ビル賃借保証金の返還債務者は誰か

 AはB氏所有の貸ビルの一室を、期間五年間、賃料一か月二三万五〇円、敷金一三万三〇〇円、保証金六六四万四七〇〇円の約定で賃借しました。
 この保証金は、B氏が賃ビル建築のための借入金の返済にあてることを主な目的とする、いわゆる建設協力金であって、賃貸借契約成立のときから五年間は据え置き、六年目から毎年日歩五厘の利息を加えて一〇年間毎年均等の割合で返すという約束があった。その後、B氏は競落によってこの貸ビルの所有権をえて、所有権移転の登記もおえました。そこで、Aは新所有者であるB氏に対して、所有権の移転にともなって、賃貸人たる地位を受けついだのだから、保証金を自分に返す義務、いいかえれば、保証金返還債務もまた当然B氏が受けつぐことになる。したがって、保証金を返せ、と主張しました。

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 敷金とは、不働産とくに建物の賃貸借契約に際し、賃借人の賃料債務その他の債務を担保する目的で、賃借人から賃貸人に交付される金銭であって、契約終了の際に、賃借人の金銭債務で不履行のものがあれば、当然その額が減額され、債務不履行がなければ、全額が賃借人に返されるものを指します。
 賃貸借契約期間に建物の所有権の移転にともない賃貸人の地位が受けつがれた場合は、旧賃貸人に差し入れられた敷金は、未払い賃料を差し引いた残額について、その権利義務関係は新賃貸人に受けつがれます。ただし、建物の賃貸借期間満了後、その所有権が移転しても、新所有者、新賃貸人は敷金の返還義務を受けつぎません。
 それでは、保証金とは、いったいどんな性質をもっているでしょうか。その権利義務に関する約定が賃賃借契約書のなかに書かれていても、いわゆる建設協力金として賃貸借とは別に消費貸借の目的とされたもので、その返還に関する約定にてらしても、賃借人の賃料債務その他賃貸借上の債務を担保とする目的で賃借人から賃貸人に交付され、賃貸借の存続と特に密接な関係に立つ敷金ともその本質を異にしています。
 そして、貸ビルの所有権移転にともなって新所有者が保証金の返還債務を受けつぐかどうかについては、保証金の前述のような性格を考えると、新所有者が当然に保証金返還債務を受けつぐ慣習ないし慣習法があるとは認めにくい。新所有者が当然に保証金返還債務を受けつぐとされることにより不測の損害をこうむることのある新所有者の利益保護の必要性と、新所有者が当然にはこれを受けつがないとされることにより保証金を回収できなくなるおそれを生ずる賃借人の利益保護の必要性とをくらべてみても、新所有者は、特別の合意をしないかぎり、当然には保証金返還債務を受けつがないものとするのが判例の立場です。

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