事情変更による解除と契約条件の変更

3年前に土地つきの家屋を買い、代金は5回払いの年賦でよいとのことで、3回まで約定どおりに支払ってきましたが、最近、近くに工場ができて地価が急騰してきたところから、売主は、売却代金を割増ししてくれるか、契約を解除させてほしい、と言いだしてきました。いま改めて買えば相当高額な代価を要求されることは判りますが、このような場合は、売主の申出に応じなければならないものでしょうか。
この場合での売主の要求は、第一には代金の増額であり、第二に契約の解除による原状回復です。売主は、地価の急騰をその理由としていますが、このような理由で、すでに有効に成立した売買契約の条件を変更したり、売買契約を遡って消滅させたりすることが、できるでしょか。これは、いわゆる事情変更の原則が不動産売買契約に適用されるか、適用されるとすればどのような効果を生ずるのか、という問題です。
一般に、当事者の自由な合意によって契約が有効に成立したのちは、当事者は、契約によって定められたとおりに自己の債務を履行しなければなりません。つまり、契約によって定められた債務のみを履行すればよく、契約によって定められた債務を自己の責めに帰すべき事由によって履行しない場合にはじめて、相手方は債務不履行を理由として契約を解除することができるのです。いかえれば、一旦有効に契約が成立したのちは、契約の内容とされていないことがらを理由として相手方の債務を増大させたり、契約を解除したりすることは、契約の自由の観点からみて許されない、とするのが民法の大原則です。事情が変わったというだけでは、契約の内容や効力に影響を及ぼさないと、ひとまず考えなければなりません。

