建物のないときの買取請求

四〇〇坪ほどの所有地を貸し、借地人はそこに立派な邸宅や庭園を作り暮らしていましたが、先年、火事を出して家は全焼し、借地人も焼死し、家族は田舎にひっこんでしまいました。今早秋には、ちょうど借地の期間も切れますので、土地を返してもらい、分譲でもしたいと思います。家は焼けてしまったのですが、立派な門や堀や植木、築山、井戸などがあります。土地を返してもらう場合、これらの物の処置はどうしたらよいのでしょうか。
借地上に建物がなく、借地人所有の物件だけがあるときは、一見したところ、借地法四条一項や六条二項が借地上に建物のある場合にだけ借地権者の地位を強化しているのだから、建物があってこそ、それ以外の物件も買取りの対象になる、と考えられそうです。しかし、条文の規定からみて、建物以外の物件を除外する理由もなく、また、立派な門や塀ないし下水道などが残っているときは、地主もこれを利用できるわけであり、社会経済上も、これらを壊すことは妥当てはないため、買取請求の対象になる、と解したほうがよいと思われます。

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土地

建物以外で買取りの対象になるのは、借地またはその上の建物の使用について、普通一般的に必要であるかまたは使益を与えるもの、と解されています。本問の立派な門や塀は、したがって、当然地主の方で、借地人の家族、借地権の相続人の請求があれば、買い取らなければなりません。
しかし、コンクリート舗装や築山のように、独立性が少なく土地の一部になってしまっているようなものは、借地人がこれを付け加えたとしても、その瞬間に自動的に地主のものになっているのですから、これを地主に買い取らす、ということは問題になりません。これらは、民法六〇八条の定める有益費、つまり目的物(借地)の価値 を客観的に増加させるために借地人が支出した費用、または、必要費、すなわち、借地を通常の用法に適する状態で保存するために支出した費用の償還請求というかた ちで、他主に埋合わせしてもらうことになります。
門、塀が建物買取請求の対象となり、築山、井戸が費用償還請求の対象となることに、疑いはありませんが、植木はどちらになるか、やや微妙です。しかし、植木は借地人が借地に植えたときは、民法二四二条但書により、地主のものにならないとみられますから、買取請求の対象になりましょう。ところで、築山、井戸をつくるのに支出した費用が、必要費か有益費かが問題になります。庭に築山をつくることは、建物所有のため土地を利用す るのに必要ではありませんが、普通には、築山があれば土地の値うちが上がる、と考えられますから、これに要した費用は有益費といえます。これに反し、井戸はやや問題です。じめじめした窪地を建物所有の目的で借りた借地人が支出した盛土費用や、電灯、水道などの施設費が必要費とされている点から考えて、井戸掘りのために 支出した費用は必要費とみるべきでしょう。水道設備が完備しているうちに井戸を掘り、それが築山の維持に不可欠であるというような、よほど特殊の事情がなければ、単なる有益費にはとどまらない、と思います。
必要費は、借地人がこれを支出したとき、ただちに他主に対してその全損の償還を請求することができる反面、その後経済事情の変化により価格が上がっても、増加した損の請求はできません。これに対し、有益費については、契約終了後でないと償還請求は認められず、その損が大きいときは、他主に一時ではなくいつまでに償還せよ、と裁判所が命じることができます。また、地主は、賃借人が事実上支出した損か、現実の土地の増加額かのいずれかを、選択できます。
土地の価格はいちおう客観的に存在しますが、利用目的によって現実には左右されます。分譲することになれば、築山は壊さなければならず、立派な門、塀や樹木も邪魔になるだけ、という事態も考えられますが、そのような特殊な事情ないし地主の気待をくみいれますと、買取請求や費用償還請求を認めた趣旨が、たやすく破られてしまいますから、やはり、客観的に定まる評価にしたがって処理すべきでしょう。もっとも、そうすることが、社会経済的見地からも好ましいかどうかは、はなはだ疑問ですが、亡くなった借地人の正当な相続人から、その旨の申出があれば、地主は門と塀および樹木を時価で買い取らねばならず、築山については有益費を井戸については必要費を返す必要がある、と考えます。そのさい、相手の方は、有益費支出額と増加順の二つを立証しなければならず、地主が、そのうち有利な方を選べること、および、必要費の償還請求は、井戸を掘ったときからできるわけで、その時から地主が払う事を承認したことがなければ、その後一〇年たつと、相手の償還請求権は時効にかかって消滅していること、を念のため申し添えます。

土地
借地関係の終了/ 借地明渡請求の正当事由/ 借地の営業上利益の衝突/ 居住の必要性の衝突/ 借地人の必要性の稀薄/ 環境に不適合な借地利用/ 新地主による明渡請求/ 建物のない借地と期間満了/ 地主、借地人間の感情の対立/ 借地人の破産と借地権/ 更新料と立退料/ 明渡請求のない場合の買取請求/ 買取請求の対象/ 建物のないときの買取請求/ 二つの土地にまたがる建物の買取請求/ 建物の共有者の一人の買取請求/ 再築建物の買取請求/ 合意解消と買取請求/ 債務不履行による解除と買取請求/ 契約解除と建物譲受人の買取請求/ 抵当権の負担ある建物の買取請求/ 借地上建物の買取価格の計算/ 建物買取代金の不払い/ 明渡判決確定後の建物買取請求/ 借地人の必要費と有益費の償還/ 借地訴訟事件/ 借地非訟事件とその手続の特色/ 借地非訟事件の手続と費用/ 鑑定委員会/ 土地明渡しの即決和解/ 土地明渡の調停/ 地代滞納と仮処分/ 土地買収と借地権/ 区画整理と借地権/ 国有地の賃貸借/ 公園の一部を借りている場合/

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