借地上所有建物の名義人

地主が変わったような場合にも借地権を対抗できるようにするための、現行法上で実際上ほとんど唯一の方法は、借地上に建てた建物の登記をすることです。この建物の登記が借地人その人の所有名義でなされていれば問題ありませんが、借地人の近親者などの所有名義でなされている場合、なお建物保護法の定める借地権対抗要件として十分だとみられるか、ということです。
これについては、病弱な借地人が万一の場合の面倒をはぶこうとして同居している実子の所有名義で建物登記をしたところ、その後地主から土地を買いとった新地主が借地権には対抗力がないからといって建物収去土地明渡しを請求した事件において、最高裁が最近下した判決があります。そこでの最高裁は、このような登記は、実質上の権利と符合しないものであるため、無効の登記であり、したがって敷地についての借地権には対抗力を生じないといって、一審、二番での借地人勝訴の判決を破棄して、借地人に建物収去土地明渡しを命じました。
ただし、このときの最高裁では、15人中6人の裁判官は、このような建物登記によっても借地権の対抗力は認められるべきだという反対意見でした。また、下級審の判例には、子の所有名義での建物登記でもよいとしたものがありますし、また母名義の登記でもよいとしたものもあります。さらに、学説も一般に、さきの最高裁の少数意見の結論のほうを支持しています。
否定説の背後には、本来借地権の対抗要件は借地権自体の登記であるべきところを、建物保護法が例外的に建物登記という代用的対抗要件を認めるものであるため、このような例外的な制度の適用範囲は厳格に解釈しなければならない、という考えや、およそ登記というものは実質的な権利関係をそのまま正確に表示するものでなければならない という建前論があるようです。これに対して、否定説は、実際の不動産取引はおそらくつねに現地検分にもとづいてなされるものであり、現地にいけば建物の存在は容易に分かるし、さらにそれが登記簿上に登記されていれば、借地権の存在を推認させ警戒させる手段としては多分それで十分であろうから、必ずしも借地人その人の名義でなくても、ある程度のゆとりをもって解釈することが、借地権と建物の保護を目指す建物保護法の精神にそうゆえんである、という立場だと思われます。
ともあれ、このような場合の借地権の対抗力を考えますと、高裁以下の段階ではかなり希望はありますが、最高裁までいけば駄目であろう、というのがいちおうの予測です。しかし、前述のように、最高裁のなかでの意見のわかれは多数、少数かなり接近していること、学説は一般に少数意見支持であることなどを考えますと、簡単にこのように予測することは危険かもしれません。

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土地

借地権の対抗要件というのは、土地について取引に入ろうとする人を警戒させるだけのものという、公示の要請のいわば最小限をみたしてさえいればよいのだ、という考えを徹底しますと、建物が存在しかつそれについて誰かの所有登記さえあれば十分だ、というところまでいけないわけではありません。しかし、建物保護法の法文の解釈としてそこまでいう説は、まず見当たらないようです。
建物所有名義人にゆとりを持たせてもよいという立場のもとで、まずまちがいなく認められるのは、借地権者の子であり、しかも本人と同居している子の名義にしたという場合でしょう。これらの者は、借地上の建物が居住用のそれである場合には、借地人その人とともに土地を利用する範囲の者であり、また借地人が死亡すれば建物所有権と借地権とを相続する資格を有する者でもありますから、まず問題のないところでしょう。また、このように考えれば、妻の名義にしたという場合も、おそらく同じに考えてよいかと思われます。
次に、同じ親子でも同居していない者の名義の場合は、やや微妙です。つまり、建物保護法の立法趣旨の一つは、借地人の居住権の保護にあると考えれば、同居者を要件とすべきだということになりましょうし、同法は借地権そのものを保護、強化するものだと考えれば借地人の推定相続人というくらいの範囲ならよろしい、ということになるでしょうか。
ところで、借地人と建物所有名義人との不一致というときには、正確には二つの場合があります。すなわち、(1)借他人が建物の所有者であって、ただ名義だけを妻子などに付けてあるという場合と、(2)建物の所有権は名実ともに妻子などにあるという場合とです。
このうち(1)の場合は、問題の建物登記は、借地人兼建物所有者の建物所有登記として通用するかという、いままで述べてきた問題です。
これに対して(2)の場合は、建物を所有していることは敷地を利用していることを意味しますから、本来の借地人から妻子等建物所有者へ借地権譲渡または借地の転貸があったものと法律上はみられ、したがって、このようなことをしても地主側から借地権を消滅させられることはないか、という問題になります。
(2)型の場合については、例えば譲渡担保にとった担保権者の所有名義建物の場合には借地権の対抗力は認められないとした下級審判例もありますけれど、借地人が同居の家族の所有建物を借地上に建てさせたというケースで、それは借地の転貸になるにしても、地主の承諾がないことを理由にして地主のほうから借地契約を解除することはできない、とした最高裁判決もあります。さらには、最近の判例の一般的動向や借地法一部改正によって借地権譲渡や借地転貸が適法視される蓋然性が高くなってきたことも忘れるわけにはいきません。
ですから、(1)で借地権の対抗力が認められるような場合なら、仮に(2)だとしても、適法な借地権譲渡ないし転貸として借地権は結局は保護されるかと思われます。さらには、(1)では、さきの最高裁の多数意見がなお裁判所を支配すると仮定した場合は、まずいわけですが、それをおもんばかれば、かえって実体を(2)にしておくほうが、借地権を確保できる場合が多い、ともいえそうです。

土地
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