建物未登記の借地人と新地主

地主の甲から土地を借り、建物を建てて住んでおり、地代はずっと差配の乙に払っていました。甲は信頼のおける人なので、安心して建物の登記などもせずにおりましが、甲が事業に失敗し、乙が土地を担保にとって甲に金を貸し、担保が流れて、乙のものになったようです。そして、乙がやってきて、土地の明渡しを要求してきました。この場合明け渡さねばならないのでしょうか。
この場合、建物の登記という、建物保護法の定める要件を備えていないのですから、借地権を新地主乙に対抗で きない、ということになりそうでもあります。しかし、地主甲の差配をしていて、借地権のことを知りすぎるくらい知っていた乙のような者との関係においてもなおそうなのか、ということが問題になります。
およそ物権は登記がなければ第三者に対抗できないというのは第三者が問題の来登記物権の存在について善意であると悪意であるとを問わないというのが、従来一般にいわれてきたところです。例えば、Aの不動産をBが買ったことを知っていながらCがいわばわりこんでAから二重買いをして先に登記をしてしまえば、早い者勝ちでCが勝つというわけです。
しかし、一口に第三者の悪意といっても、いろいろな程度や態様のものがあるわけです。そして、不動産登記法の四条と五条は、当方の権利についての登記の申請を詐欺または強迫によって妨害して登記させなかった者や、当方にかわってその登記の申請手続をしてやらなければならない義務のある者には、当方にむかって、権利には登記がないではないかと、などと主張する資格がないと明文でもって例外を定めています。
問題なのは、この登記法四条や五条にそのままは該当しないような悪意の第三者です。そして、このようなもののうちでも、特にあくどく、信義にもとると思われるような第三者に対しては、登記がなくても勝つ、という結論をくだした大審院や最高裁の判例も、過去にいくつかあります。

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学説は、かつては、悪意でもよい、いや善意でなければならない、というふうに、原則論として二つに分かれていましたが、最近では、登記法四条か五条かに直接該当しないような悪意の第三者のうちでも、背信的悪意者というべき者は、これを排除すべきだという見解がむしろ有力になってきています。
ただ、背信的悪意者というのは具体的にはどのような範囲の者をいうのか、というこまかい点の解釈になりますと、判例上も学説上もまだ必ずしも完全には固まっていません。しかし、さきの設例での第二の譲受人Cが第一のAB間の売買契約において仲介者や立会人であったというような場合なら、まず間違いなく、背信的悪意者とされるかと思われます。
ところで、不動産物権の対抗問題において悪意者をある程度排除すべきだという解釈態度は、借地権の場合にも適用されることはもちろんですが、むしろ、普通の場合も、より勇敢に適用される傾向がみられます。これは、借地紛争が特に原則となった戦後になって出てきた現象です。すなわち、戦後の下級審の判例のなかには、対抗要件を備えない借地人を保護したものがかなり数多くみられ、しかもそのなかには、新地主がいわゆる背信的悪意者である場合だけではなくて、単純な悪意者である場合も合まれています。
もっとも、この点についての最高裁の態度は、下級審のそれにくらべると、いくぶん消極的なように思われ、単純な悪意者である新地主からの土地明渡請求を認めた最近の例もあります。しかし、最高裁といえども、背信的悪点者である新地主に対しては借地人は対抗要件がなくても対抗できるということは、大体認めるもののように思われます。
本問の場合の新地主乙は、登記法五条のいうような、もっぱら利益になるように行動すべき立場にある者が、寝がえった、というほど悪らつなわけではありませんが、その従来の立場からいえば、背信性はかなり高いというべきでしょう。ですから、最高裁まで行っても絶対大丈夫だとは、簡単なお話だけからは断言はできませんが、かなり希望がもてそうだということはできましょう。
なお、このような借地人が、借地上にまだ建物を建てていないと仮定した場合でも、背信的悪意者といえるような新地主に対しては対抗要件がなくても借地権を対抗できるという理論は適用されます。ただし、建物がない場合には、新地主が悪意であったことの証明が実際上困難なことが少なくないでしょう。また、借地法、建物保護法などは、借地上の建物を取り壊しさせるという社会的に不経済な事態を合理的に防止することをもって、立法目的の主要なものの一つとしています。したがって、建物が建っていない場合ですと、借地人の受ける被害も一般にはやや軽いということもあって、新地主が背信的悪意者だと裁判所によって判定される場合は、実際上はかなり少ないであろう、ということができます。

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