他人の使用中の不動産の売買と賃料

家を買いましたが、それには他人が賃借居住しています。売主は六ヵ月以内に賃借人を必ず出すと確約したので買い取ったのですが、代金は契約と同時に半額を支払い、残代金は居住者が家を出て当方が使用できるようになった時に支払うということにとりきめ、すでにその半額を支払い、登記も移してもらいました。この場合、居住者が家を出るまでの間に支払う家賃は、売主、買主のいずれが取得できるものでしょうか。
賃借中の家屋の所有者が、それを売るかどうか、売るとしてもどのような条件で売るかは、他の売買におけるのと同様、買主との折衝次第です。いいかえれば、所有権の移転のみを目的とするか、所有権の移転とともに賃貸人の地位の移転をも目的とするか、双方の移転を目的とするにしても、その時期を同じものとするか異なるものとするか、といった問題は、何よりもまず、売買当事者間の契約によってきまるわけです。したがって、契約内容のいかんによっては、家屋所有権が売主から買主に移転し登記をすませたとしても、賃貸人として賃料を取り立てる権利は、従前どおり売主に帰属することもありえます。そればかりではありません。民法は、契約内容が不明確な場合に備え、賃料債権の移転時期を定めていますが、ここでも、所有権移転とは別のこととして規定されているのです。

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土地

民法は、物の用法に従って収取する産出物を天然果実とよび、 家賃、地代のように、物の使用の対価として受けるべきものを法定果実と名づけるとともに、未だ引渡さざる売買の目的物が果実を生じたるときは其果実は売主に属す。と規定しています。したがって、賃貸中の家屋の売主が、9月末日に、買主の承諾のもとに、皆家人に対し、爾後第三者(買主)の為めに其物(家屋)を占有すべき旨を命じる仕方で引渡というをすませると、その時をさかいに、9月分までの賃料債権は売主に、10月分以降の賃料債権は買主に帰属することになるわけです。その反面、引渡がすむまでに要した固定資産税、修理費などの管理費用は、売主が負担することになります。もし、これと異なり、売主は、契約のときまたは引渡をなすべき時までに生じた果実を取得する、という定めになっていたとしますと、その時以降の賃料は、買主において取得しうる反面、売主が負担した管理費用を償還しなければならず、このような複雑な関係を生じさせないようにしようというのが、この規定のねらいになっています。
そうすると、引渡前にすでに代金の支払期が到来しているような場合、売主は、引渡が済まない間は、果実も取得できれば、代金利用の対価としての性質をもつ遅延利息も請求できることになりそうですが、そ れではつり合いがとれません。そこで民法は、引渡が済むまでは利息を払わないでよい、という規定を設け、バランスをとっています。これを裏返すと、たとえ引渡期日が到来していても、代金の支払が済まなければ、売主は、引渡義務不履行の責任を負わない、ということになります。したがって、引渡期日が到来しているか、または、代金支払と同時に引渡をすべき場合に、売生か代金の支払を受けると以後買主に対し遅延賠償の責任を免れないのを常とするのですが、かつて大審院は、建物の売主が代金を受領しながら引渡も登記もせず、その建物を他へ賃貸して家賃をとっていた、という事案で、売主をして代金の利用と果実の取得との二重の利益を得させるのは不公平で民法五七五条の法意に反するから、代金の支払を受けながらなおかつ引き渡すべき目的物を引き渡さないで占有する売主は、目的物より生じる果実を取得しえないものと解すべきであり、したがって、売主の家賃収受は不法行為を構成するとし、引渡義務不履行と同じ結果を認めたことがあります。
では、代金の一部の支払があると、賃料債権は、支払額の割合に応じ、売主と買主に分属することになるのでしょうか。この点が直接問題となった事例は見当たりませんが、次の判例があります。
土地の売買で、内金の支払があり、残代金は同月末日までに登記、引渡を済ませたときに支払う約束であったところ、この契約が守られず、約三年間にわたって売主が小作料をとっていた、という事案で、売主が引渡期日を徒過したとしても、引渡がない以上、買主には果実収取権はないとされています。 また、Aからその所有地を買い受ける契約を結んだBは、内金を払ったがAが契約を守らないので、所有権移転登記手続を求める訴を提起して勝訴判決をえ、残代金を供託したうえ、登記手続をすませたところ、その間、Cは、同じ土地をAから買い受け、現実の引渡を受けたうえ、その土地を他へ賃貸し、賃料を受け取っていた、という事案で、例えば、売主が引渡前に目的物たる不動産を他へ賃貸したときは、賃料は当然売主に属する。たとえ引渡前に所有権が買主に移転し、しかもその登記までこれを了したときといえども、同じである。それ故、引渡を受けていないBは、賃料を取得する権利をもたない買主として、賃料につき、何人かに対し不当利得の返還を求めることはできないと判示した例があります。しかし、この場合でも、Bが代金を供託したときから、AはBに対し、引渡義務不履行の責任を免れることはできないでしょうし、また、Cが、Bの登記後も引き続き土地を占有するときは、CはBに対し、その間の利用料相当額の返還義務を負うことになります。
これまでみてきた民法および判例は、いずれも、本問における賃料債権が売主に帰属することを示唆しているようにみえます。しかし、もっと重要なのは次の点です。
本問の売買は、売主が六ヵ月以内に借家人を必ず出すという確約のもとに締結されたものです。それは、おそらく、売主と借家人との間の賃貸借関係を終了させたうえ現実の引渡をするという趣旨でしょう。そうだとすると、賃貸人の地位、賃料債権の移転は、売買の目的となっていないのであり、したがって、民法や判例をもちだすまでもなく、契約内容からして、賃料債権は売主に帰属することになります。その反面、引渡済までに要する建物の管理費用は、売主が負担すべきことになりますし、また、この約定が履行されない場合に、買主がどのような措置を講じうるかについては、前問で述べたところです。

土地
買った土地の坪数の不足/ 買った土地の地目が農地の場合/ 緑地帯、風致地区/ 買った土地が区画整理による分散する場合/ 土地分譲と道路負担/ 買った土地の一部が他人の敷地の場合/ 買った土地の通路が他人のものの場合/ 不完全な建売住宅/ 違反建築の建物と売買/ 共有不動産の売却/ 不当に抹消された登記の回復/ 抵当権付不動産の売買/ 買った土地の使用処分に対する制限/ 不動産の時効取得/ 契約の解除/ 契約解除の方法/ 契約解除の時期/ 契約解除権の時効/ 契約解除と損害賠償/ 解除と第三者の権利/ 手付放棄による解除/ 売り戻しの特約/ 買戻の特約と再売買の予約/ 事情変更による解除と契約条件の変更/ 他人が使用中の不動産の売買/ 借地人が立ち退かない場合/ 他人の使用中の不動産の売買と賃料/ 買った土地に借地権者がいる場合/ 借地上の建物の売買/ 借地権者の借地買取/ 借家人の借家と敷地の買取/ 賃貸借当事者間の売買と賃貸借/ 土地の分譲と営業免許/ 建売住宅の売買/ 土地の一部分の売買/ マンションの分譲/ 建築途上の建物の売買/ 道路予定地の売買/ 仮換地の売買/ 割賦払中の売買/ 担保権付不動産の売買/ 係争中の不動産の売買/

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