環境に不適合な借地利用

三〇年前のまだ農村だった頃に所有地が一〇〇〇平方メートルほどAに貸し、Aはそこに居宅と養豚場を作って、今日まで生活しています。一〇年ほど前からこのあたりはすっかりひらけて、住宅地になりました。近所の人々から、苦情がくるために、私も交渉したのですが、Aは生活がかかっているといい、一向にやめる気配は見えません。ちょうど今年で借地期間も満了ですから、明け渡させてアパートでも建てようかと思いますが、どうなのでしょうか。
住宅地の中で養豚業が営まれることは、たしかに衛生の点からも臭気などの点からも、近所の人達には大変な迷惑だろうと思います。近所の人の中には地主でのところへいささか見当はずれな文句をいってくる人もあるか心知れませんし、地主としてなんとなく肩身のせまい思いをしておられるかも知れません。しかし、そのことは借地法における正当事由の有無の認定を必ずしも左右するものではありません。

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土地

更新の拒絶または異議の申立に正当事由が認められれば、地主は土地の完全な所有権を回復しうることになり、正当事由が認められなければ、Aは以後少なくとも二〇年間または建物が朽廃するまでの借地権を確保することができるわけです。このように正当事由の有無は、地主、借地 人の双方の経済的利害にきわめて大きな影響をもつことになります。もともと借地法四条や六条は、存続期間の満了によって借地権が消滅するはずのところ、借地人の生存権や財産権を保護するために契約更新が成立しやすいようにしたものであり、さらに正当事由の要求はこの保護を一層強化したものです。したがって、正当事由の 有無は原則として地主、借地人双方の居住利益または営業利益の比較によって決せられることになります。借地人の借地利用の態様は、それ自体としては居住利益にも営業利益にも関係のないものですから、堅固でない建物の所有を目的とする借地条件に反して堅固な建物を建てたとか、土地に回復することのできない損害を加えるような使用であるとかいうように、用方違背に当たるのでないかぎり、原則として正当の事由の認定にプラスとなるべきものではないと考えます。借地を養豚場として使用することは、臭気などの点から、土地の経済的価値を害する結果をもたらすかも知れませんが、もともとこの土地は農村だったそうですから、現在住宅地になっているからといって、用方違背だとはいえないでしょう。ことに、地主の方にはこの土地を利用しなければならない居住または営業上のさしせまった必要性はないようですから、正当事由が認められるのはきわめて難しいのではないかと思われます。
もし、この土地を必要とする程度がかなり高ければ、このような事情は正当事由の認定に若干プラスすることになるかも知れません。また、周辺が住宅地となった現在ではその土地は養豚場としては必ずしも経済的にも適切でなくなったというような事情があれば、正当事由が認められやすくなるでしょう。しかし、単に近所の人達が迷惑しているというだけでは、正当事由にはなりません。
しかし、借地法八条の二の趣旨からすると、借地人の土地利用方法が周辺の環境にあまりにも適合しなくなったときには、公共的な見地から、環境に適合するような利用がなされるための処置がとられるようになっていくかも知れません。借地法八条の二は、さし当たり、たとえば都心地において周辺が高層ビル化したのに一軒だけ木造の低階層家屋が残っている場合などを考えているようです。そしてそのような場合に、環境に適合した土地の高度な利用ができるようになる法的な手段を借地人に与えたもののようです。しかし、借地法八条の二第一項の借地条件変更の裁判については地主にも中立権が与えられているところから、地主、借地人のうちで、環境に一層適合的な利用をすることのできるものに土地の利用権を与え、他方がそれによってこうむる損害は適当に金銭的に補償せしめるのが、同情の立法趣旨だとも解されます。
現在のように都市の膨脹、都市周辺部の都市化、農地の宅地化か進展している状況においては、本問のような問題はきわめてしばしば起こるものと考えられるので、借地法八条の二の趣旨をこのよう考えることができるとすればその類推によって、Aさんの土地使用方法が正当事由の認定に大きな影響をもつようになるかも知れません。
もし、更新拒絶や異議申立に正当事由が認められないことになりますと、Aさんの養豚揚が存続することになり、近所の人達はやりきれない思いをもち続けなければなりません。彼等としては全く処置なしなのでしょうか。これは一種の公害問題に属するので、ここで詳しく立ち入るわけにはいきませんが、一つの方法としては、不法行為として経済的、精神的損害の賠償を請求することが考えられます。しかし、もともと農村でAさんの養豚揚があったところへ後から住宅が建ったのですから、不法行為が認められるのは困難ではないかと思われます。
本来、この種の問題は保健行政ないし都市計画の観点から処理されるべきであり、このような公共的見地から見て養豚場の存在が許されるべきでない段階に至れば、行政権力によって解決されねばならないのではないかと思われます。

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