賃借人の地代滞納と転借人

借地を転貸する際に地主の承諾が必要なことは当然ですが、それでは、地主の承諾がえられた場合に、地主、借地人、転借人の三者間でいったいどのような効果が生ずるでしょうか。いま地主(賃貸人)を甲、借地人(賃借人、転貸人)を乙、転借人を丙として三者相互の関係をみてみましょう。
借地人(乙)と転借人(丙)の関係
乙丙間の関係は、普通の使用貸借(無償の場合)または賃貸借(有償の場合)と同様に考えてさしつかえありません。しかし、使用貸借の形態をとるのはごく稀ですので、以下では賃貸借の形態をとるものを対象としてみていきます。ただ、後に述べるように、丙が甲に対して直接転借料を支払うときは、その限度で乙に対する賃料債務を免れますし、また、甲乙間の賃貸借と乙丙間の転貸借とが同時に終了する場合には、丙が甲に目的物たる土地を返還すれば乙に対する返還義務を免れることになりますから、この点だけ注意を要します。なお、丙が甲から土地を購入して所有権を取得し、甲丙間の混同を生ずる例がしばしばありますが、その場合には乙の借地権が対抗力を有する場合はもちろんのこと、そうでないときにも、原則として丙は甲の乙に使用収益させる義務を承継し、乙の借地権は消滅しないと解すべきでしょう。
地主(甲)と借地人(乙)の関係
この関係は転貸借の成立によってなんの影響も受けません。後に述べるように、甲は丙に対して直接権利を行使することができますが、そのことは甲の乙に対する借地契約上の債権を行使する妨げとはなりません。したがって、甲は乙に対して賃料請求とか解除などを行使できますし、また逆に、乙は甲に対して保管義務を負い、丙の過失による借地の損傷についても責任を免れないことになります。
地主(甲)と転借人(丙)の関係
転貸について甲の承諾があれば、丙の土地使用権が甲に対する関係で適法となるだけであって、甲丙間に契約関係が成立するわけではありません。しかし、そうはいっても、実際に丙が甲所有の土地を使用、収益するわけですから甲の利益を保護する必要があります。そこで民法は「賃借人が適法に賃借物を転貸したるときは転借人は賃貸人に対して直接に義務を負ぶ」と規定しました。この規定は丙の義務を定めただけで権利を定めたものではないため、丙が甲に対して費用償還を請求することはできませんし、乙に敷金を差し入れた場合にその返還を甲に請求することもできません。ただ、賃料支払義務、土地の保管義務、借地契約終了の際の土地返還義務などの義務を負担するにとどまります。また、丙の転借権は乙の借地権の上に成立しているものですから、乙の借地権が消滅すれば、丙の転借権はその存在の基礎を失います。したがって、甲乙間の賃貸借関係が期間の満了または乙の債務不履行を理由とする解除によって消滅するときは、丙は甲に対して転借権の存続を主張することができなくなります。