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より現実的に判断すれば、契約を締結した時においては全く予想することができなかった大きな事情の変化が生じたため、今日、当初の約定どおりに契約を履行すれば当事者の一方に常識をこえた過大な損失をもたらすことが明らかであって、契約どおりの履行を強制することが取引関係における信義に著しく反するという場合には、この大原則に例外を設ける必要が生じます。この例外をみとめる原則を事情変更の原則といいます。しかし、この原則自体が例外ですから、厳格に判断されなければなりません。
事情変更の原則を適用するには、一般に、次の四つの要件をみたすことが必要とされています。契約成立時において契約締結の一般的な前提となっていた事情に著しい変更が生じたこと、この事情の変更が当事者のいずれもが予見しなかったものであり、また通常は予見することができないものであったこと、事情の変更が当事者の責めに帰すべき事由に基づくものでないこと、結果として、契約どおりの履行を強制することが取引関係における信義に著しく反することです。これら四つの要件をみたす場合には、先の大原則の例外として、契約内容の修正を請求する権利がみとめられ、場合によって契約を解除する権利も認められることになります。
事情変更の原則は、まず、賃貸借のような継続的な関係を内容とする契約について必要とされます。賃貸借契約のうちでも、借地契約のように契約関係の終了が様々な形で狭く制限されている場合には、当事者間に公平と信義にかなった関係を維持するために、契約条件の修正を請求する権利をみとめることがとくに必要とされます。借地法一二条が地代、借賃の増減額請求権を認めていること、同八条の二が事情の変更に基づく借地条件の変更をみとめ、その手続を定めていることなどは、いずれも事情変更の原則の適用例であるといってよいでしょう。
しかし、事情変更の原則は、この借地法の場合のように法律によって明確に定められている場合に限って適用されるものではありません。また、売買契約についても、継続的供給契約のようにそれ自体継続性を持つ場合はもちろん、本問のように契約の履行が段階的になされる場合や、そのほか一般に契約の時点と履行期とが時間的に離れている場合には、事情の変更という事態が生じがちですから、この原則の適用が必要とされる場合がすくなくないのです。判例も、不動産の売買について、事情変更の原則の適用があることをみとめています。
事情の変更を理由とする売買契約の解除を適法とした判例として、昭和一九年一二月六日の大審院判決があります。同判決は、土地の売買契約が成立したのち、履行期前に宅地建物等価格統制令が施行されたので売買価格の認可を受けなければならなくなったが、認可がいつ得られるか、また認可価格がいくらになるかかわからないため、契約の履行が長期にわたって遅れ、契約が失効するおそれもあるという場合に、当事者をなお不安定な拘束状態におくことは信義に反するとして解除権の成立をみとめたものです。最高裁判所の判例も、不動産の売買契約について事情の変更を理由とする契約解除を原則的にみとめる立場にあります。
ただ、この原則に基づいて契約を解除するための要件は、厳格に解釈され、その結果、結論的には解除権の行使を不適法とする判決が多いのです。判例は、事情の変更が当事者の予見しなかったものであったかという点について、戦争末期の福井市で戦災で居住家屋を失うことは契約当事者が予見しえた事情であるとして、それを理由とする他の家屋の売買契約の解除をみとめませんでした。
また、予見しえぬ事情の変更であっても、事情変更を主張する側に履行遅滞があった場合は、その主張はみとめられません。履行遅滞がなければ、事情の変更が生ずる前にすでに売買が完了していたはずだ、というのがその理由です。例えば売主が登記移転義務に協力しないでいるうちにインフレと戦災後の住宅難とによって上地、建物の価格が急騰しても、事情変更を理由とする代金の増額も契約の解除も許されません。
他方、最高裁判所の判例は、特にインフレによる貨幣価値の下落が大きくても、それだけでは事情変更の原則による契約条件の修正も契約の解除も主張しえないとしています。このように、事情変更の原則の法理が承認されていても、その適用によって具体的に契約条件の修正や契約の解除がみとめられることはそれほど多くはないといえます。ただ下級審の判例では、請求をみとめたケースが散見されます。その多くは、売買の一方の予約に関するものです。
契約条件の修正と契約の解除は、どのような関係に立つでしょうか。この点について、判例は、次 のように述べています。事情変災の原則の適用ある場合は、第一次的には、債務者に対して当初の契約内容を修正する権利を取得せしめ、第二次的に相手方が契約内容の修正に応じない場合に、契約を解除する権利を取得せしめるに止まり、当然に、契約に定められた権利が消滅したり、その権利の行使が許されなくなったりするものではなく、また契約内容の修正を要求することなく、直ちに契約分解除することかできるものでもない。要するに、契約どおりの履行を強制されることが著しく信義に反するから解除原因があると主張するためには、まず契約内容の修正を請求し、それが拒絶された場合にはじめて契約を解除することができる、ということです。
それでは、本問の場合はどうでしょうか。売主は、代金の増額を請求し、それが認められなければ契約を解除したいといっています。この場合、買主側には債務の不履行はありませんから、売主側の理由としては、もっぱら事情の変更ということになります。したがって、争点は、最近、近くに工場ができて地価が急騰してきたということが解除原因としての事情の変更としてみとめられるか、という点にあります。
まず、近辺の地価がいくらであるかということは、土地、建物の売買にとって前提となる事情であり、それに急激な変化が生じたことは本件でもみとめられます。第二に、この事情の変更は、売主も買主も予見していなかったことですが、さらに、予見することもできなかった変更とみとめられるかが問題となります。近隣に工場ができることによって地価が上昇することは通常推測できますから、同地付近に工場ができるということを当事者だけでなく一般にだれも予見しなかったかという点を、なお事実をしらべて具体的に判断すべきでしょう。第三に、当事者の責めに帰すべき事情がなかったことはほぼ明らかです。最後に、信義公平に反するかという点が残ります。この点については、地価が一般的に上昇傾向にある時期に5年の賦払いで契約をしている以上、10〜20倍という極端な高騰でないかぎり、信義公平に反するとはいいがたいように思われます。したがって、ど の程度地価が急騰したのかということによって結論がかわる余地がありますが、本問の答えとしては、売主の代金増額の請求や契約解除の申出に直ちに応ずる必要はないとみるべきでしょう。

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