買取請求の対象

海岸沿いの所有地をAに貸し、Aは木造船工場を経営していますが、近頃ではAは町はずれの海岸に別に土地を買い、工場の主力をそちらへ移し、旧工場はあまり使っていません。ちょうど本年暮には借地期間も満了するので、土地を返してもらいたいと思います。Aに交渉したところ返してもよいが、借地上の事務所、工場をはじめ、船台やウィンチなど一切の設備を買い取ってくれ、といってきました。そんな物を買わされても、こちらではなんの役にも立たないのですが、やはり買い取らねばならないのでしょうか。
建物買取請求の制度は、これによって借地人が借地上に投下した資本を回収し、そのえた金銭を別の土地で運用できるよう配慮するため、認められたものですし、また、国民経済全般の立場からすると、まだ、社会的にみて利用すべき建物などを取り壊すのは、損になるから、できるだけ存続させる必要かあるわけです。ところが、本問では、借地人Aが工場の主力をよそへ移し、借地上の旧工場はあまり使っていない、というのですから、仮にAが事務所、工場や船台に投資した資本が計算上完全に回収されていないとしても、これを完全に回収することは将来も可能とはいえないでしょう。そして、国民経済的観点からしても、このような土地に本造船工場を存置する必要があるといえるかは疑問です。そうすると、Aがこれらのものを買い取らせることができるのなら、いわば、Aはあまり正当といえない利益をうることになります。
地主の立場では、建物質取請求があった場合に、地主がこれを拒むことができないとしたのは、建物などを時価で買うのだから、地主に不利益をおしつけるものではない、と考えられたからです。ところが、本問では、地主にとって、まったく役に立たない工場設備一切を買え、というのですから、不利にならないとは、決して言えませんし、しかも、その工場の利用価値自体があまりないというのでは、お話になりません。

スポンサーリンク
土地

地主の寺院から、製材業を営むために借地した商店が、借地関係の終了に当たって、地主に、その営業のために備えつけた運材軌条一条約三五メートル、自動目立機一式、大丸鋸一式の買取りを請求した事案について、下級審判決は、次のような理由で、請求を認めませんでした。「借地権者からいえば、投下資本の全部の回収、従って借地権者が土地に附属させた全物件が望ましいわけであるが、買取請求制度は借地権者の利益のみを図るものではなく、一面において社会経済上の効用の発揮をも目的とするものであるところ、主として借地権者の個人的趣味を満足させるものや、その企てた特殊の目的にのみ適合するもののごときは、それと同じ趣味や目的を有する者はしばらく別とし社会的客観的観点からすれば、便益を加え価値を増殖しているものとは認めがたいからである」この判例からしますと、本問では、船台やウインチなどは買う必要はないが、事務所、工場は建物にちがいありませんから、買わなければならないことになりましょう。その理由は、建物は、現存しているということによって、社会経済上有利とみられていること、かりに、建物への投下資本が計算上すでに回収されていたり、または、回収することができないとわかっていても、建物の現存しているかぎり、その価値はゼロとはいえず、特価の分だけは、まだ投下資本の回収はない、と考えられているからでしょう。多くの学説の説くところも、建物だけは買取請求の対象からはずれない、ということに落ち着きます。したがって、原則として事務所と工場だけは買い取らなければなりますまい。おそらく時価は低いと思われますので、そう考えても、あなたに非常に不利益になる、とは思えません。逆に、Aがそれらを取り除かなければならないとしたら、Aの出費はかなりの額に及ぶでしょうから、この結論にも、それ相当の根拠がある、と考えます。
仮に、Aがこれまで旧工場の操業により投資した資本を十二分に回収できたとか、回収できなかったとしても、その工場が木造船工場以外に使用することができない構造をもつとか、地形上これを他のメーカーなり倉庫会社などに貸すことが、当分期待できないような事情があるときは、工場ないし事務所の買取請求も認めるべきではないと思います。現行の借地法四条や一〇条の規定からしますと、どうしても建物である以上、これを除外することはできないから、買取請求権の濫用という構成をするよりほかに道はありません。しかし、このように説く判例も学説もないようですから、私見がどの程度裁判所に通用するかは、保証のかぎりではありません。ただ、論理的には、いかなる権利もその行使の仕方によっては濫用になるのですから、権利濫用が建物質取請求権の場合にも問題となりうることは、確かでしょう。判例にも、建物買取請求権が権利濫用でない、としたものはあります。
ようするに、まず絶対買わなければならないのが事務所、買わなければならない可能性が高いのが工場、質わなくてよい のが船台、ウインチということになります。

土地
借地関係の終了/ 借地明渡請求の正当事由/ 借地の営業上利益の衝突/ 居住の必要性の衝突/ 借地人の必要性の稀薄/ 環境に不適合な借地利用/ 新地主による明渡請求/ 建物のない借地と期間満了/ 地主、借地人間の感情の対立/ 借地人の破産と借地権/ 更新料と立退料/ 明渡請求のない場合の買取請求/ 買取請求の対象/ 建物のないときの買取請求/ 二つの土地にまたがる建物の買取請求/ 建物の共有者の一人の買取請求/ 再築建物の買取請求/ 合意解消と買取請求/ 債務不履行による解除と買取請求/ 契約解除と建物譲受人の買取請求/ 抵当権の負担ある建物の買取請求/ 借地上建物の買取価格の計算/ 建物買取代金の不払い/ 明渡判決確定後の建物買取請求/ 借地人の必要費と有益費の償還/ 借地訴訟事件/ 借地非訟事件とその手続の特色/ 借地非訟事件の手続と費用/ 鑑定委員会/ 土地明渡しの即決和解/ 土地明渡の調停/ 地代滞納と仮処分/ 土地買収と借地権/ 区画整理と借地権/ 国有地の賃貸借/ 公園の一部を借りている場合/

       copyrght(c).土地の買い方ガイド.all rights reserved

スポンサーリンク

プライバシーポリシー