スポンサーリンク
土地

丙が甲に対して負担する義務のなかでは、賃料支払義務が最も重要なものです。乙が賃料を支払わないとき、甲は丙に対して直接賃料を請求することになります。ただここで注意しなければならない点が二つあります。
第一は、丙の賃料支払義務の範囲が転借料と賃借料の双方の範囲内に限られるという点です。例えば甲乙間の賃貸借の賃料よりも乙丙間の転借料の方が高い場合には、甲は甲乙間の賃料額しか請求できません。両者の差額については、丙が乙に対する支払義務あるものとして残るのはもちろんです。また逆に、甲乙間の賃料の方が乙丙間の転借料よりも高い場合には、甲は乙丙間の転借料額しか請求できません。両者の差額については、甲は乙に対してしか請求できないことになります。
第二は、丙が、甲から賃料支払の請求を受けたとき、乙に前払いしたという事実をもって甲に対抗できないという点です。したがって、乙に前払いしている場合には、もう一度甲に弁済しなければならなくなりますから、二重弁済を強いられることになります。そこで、前払いかどうかはどの時点で決定されるかが重要な問題となってきます。学説には、甲乙間の契約の支払期とするもの、乙丙間の転貸借の支払期とするもの、および、丙が現実に使用収益する時期とするもの、の三つがありますが、二番目の学説が通説となっており、判例もこれにしたがっています。丙に二重弁済の危険をできるだけ負担させないようにする必要かおりますから、判例、通説の見解を妥当とすべきでしょう。乙が地代を滞納しますと、これは甲に対する債務不履行となりますから、甲は一定の期間を定めて支払を催促し乙がこの期間を脱退したときは甲乙間の借地契約を解除することができます。もちろん甲は、このような方法をとらずに、丙に対して支払を請求することができることはここに述べたとおりです。ですが、この場合も、地代の額が転借料の額を上回るときは、その差額について丙に請求できず、いぜん乙の支払義務あるものとして残ります。このような場合に、甲は乙の差額未納を理由に借地契約を解除することが可能かどうかが問題となりますが、その差額が僅少なときは、信義則により支払があったものと解するか、あるいは解除権の濫用の法理によって解除が否定されるのではないかと思われます。しかし、これは程度問題ですのでいちがいにはいえません。
いちばん問題となるのは、甲は地代の不払いを理由に、丙に催告することかく解除することができるかという点です。甲が丙に請求するのは権利であって義務ではありませんから、乙に地代の滞納があるときは、甲は丙に対して催告しなくても解除することができ、その効果は転借料を滞納していない丙にも及ぶことになります。このことからもわかりますように、民法六一三条の規定は賃貸人保護の規定であって、転借人の地位を強化するような意味をもっていません。そこで、学説の中には、丙の賃料支払義務を連帯債務に準じた特殊な債務ととらえ、乙に対して解除の意思表示をしただけでは解除は効力を生じないと解する見解もありますが、解釈論的には少々無理で、せいぜい立法論として、丙も催告の相手方とすべきであると主張できるにすぎないものというべきでしょう。

土地
借地上建物の処分/ 建物のない借地権の処分/ 急を要する借地権譲渡/ 借地権を近親者に譲渡する可否/ 借地権譲受人の地代支払能力/ 借地権の無断譲渡/ 譲渡担保と借地権譲渡/ 権利金と借地権処分の自由/ 残存借地期間の短い場合/ 借地条件の変更/ 建築請負人と借地権譲渡/ 借地の一部転貸と土地明渡請求/ 転借権の譲渡/ 転貸による借地人中間利得/ 転貸の承諾/ 転貸借の終了/ 賃借人の地代滞納と転借人/ 原賃貸借契約更新拒絶の正当事由/ 原賃貸借の期間満了と転借権/ 借地権の相続/ 借地人の内縁の妻と借地権/ 借地権の相続と遺産分割/ 地主の死亡と共同相続/ 借地関係継続中の権利義務/ 土地利用権の態様/ 借地上建物の賃貸と敷地/ 借地上建物の用法/ 借地上建物の種類の特約/ 借地建物条件の変更/ 借地上建物の無断改築/ 増改築禁止特約と増改築/ 土地用法の制限の効力/ 借地人の隣地通行/ 借地の不法占拠/ 借地権の取得時効/ 権利のない土地の利用/ 借地権消滅後でも借地人が立ち退かない/ 駐車場の利用権/ 屋上の賃借と借地法/ 区分地上権と借地人/ 借地の期間/ 建物の堅固、被堅固/ 短すぎる約定借地期間/ 建物の滅失と借地権/ 建物の朽廃と大修繕/ 建物の滅失と再築/ 借地契約の更新と保証人/ 地主が使うまで貸すという契約/ 賃借権での調停による明渡期間/ 短期賃貸借の更新/

       copyrght(c).土地の買い方ガイド.all rights reserved

スポンサーリンク

プライバシーポリシー