境界に無断で打たれた杭を勝手に抜くと

 Aさんの娘さんが所有する甲地の南西側と、Bさんが所有する乙地の北東側とはたがいに接し、相隣地となっており、Aさんは甲地を娘さんから使用貸借(ただで使う)して養豚業を営なんでいました。
 甲、乙両地は以前に、土地区画整理によって換地処分されたものです。両地が仮換地されて間もないころに、Bさんが境界杭を六センチほど甲地側に動かしたとして、両者の間に境界争いが起こりました。しかし、市の係員が換地確定図にしたがって現地測量した結果、境界杭の移動はないことがわかりました。
 ところが、AさんはBさんになんの相談もなく甲、乙両地の境界に塀をつくるため、コンクリート抗一二本を立て、その抗が乙地に三センチメートルないし九センチメートルくいこんでいたので、BさんはただちにAさんに抗議し、杭の撤去をもとめました。
 しかし、Aさんに拒否されたので、杭が立てられた日の三日後に人夫三人をやとって、まだ穴をほって立ててあるだけの杭一三本をぬきとり、それを甲地の豚小屋まえにならべておきました。

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 そこで、AさんはさっそくBさんを相手どって、不法行為にもとづく損害賠償請求の訴えを起こしました。
 境界線上に九センチメートルの厚さのあるコンクリート柱を立てれば、その厚さの半分の四・五センチメートルは乙地にくいこむのは当然で、Aさんには民法二二五条にもとづく囲障設置権(堀をつくる権利)があるから、乙地に四・五センチメートルくいこんでも違法はないと主張しました。
 そもそも、塀をつくるに際しては、まず隣家所有者にその協力を求めるべきで協力をもとめず独断で隣地にまたがる堀をつくることはできないのですが、AさんはBさんになんの相談もしていないので、裁判所はBさんの主張を認めませんでした。
 Bさんが一三本の抗をぬきとった行為は、はたして不法行為になるのでしょうか。
 甲乙両地の境界は界標により明らかで、しかも所有者とのあいだになんの争いもないのに、甲地の単なる使用借主にすぎないAさんが境界を知っていながら、あえて乙地にくいこんでコンクリート抗を立てたのは、明らかに違法な行為であること。
 Bさんが抗をぬきとった行為は容易になしうる行為で、それによりAさんに対して与えた損害は、せいぜい抗打ちのためにやとった人夫の賃金程度で、損害額が軽微であったこと。
 コンクリート杭をただちに引きぬかないと、その基礎がコンクリートでかためられ、堀がつくられてしまって、原状回復がいちじるしく困難になることが予想されたこと。
 抗が立てられてから三日後に、言葉をかえれば、侵害行為(違法な抗打ち)のすぐあとで抗をぬいていること。
 以上の事情があるから、Aさんの侵害行為をBさんが訴訟などの法的手段によらないで、自力で排除したのは、いわゆる「自力救済」となって違法性が阻却され、不法行為にはならず、したがってBさんはAさんに対して損害賠償の義務を負わないと判断して、裁判所はAさんの請求を退けました。

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