借地の権利金

土地を借りるとき、まとまった一時金を借地人から地主に渡す取引慣行がありますが、この一時金のなかには、将来借地契約の終了したあかつきに、戻ってくるものと、戻ってこないものとかあり、ふつう、戻ってくるものを敷金、戻ってこないものを権利金とよんでいます。権利金は、土地に関する賃貸借契約の内容としては、もっとも重要なものなのですが、その法律上の性質については、学問的にみても、また、実務的にみても、おりあい不明確な点が多いのです。したがって、権利金の受渡しをする本人どうしの間でも、それによって厳密にどういう法律上の効果をねらっているのか、はっきりしていないようです。このへんに、そもそも、権利金を めぐる将来の争いの原因がひそんでいるともいえます。
権利金の、法律上の性質や効力については、まず、本人の意図がどういうものであったかが基準になります。そうして、本人の意図がはっきりしないときにはじめて、客観的、合理的な基準によって、判定することになります。これから述べることは、そのような意味で、本人の意図がはっきりしない場合の基準ということになるわけです。もっとも、地代家賃統制令という法律によって、比較的古い住宅の所有のための土地の賃貸借では、そもそも権利金が禁止されています。昭和二五年七月一〇日までに建築をはじめた九九平方メートル以下の住宅の所有のための土地の賃貸借には、地代家賃統制令が適用されます。この統制令は、単に毎月の地代、家賃を統制しているだけでなく、権利金その他の名称で呼ばれる一時金の受渡しを禁止しています。したがって、この統制令の適用される場合には、権利金を支払う契約は無効となりますので、借地人は権利金の支払を拒否でき、しかも、賃貸借契約そのものは、ちゃんと有効だとされていますので借地人は、その履行を土地所有者に求めることができると解していいでしょう。土地の所有者としては、すでに借地契約が成立している以上、権利金の支払を拒絶されても、契約の履行をする義務があると考えなければなりません。もっとも、権利金を支払って土地の利用を開始し、あとになって返せという請求をしても、返してもらえないというのが最高裁の判例ですが、返させることは可能だという下級審判例も少なくなく、有力な学説もそれに賛成していますので、どちらともはっきりしていないというのが正直なところです。

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土地

地代家賃統制令の適用されない借地関係では、権利金は取引慣行にまかされています。したがって、金額や支払方法などは、すべて本人どうしの話合いで決めるほかはありません。もっとも、普通の場合には取引慣行というべきものが 存在し、だいたい地価の七割からハ割というのが、相場のようです。しかし、この相場も、べつに拘束力はないわけですから、権利金額についての折り合いがつかなければ、契約は成立しないだけのことなのです。こうなると、けっきょく、需要と供給の関係できまることになり、土地のように限界量のはっきりしている資源では、どうしても所有者が合理的な経済関係以上に強気にでてくることはさけられません。学者のなかには、法外に高い権利金を公序良俗に違反して無効だという人もあります。
権利金については、その法律上の性質を、次の三つのうちのどれかにあてはめて、理解するのがよいでしょう。もっとも、具体的に授受された権利金が、そのどれか一つに、いつもぴったり合致するわけではなく、二つ以上にまたがることもありますから、結論のだしかたは、かなり難しいものだということに、注意してください。
土地を利用する権利は、物権である場合と債権である場合とがあります。そうして、物権は、所有権に対立し、一時は所有権の内容を奪ってしまうほど強い権利であるのに対し、債権は、所有権に従属する弱い権利でした。他人の所有地上に建物をもつための権利も、物権である地上権と債権である賃借権の二種類があるとされていました。しかし、実際の土地利用契約のほとんど全部は、債権である賃借権だったのです。そこで、明治の末以来、立法や判例によって、賃借権を物権に近づける努力が、すこしずつはらわれています。これを、学者は、賃借権の物権化とよんでいます。賃借権の物権化によって、賃借権は所有権に対立できる力をすこしずつ身につけてきましたので、賃借権が設定されるとそれだけ所有権の実質的内容がけずりとられるから、所有者はそのけずりとられる部分の対価として権利金を求めるようになった、というのが、権利金は設定の対価だといわれることの意味なのです。
しかし、賃借人に賃借権の物権化を金銭で買いとらせることができるくらいなら、賃借権の物権化のための特別の立法はそれほど必要がないともいえましょう。その意味で、地主が賃借権設定の対価をとることが許されるのは、それによって、借地人が特別の収益をみこめるような場合に限定すべきだともいえますから、設定の対価としての権利金が許されることを理論的に説明するのは、困難です。しかし、それにもかかわらず、このような意味での権利金の授受を禁止する法規がつくれないのは、いくらこれを禁止しても、空地を強制的に利用させる法律でもつくらないかぎり、けっきょく、土地を貸すすものがないだけのことになってとらえようがないからです。
ところで、権利金が設定の対価であると判定されたら、のちに述べるように、その借地権には物権に準じた譲渡性や増改築権能などがついていると解していいことになります。しかし、実際に、具体的に授受 された権利金を設定の対価と認定することは、むずかしいことなのです。本人どうしで、はっきり設定の対価と明示しているときは問題はありませんが、一般的にい って、その借地権の譲渡に地主の同意を不要とする合意が伴っているとき、または、鉄筋コンクリートの建物や区分所有の建物、所有のための借地権のように、自由な譲渡が予定されていると解されるとき、などの場合には、権利金は設定の対価と推定していいでしょう。もっとも、昭和四二年六月から実施された改正借地法では、裁判所の許可で借地権を譲渡できることになっていますので、かつて提供した権利金が、設定の対価であるかどうか疑わしい場合には、譲渡しようとする借地人は、念のために裁判所の許可を求めたほうが安全でしょう。仮にその権利金が設定の対価でなかったことが判明しても、権利金を提供していた半実は、裁判上で借地人に有利になることが少なくないはずです。
設定の対価としての権利金を提供したけれども、譲渡や増改築などの格別設定の対価にみあうような形の借地権の行使をしないまま、その借地権が期間の満了で消滅した場合、権利金の返還を請求できるでしょうか。かりに、そのような形の権利の行使が現実には行なわれなかったとしても、このような形の権利行使の可能性が事前に保障されていた利益は大きいというべきですから、返還の請求はできないと解されます。
毎年または毎月支払われる定期の地代のほかに、借地人がまとまった一時金を提供したとき、それが地代の一部の前払いとみなされることがあります。本人どうしで、そのような合意がなされていればもちろん、かりに、そういう合意がなくても、設定の対価でなく、また、場所的利益でもなければ、すべて地代の一部の前払いとみるほかは、ありません。一部の前払いは、本来は定期に支払われるべき地代額が高すぎるときに、それを緩和する目的で前どりするわけです。したがって、この種の権利金は、地代統制のある場合に生ずることが多いのですが、地代統制のない場合にも、生じないわけではありません。
一部前払いとしての権利金も、もちろん、地代家賃統制令の適用のある借地については、それによって禁止されています。しかし、払ってしまえば、借地の利用開始後、すぐ返還請求しても、認められないというのが判例です。もっとも、かりに違法な権利金であっても、その借地関係が、期間満了前に消滅した場合、残存期間の割合に応じて清算して残額を返還しろと借地人がいえるか、という問題はのこります。これを認めると、すでに経過した期間分の権利金が逆に承認されたことになり、反対に、認めないと、前にのべた他代家賃統制令の適用されない借地関係より不利となります。けっきょく、つねに全額返還を認めないと、理論的にも実務的にも、説明かつかないことになります。

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