借地人が立ち退かない場合

借他人のいる土地を、売主が責任をもって借地権を消滅させるというので買い受け、代金も支払いましたが、売主はいっこうに約束を実行してくれそうもありません。この場合は売主に対して、どのような措置をとることができるでしょうか。
契約は、原則として守らるべきものですから、借他人のいる土地の売買や、借家人 のいる建物の売買で、売主が、借地、借家関係を終了させ、更地、空屋にして引き渡すことを保証すれば、これを履行すべき債務を負うことは、いうまでもありません。しかし、借地人、借家人にとって、その土地、建物は、生活の基礎となっているのが常ですから、たやすく立ち退くはずもありません。ですから、買主としては、不履行の場合に備え、対策を講じておくべきですが、ここでは、特別の対策が契約上講じられなかった場合における買主保護の法的手段を考えようというわけです。
債務不履行の場合における、債権者保護の一般的な法的手段としては、履行の強制、損害賠償および契約解除の三つがあります。このうち、履行の強制は、債権者が、履行を訴求し、勝訴判決を得て強制執行をする方法です。しかし、買主が、売主を相手どって履行を訴求し、勝訴判決を得たとしても、その効力は借他人や借家人にはおよびませんから、この判決に基づいて彼らを立ち退かせることはできません。また、履行の強制に関連し債権者代位権の制度があり、これによると、買主は債権者として、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行なうことができます。しかし賃貸人は、一般に、借地、借家関係の当事者として借地 人、借家人の権利を尊重する義務こそあれ、妨げる権利はありませんし、また、売主が借他人や借家人に対し解除権や返還請求権をもっているようなふしもうかがえませんから、債権者代位権を用いることもできそうにありません。
ところで、売主にまかせておいたのでは、借地人、借家人を立ち退かせて現実の引渡を受けることが困難な場合、借地、借家関係を承継して買主自ら立退の折衝に当たる一方で、立退に要すべき費用の賠償を売主から受けることができるならば、買主としては、すこぶる便利なわけです。それは法的に可能でしょうか。
買主が、借地、借家関係を完全に引き継ぐには、買受の登記をするとともに、売主が、買主の承諾のもとに、借地人、借家人に対し、以後、その土地、建物を買主のために占有すべき旨を命じることが必要です。これを指図による引渡といい、売主がこの義務を負っている場合には、履行を強制する途もあります。つまり、履行を命じる勝訴判決を、借地人、借家人に送達すれば、それで指図による引渡が行なわれたことになるのです。そこで問題は、現実の引渡をすべき義務を負う売主に対して、買主は、その履行に代え指図による引渡を求めることができるか、できるとすればどのような場合か、ということになります。これまでのところ、この問題を論じた判例も学説も見当たりませんが、債務不履行責任に関する従来の取扱いを参考にすれば、ほぼ、次のようにいえるのではないかと思われます。つまり、現実の引渡を遅滞する売主に対し、相当の期間を定めて履行を催告しても、それに応じない場合、および、売主と借地人、借家人との折衝が確定的に決裂し、現実の引渡をすることが不能とみられる場合には、買主は、指図による引渡を求めることができる。

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土地

一般に、債務の履行が遅れれば、その間、債権者は目的物を利用できません。このような場合に、利用利益の賠償をさせるのを、 遅延賠償とよんでいます。これに対し、債務の履行に代わる損害の賠償を、填補賠償とよんでいます。したがって、売主をして、現実の引渡に代え、立退に要する費用の賠償をさせるのは、填補賠償ということになります。
填補賠償を求めうるのは、ふつうは、債務者の責に帰すべき事由により履行が不能になった場合です。          しかし判例は、遅滞後、債権者が相当の期間を定めて履行を求めたうえ、履行に代わる損害賠償を求めうる、といっています。もっとも、この点は、一般論として述べられたのですが、本問のような場合にも、その適用を妨げるものではないでしょう。それどころか、適用の必要は、ふつう以上に多いとさえいえます。なぜなら、買主が、借地人、借家人との折衝を売主にまかせた以上、みだりに自ら折衝して立ち退かせるわけにはゆきませんが、さりとて、いつまでも売主にまかせ、買主は遅延賠償か契約解除のほかに保護手段がないとするのも、つり合いがとれないからです。
ところで、売主の折衝にもかかわらず、立退の条件が折り合わず、このため、買主に対する引渡が遅れているような場合に、買主が、売主に何等の通知もしないで、借地人、借家人と折衝し、相手方の提示する条件をいれ、立ち退かせた とします。その結果、売主の引渡義務は履行不能になりますが、それでもなお、債務者の責に帰すべき事由によるものといえるでしょうか。また、買主は、一般に、自ら払った立退料の全額を求めることができるでしょうか。
こうした問題について、解決の指針を与える大審院の判決があります。事案は次のとおりです。
Yの所有地にAは建物を所有していましたが、両者の間で、裁判上の和解が成立し、Aは建物を収去して土地を明け渡すことになっていましたので、Yは、この土地をXに売り渡すに当たり、更地として引き渡すことを約し、代金中約8割の支払を受け、残金は引渡後に支払うこととし、登記をすませました。Yは、引渡期日から八ヵ月後に、和解調書に基づいてAに対し明渡の強制執行に着手しましたが、Aは、執行停止の仮処分をえたりして容易に明け渡そうとしません。そこでXは、Yに格別の通知をすることなくAと折衝し、移転料を払うことを約束しました。他方Yは、その直後にAに対する建物収去の仮処分命令を得てその執行に着手したところ、Aは、進んで家屋を収去し、Xに土地を引き渡して移転料の支払を受けました。そこで、Xは、Yに対し、移転相当料額の支払を請求しました。
大審院は、この請求を棄却した原判決を不当として、次のように判示しました。
Aが本件家屋を収去し、土地の明渡をしたのは、一にYが仮処分命令を得てこれを執行せんとしたがためのみとは断じがたく、Xのした移転料補償契約もまた、あずかって力があることは明白で、必ずしもYに遅滞の責なきものということはできない。すなわち、Yは、引渡をなすべき時から数カ月の久しきにわたって居住者を退去せしめなかったもので、これは、約旨に基づく債務の不履行にほかならず、したがって、Y に故意、過失のなかったことが立証されない限り、不履行の責を負わなければならない。
ここでは、売主の引渡義務の、履行不能ではなく遅滞の責任が問われていることに、注意する必要があります。次に、賠償を要する額については、Xがその費用をYに負担せしめうるは、もとより相当の範囲を超えることはできない。不必要に多額の費用を支出しながらその全部をYに負担せしめえないことは信義則上当然であるとし、さらに過失相殺に言及します。XがAと交渉をなすに際し、一 応Yにこれをはかり、Yとともに仮処分の事実を利して交渉をしたならば、現にXが支出した額にくらべ、なお少額の補償料をもって解決しえたであろうことは、想像に難くない。それ故、Xにおいてもその過失により不必要に多額の費用を支出したものと推認するのを相当とすべく、その全部をYに負担せしめんとするのは失当たるを免れない。
契約の解除は、債権者保護の最後の砦であり、債務不履行の一般原則に従い、契約を解除することができます。つまり、引渡を遅滞している売主に対し、相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がなければ、解除の通知をします。その結果、売買は失効し、売主は、買主に対し、受け取った代金に、受領したとき以昨年五分の割合による利息を付して返還すべき義務を慨うことになります。また、それでもうめきれない損害があれば、買主は、その賠償を求めることもできます。

土地
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