居住の必要性の衝突

現在の店舗は借家ですが、手ぜまで、商売にもさしつかえ、それに、去年から家主さんから明渡請求をうけています。他方、九九平方メートルほどの土地を前からAさんに貸しており、それが本年一〇月でちょうど期限になりますので、明渡しをお願いしました。Aさんは、この土地の上に六六平方メートルほどの家を建て、家族と住んでおり、低収入で他に財産もないので、行く先がないから、と言っています。しかし、当方でAさんの家を買い取ることになるはずで、その代金から新しく借家をする権利金ぐらいは、出せるはずだと思うのですが、明け渡さすことはできないでしょうか。
この土地に対してもっている必要は、営業のためのものと居住のためのものとの両方を含んでいるようですが、家主からの明渡請求のことなどを考えると、どちらかといえば居住の必要の方が中心で、営業の必要は補強的に作用するものと考えてよいようです。他方、Aさんの方の必要はもっぱら居住のためのものです。必要性の質という点からみますと、地主にとっても、借家人にとっても、居住のため の必要性があるというのは、営業のための必要性があるというのより有利です。
しかし、あなたの場合は双方ともに居住のための必要性があるというのですから、 この点では一応同等です。そでこ、双方の必要性の程度をもう少し詳しく検討してみましょう。

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土地

まず、現在住んでいる家の明渡しを、家主さんから求められているのはかなり有利な要素だと思われます。というのは、家主から明渡しを求められたときは借家人は誠意をもって移転先をさがす努力をなすべきである。これを怠ったときは借家法一条の二の正当事由があることになるというのが判例になっているからです。自分で土地を所有している人が住宅を見つけなければならない場合に、まず自分の所有地上に住宅を建てようとするのは自然だろうと思われます。借家法一条の二の場合は、宗主の自己使用の必要には家族のため の必要をも含むとされています。借地法についてははっきりした判例はありませんが、同じように考えてよいでしょう。ことにあなたの場合、商売の都合上現在の家では狭すぎるという市場があるようですから、この点での必要性も十分認められそうです。
次にAさんの方の必要性を検討してみましょう。Aさんのいわれるように、低収入で資産もないということであれば、この土地を明け渡してしまうと他に住居を求めるのが非常に難しいことは確かでしょう。Aさんの家を買い取る代金で新しく借家をする権利金ぐらいは出せるという考えですが、Aさんは現在自分の持ち家に住んでいるということを考えてあげる必要もあります。借地人がAさんのように小市民的借地人である場合には、正当事由ありと認められるのはきわめて困難です。本問の場合、あなたの必要度もかなり高いと思われますが、Aさんの方の必要度は非常に高く、正当本由ありと認められるのは難しいのではないかと思われます。
借地人が借地上に約五〇平方メートルの住宅を建てて家族六人で居住しており、低収入で他に住居を求める経済的余裕がないのに対して、地主は隣接する一五〇平方メートルの土地上に二階建の建物を有し、妻子八名と同居して建築請負業を営んでいて、居住と作業場建築のためにその土地が必要だとして、借地法六条の異議を述べたケースで、正当事由なしと判決されているのが、本問の場合にかなり似ており参考になると思います。
また、よく似たケースで、借家で牛肉商をしている地主である現在の店舗が手ぜまで家族の一部が別居しており、次男に嫁を迎えねばならず、家主から明渡しを求められている、ということを理由に更新を拒絶したのを、正当の事由なしとした判例もあります。
このように、居住の必要同士の衝突の場合には大体において借地人に有利だといわねばなりません。しかし、これも程度の問題で双方の必要度の比較で決まるものですから、どちらかの事情が少し変われば結果も 違ってきます。
例えば、あなたが単に家主さんから明渡しを請求されているだけでなく、明渡請求訴訟で負けたとか調停で明渡しの約束をしたとかいうように、早急に明け渡さねばならないことが確定的な場合や、あなたの現在の住居が現在の家族員だけでも極度に狭すぎるというような場合には、あなたの必要度はぐっと高くなります。また、Aさんが他に土地平家屋をもっているとか、相当の資産があるとかいうような事情があれば、正当事由の認められる可能性が増すこともいうまでもありません。
そのほか、一旦借地人の建物が朽廃し地主が異議を述べたにもかかわらず再築したとか、借地人は実際には土地を使用しておらず事実上借地権を無断で譲渡しているとか、借地人が地主に乱暴をするとか、借地人側に背信的とみられる行為があったときも、正当の事由が認められやすくなるでしょう。
地主が借地人に相当な立退料や適当な代替地を提供した場合、それだけでは正当事由があるということにはなりませんが、正当事由を認める方向への補強的な材料として作用します。借家の場合、家主が相当な代替家屋を提供したにもかかわらず借家人が家相が悪いといって拒否したとき、正当事由ありとした例がありますが、土地の場合も方位方角などを理由に拒否したときは同権に考えてよいでしょう。借地事件ではまだ判例が出ていませんが、立退料の支払と引換えに土地の明渡しを命ずる判決がなされる可能性も考えられます。どうしてもAさんに明け渡して欲しいと考える場合は、立退料を提供する必要があると考えられます。

土地
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