借地の一部転貸と土地明渡請求

宅地100坪を賃借して、住宅三戸を建てました。そして、そのうちの一戸に自分が住み、他の二戸を長男夫婦に住まわせ、残りの二戸を貸家にしてきましたが、今後のことも考えて、五年前に長男夫婦の住んでいる家屋を長男に贈与し、地主には引き続き全部の地代を、私が払ってきました。ところが、このほどこのことを知った地主から、私に対し内容証明郵便で、借地の無断転貸だから土地を明け渡してもらいたいと請求されました。この場合は地主のいうとおり土地を明け渡さなければならないものでしょうか。
借地権の譲渡とは借地権が従来の借地人(譲渡人)から誰れて譲受人に帰属することをいいますが、これと似て非なるものに借地の転貸があります。これは、借地人が地主より賃借した土地を、第三者との契約によってさらにこの者に貸与すること、つまり、借地権はなお従来の借地人(転貸人)に帰属させながら、これを基礎として転借人に土地を使用する権利(転借権)が新たに生ずることをいいます。したがって、土地を使用する権利を取得する側からいえば、前者は移転的取得であるのに対して、後者は設定的取得であるという相違がみられます。
転貸の場合も、譲渡の場合と同様、賃貸人たる地主の承諾を必要とします。それで は、地主の承諾をえない場合に、いったいどのような効果が生ずるでしょうか。いま地主を甲、借地人(転貸人)を乙、転借人を丙として、三者相互の関係をみてみましょう。

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土地

借地の転貸は乙と丙との転貸借契約によって成立しますが、転貸借という特殊な契約があるわけではなく、それは性質上、賃貸借または使用貸借の一種に属します。この契約が成立することによって、丙は乙に対する関係では有効に土地を使用する権利を取得します。甲の承諾の有無は乙丙間においては関係ありません。したがって、甲の承諾がなくても、転貸借が有償の場合には、乙は丙に対して賃料を請求できますし、また有償、無償の場合を問わず、乙は丙の土地使用を正当な権限にもとづかないものとして妨害排除の請求をすることはできないことになります。
乙が丙に借地を転貸しても、甲乙間の借地契 約には影響ありません。したがって、甲は乙に対して従来同様、賃料請求権を有し、その反面、乙は借地契約の終了の時まで善良な管理者の注意をもって目的物を保管し、終了と同時に甲に返還する義務を負います。しかし、甲乙間の関係で重要なのは、甲が乙の無断転貸を理由に借地契約を解除できる点にあります。もっともこの点につき、判例は、無断転貸があれば直ちに解除できるとは考えておらず、乙の無断転貸が甲に対する背信行為に該当するときにはじめて解除権が発生すると解していることは、借地権の無断譲渡の場合と同様です。転貸について甲の承諾がない以上、丙は転借権の取得をもって甲に対抗することができません。したがって、丙は甲に対する関係では不法占拠者となり、甲の土地引渡請求を拒むことができないことになります。ただこの場合に、甲が自分のところへ土地を引き渡せと請求できるかどうかが問題となります。もちろん、甲が無断転貸を理由に甲乙間の借地契約を解除したときは、甲は所有権にもとづいて自分のところへ返せという請求が可能なことはいうまでもありません。問題なのは、甲が解除しない場合です。判例は、この場合も、甲が自分への直接引渡請求を可能と解しておりますが、学説はおおむねこれに反対で、甲は乙への引渡請求のみができると解する見解が多数を占めています。
以上のように、借地の無断転貸は借地契約の解除権発生原因となるという重大な効果を生じさせます。とはいっても、乙から丙への借地の貸与が、ここでいう転貸に該当しないと考えられるような場合は、この行為が解除権発生原因とならないのはいうまでもありません。そこで、甲の承諾をえないことによって甲に解除権の発生する転貸とは、いったい、いかなる範囲のものをいうかが問題となります。この点について判例、学説はともに、転貸とは転借人が借地の全部または一部について独立の使用収益権を与えられている場合をいうものと解しています。したがって、借地人が第三者に借地の全部または一部を使用させても、その者が独立の使用権を与えられているとはみられない場合、例えば借地人が建物を建てて賃貸し、それに伴って借地をこの者に使用させるという場合などは、借地を転貸したこととはならないものといえましょう。このように解するならば、本問の場合、貸家とした部分の敷地については転貸とはならないことになりますが、独立の生計を営む長男に建物を贈与してその部分の敷地を使用させることは独立の使用権を与えたものと解せられますから、近親者であるという点をいちおう度外視して考えると、借地の一部転貸にあたるように思われます。
それでは、近親者に借地を使用させる場合はどうでしょうか。この基準からすれば、独立の使用権が与えられないかぎり、使用者が近親者であるなしにかかわらず転貸とはならないことになります。したがって、借地人が借地上の建物に近親者を同居させる場合とか、あるいは、借地に建物を建てて近親者に賃貸し、その土地を使用させる場合などは、いずれも近親者に独立の借地使用権が与えられていないと解せられますから、転貸とはなりえず、地主は借地契約を解除することができないものと思われます。問題なのは、近親者に独立の使用権が与えられている場合です。この場合に、使用者が近親者であるという理由だけで転貸とはならないと解することができるでしょうか。この点について、判例の態度はどうもはっきりしません。もっとも、借家の場合において転貸と考えられる間貸のケースで、近親者への貸与は解除権を発生させないという判例がいくつかあります。しかし、これらの判例の中で、近親者であるという理由だけで解除権の発生を否定しているのはわずか一件にすぎず、あとは、一時的同居であるとか、あるいは、事業を共同で経営しているなどの事情をも付加的に考慮して解除権の発生を否定しているようです。借家の間貸の場合と借地の転貸の場合とでは、同じ不動産の貸与でも、内容的にはかなりの相違がありますから、同一に諭ずることはできませんが、判例の趣旨からすれば、独立の使用権が与えられる以上、たとえ使用者が近親者であっても、近親者であるというただそれだけの理由で転貸を否定することは難しいのではないかと思われます。
もっともこれが転貸になるとしても、これによって地主に直ちに解除権が発生するものではなく、すでに述べたように、この無断転貸が地主に対する背信行為に該当する場合でなければ、解除権は発生しません。したがって、使用者が近親者であるという事実は、転貸の有無を判断する際にはキメテとはなりえませんが、地主に対する背信性有無の判断の際には、地主の解除権を否定するためのひとつの有力な資料として、借地人側に有利に作用する可能性はあるといえるのではないでしょうか。
仮に本問が無断転貸にあたるとしますと、これは借地の全部転貸ではなく、長男に借地使用を認めた部分だけの転貸、つまり一部転貸と解されます。そこでこの場合に、地主は一部の無断転貸を理由に借地契約の全部を解除することができるかどうかが問題となります。戦前の学説は、全部を解除できるということに争いがなかったのですが、戦後は、一部転貸の場合に、全面的に解除を認めるかまたは全く解除を認めないかの二者択一ではなく、転貸部分だけの解除を認めてもよいのではないかという説が現われ、かなりの支持を受けております。しかし、判例は、戦前、戦後を通じてずっと、賃貸借関係は賃貸人と賃借人との相互の信頼にもとづいて成立するものであるから、無断転貸はそれが借地の全部であると一部であ るとにかかわらず、他に特段の事情のないかぎり賃貸人に対する背信行為となるという理由で、一部解除を認めず、借地契約全部を解除できるという見解を固執していますのでこの点注意が肝要です。

土地
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