいにしておくよう申し入れられたのですから、有効に異議を述べたことになります。
ところで、有効な異議があれば、借地権は最初約束した期間を過ぎると、一応消滅することになりますが、だからといって、借地人が残存期間をこえて存続する建物を建てられないわけではありません。もっとも、この建物の築造、が用方違反になる場合は、契約を解除され建物を取り除かねばなりませんけれども。

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土地

地主の異議にかかわらず、これを無視して新しい建物を建てた場合に、当初約束した期間がすぎて借地権が消滅したとき、借地人には買取請求権がない、と説く判例もあります。しかし、社会経済的にみれば建物を取り壊すのは、大きな損失であるとして、学説はおおむね買取請求権を認め、これと同じ考えを述べる判例もみられます。地主からみれば、Aの横車がまかり通るように思われるでしょうが、多くの学説は、それよりも建物が大切だとか、借地人の保護をできるだけはかるのが必要だとかいう理由で、Aの買取請求を認めるようです。
おそらく、訴訟になればAの買取請求は認められる、と思われます。ただ、その際にも、もとの建物ならば安く買えたのに、立派な建物を新築されたためその額が大きくなり、買受資金に困った地主が、心ならずも引き続き貸すのを余儀なくされるというのでは、あまりに不公平だから、時価は、現在の新建物のそれではなく、旧建物が滅失せずにいままで存続したならば有し得たであろう時価によるのだ、とするのが、圧倒的に多い考え方です。しかし、判例もないようですし、ごく少数ですが、時価は新建物を基準として定め、それによって予期もしなかった多額の代金を支 払わねばならない地主の不利益は、新旧両建物の時価の差額の範囲内で、裁判所が地主に支払を猶予する期限を定めることによって埋め合わせればよい、という考えが、有力な学者によって提唱されていますから、絶対に、裁判では旧建物の時価によると判断されるとは保証できません。
建物を地主が買いとらなければならないことは、ほぼ確実ですが、営業権や借地権はどうでしょうか。借地権については、あとで詳しく説明することとして、ここでは、営業権について考えてみましょう。こ の点について判例はないと思われますので、借家に関する判例を手がかりにして考えます。
営業権と一般にいわれていますが、所有権や借地権や抵当権などと同じような意味での権利はないのでして、それは法律的にいえば、営業上の価値とか場所的利益ないし老舗のようなものです。借家関係については、借地法の建物買取請求権に相当する造作買取請求権の客体に、これらのものがなりうるのかどうか、というかたちで問題とされます。判例は、ずっと変わりなく、無形の造作は造作とはいえない、という態度をとり、その買収請求を否定しています。借家法五条の規定の趣旨と、家主に過重な負担を強いることになるから、というのがその理由です。
借地の場合、建物を壊さないという社会経済的要請からだけいえば、いわゆる営業権の買取りは問題になりませんが、借地人の投下資本の回収という点からみれば、買取請求を認める余地も十分でてきます。しかし、他方、地主の側の負担も無視できないでしよう。例えば、Aが有名な和菓子屋であり、地主の商売が呉服商であるとしますと、和菓子屋の老舗、営業上の価値は、あなたにとっては、一文の価値もありません。それでも、それらを買い取らなければならないとすると、不公平もいいところだ、ということになりましょう。ですから、借地人の営業権を地主が利用するというような例外的な場合を除いて営業権はふつうは買取りの対象にならない、と考えられます。ただ、建物と不可分とも考えられる場所的な利益は、買取りの対象となると解されますがこれはむしろ借地権の買取りと関連して問題とされるべきものです。
結局のところ、本問では、建物は旧建物の時価を標準として買い取らなければならず、営業権は、それが建物を買い取った結果地主に利益をもたらすとき以外は、買い取る必要はない、借地権は買い取らなければならない、ということになるでしょう。三〇〇〇万円になるかどうかは、鑑定士に鑑定してもらいましょう。

土地
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