新地主による明渡請求

二九年前に繁華街の一角を借地して、喫茶店を建てて営業をやっています。先月、隣のデパートが地主からこの土地を買い受け、来年は期限だから明け渡せ、といってきました。先方は、代わりにデパートの中で契茶室をやらせてもよいとか、裏通りのデパート所有地をやるとか申しますが、どちらにしても、私たちの営業にはかなりの打撃になると思いますが、法律上も明け渡さなければならないのでしょうか。
土地所有権の譲渡によって地主が変わったとき、借地関係はどうなるでしょうか。借地権が地上権であるときは、新地主は地上権の負担のついた土地所有権を取得したことになり、借地関係は当然に存続します。借地権が賃借権であるときには、土地所有権の移転だけでは貸地人としての地位が当然には新地主に移転せず、新旧地主の間にそのための合意がなければなりませんが、新地主から借地人に対して地代の請求をしたり地代値上げの交渉をしたりすればこの合意があったものとされます。そのうえにさらに借地人の承諾が必要であるとする学説もありますが、これはいらないというのが有力な学説であり判例でもあります。もっとも、借地人の方で賃貸人の地位の移転を認めないということはできますが、そうすると新地主に対しては不法占拠者になってしまいますから、通常はそのようなことは考えられないでしょう。
新地主に対して借地人が借地権をもっていることを主張するためには、その借地権について対抗要件にそなわっていなければなりませんが、おそらく建物について登記があるでしょうから、この点は大丈夫だと思います。新地主が、自分が貸地人になったことを主張して、借地人に地代を請求したり契約を解除したりするのに、所有権移転の対抗要件が必要であるかについては、説が分かれていますが、判例は必要だとしています。デパートはこの点おそらく手落ちはないでしょう。

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土地

正当事由の有無の問題はさておいて、そもそも新地主は借地人に対し更新拒絶ができるか、という問題があります。しかし、本問の場合は、地主が変わってから後に存続期間が満了し、また借地人からの更新請求をまたずに、新地主であるデパートがあらかじめ更新拒絶をしているわけですから、問題はありません。借地人が旧地主に対して更新請求をした後に 地主が変わった場合には、更新請求を受けた相手方でない新地主が更新を拒絶する権利をもつか、という問題があります。これについては、新地主は土地所有権とともに更新拒絶権を受け継ぎ、土地所有権取得についての対抗要件をそなえているかぎり有効に更新拒絶ができる、と考えられています。借地法六条の異議についてもほぼ同じように考えてよいでしょう。
新地主から明渡しを請求したときの正当事由の有無も、まず地主、借地人の必要度を比較して判断すべきことに変わりはありません。その場合に、地主が変わったことはどのように認定基準に影響するでしょうか。借地関係で新地主が更新を拒絶した場合に関しては、下級審判決が二つあります。その一つでは、新地主が宅地ブローカーで他に土地家屋を求めることは困難ではないことと、その土地の他への転売を容易にするために明渡しを求めているのであること、の二点が決め手となって正当事由なしと判決されています。他の一つでは、牛肉商を借家で営んでいる新地主が、現在の店舗が手心まであり家族の一部は別居している、次男に嫁を迎えたい、家主から明渡しを求められている、というようなかなり程度の高い必要性を示していますが、借地人であるバス会社の、車庫を他に作ることが困難で経済上も大いに不利であるという事情の方がより高い必要性を示すものとして、やはり正当事由なしと判決されています。いずれも新地主に正当事由なしとの結論になっていますが、新地主であることがこの判断にどれだけの比重を占めているかは、明確でありません。
これに対して、借家に関する判例では、新家主からの解約申込については、新家主であるということ自体が、正当事由の認定において家主側に不利な事情と考えられているようです。それは、旧家主のものとではいちおう安定した生活を営んでいた借家人が、旧家主よりその家屋に対する必要度の高い新家主に変わったという、彼自身には全く責任のない偶然の事情で居住をおひやかされるのは妥当ではない、という考慮にもとづくと考えられ、学者も大体賛成のようです。借地関係の場合にもこれと大体同じことが考えられますから、借地人の立場はきわめて有利だと思います。
借家に関する判例では、新家主があらかじめ借地人の事情を聞くこともなしに家を買ったとか、借家人のために明渡し後の住居を確保してやらなかったということが、正当事由を否認する強い理由とされています。逆に、旧家主からの明渡請求に対して借家人が半年ぐらい待ってくれといったので、半年後には明け渡してもらえると信じて家を買った場合には、正当事由が認められており、また新家主が適当な移転先や相当な立退料を提供している場合には、正当事由が認められやすいと考えられます。しかし、新家主がこのような処置を講じなければ絶対に正当事由が認められないのではなく、新家主が現在住んでいる借家の明渡しを求められているなど、その必要度がきわめて高くて、新家主であることの不利をカバーしてあまりある場合には正当事由が認められています。
新地主からの更新拒絶または異議申立の正当事由の有無についても、このような基準はほぼそのまま採用してよいものと思われます。したがって本問の場合は、普通ならデパートに正当事由があるとは認められがたいのですが、デパート側が現在他に匹敵するような代替地を提供したり、あるいはそのような土地を見つけて買うなり借りるなりできるだけの立退料を支払うと約束したような場合には、正当事由が認められる可能性が全くないとはいいきれません。
このように新地主が不利な立場に立つのは、あなたの場合のように、地主がはじめから借他人を立ち退かせてその土地を使う目的で買った場合です。買った当初はそのつもりがなく後になって新地主に自己使用の必要性が生じた場合などは、通常の基準で正当事由の有無が判断されます。ただし、存続期間が必ず定まっている借地関係の場合には、そのようなケースはあまりないと思われます。

土地
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