地代滞納に関する特約の効力

借地契約書に、地代は毎月末に支払うが、その支払が一回でも怠ったときは、地主は、なんらの催告を要しないで借地契約を解除することができる、と書いてあります。先月ついうっかりして地代を月末までに支払うのを忘れたところ、地主は、特約をたてに借地契約を解除したから、借地を明け渡せといいます。地主の言い分は有効なのでしょうか。
近代市民社会は、契約自由の原則というのが働いています。民法の賃貸借の規定は、この原則を前提として、当事者間に特約がない場合の裁判規範として定められています。つまり任意規定です。しかし、これでは、弱い借地人は一方的に不利な特約をおしつけられるので、借地法はいろいろの規定をもうけ、そして、その一一条で、それらの規定に反する契約条件にして借地権者に不利なるものは之を定めざるものと看倣す。と規定しました。借地権者に有利な特約は有効だが、不利な特約は不成立とみなすということですから、こういう規定を片面的強行規定といいます。
一一条により保護をうける契約条件というのは、借地権の存続期間、借地権の更新、更新なき場合の建物などの買取請求権、増改築や事情変更による借地条件変更の裁判、賃借権の譲渡、転貸の承諾に代わる許可の裁判、賃借権の無断譲渡の場合の建物などの買取請求権です。
そこで、一一条やその他借地法に規定のない事項について、借地人に不利な特約があった場合、その特約の効力をどうみるかという問題が生じます。このような特約はいろいろあるのですが、実際上、最も多く問題となるのは、次の三つの特約の場合です。すなわち、第一に、借地権の無断譲渡や借地の無断転貸があった場合には、地主は催告を要せずに直ちに賃貸借契約を解除することができるという旨の特約です。第二に、借地人が地主の承諾をえないで増改築をした場合には、地主は催告を要せずに直ちに賃貸借契約を解除することができるという旨の特約です。第三に、地代の滞納が一回でもあれば、地主は催告を要せずに直ちに賃貸借契約を解除することができる旨の特約です。また、これらの場合には、契約は当然解除になるとか、契約はただちに消滅するというような書き方をしてあるときもあります。そこで、このような特約について、有効だとか、無効だとかいう議論が出てきますし、判例も多く生まれてくるわけです。

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これらの特約については、特約を有効と解し特約に該当する借地人の行為の発生という事実のみで解除権の発生を肯定する見解、および、特約を借地法の精神または借地法一一条の類推上から無効と解し、特約に該当する借地人の行為の発生があっても解除権は発生しないとする見解は漸次後退し、信頼関係理論に落ちつきつつあるといえます。
信頼関係理論によれば、特約違反それのみでは解除はできず、解除権の行使は、信頼関係が破談されたときにのみ有効であるとされるのです。つまり、特約違反も信頼関係に背く一つの事由には違いないが、特約違反の事実があったからといって、それだけで信頼関係が破壊されたと結論を下すべきではなく、他の諸事情も合わせて総合的に判断し、地主、借地人間にもはや信頼関係が存在しないと認定されたときにのみ、契約の解除ができるし、このときには、無催告で解除することができるというのです。地主、借地人間のような継続的債権関係では、債務不履行、契約違反があったからといって、その事実のみですぐに解除権の行使を認めると、裁判所の判断が硬直に過ぎて、現実の生活関係にそぐわなくなります。そこで、戦後の判例理論は、学説の助けを借りつつ、要するに賃貸人、賃借人間は信頼関係にもとづき、貸そう、借りようという関係を形づくっているのだから、一片の債務不履行や契約違反があったからといって、すぐに契約関係が一方的に消滅してしまうような結果を認めるべきでなく、そのような結果を招来できるのは、けっきょく両当事者に信頼関係が失われたときに限るという理論を打ち立てました。現在では、無断譲渡、転貸や無断増改築の場合は、判例はほとんど、信頼関係の有無を最終的に総合判断して、解除を認めるか認めないかを決定するようになっています。そこで、問題は賃料支払の遅滞を理由とする無催告解除留保特約の効力です。
借地権の無断譲渡、転貸の場合は、他人の大事な財産をその承諾もえないで第三者に使用、収益させることだから、悪い性質の債務不履行だというので、その程度がひどいときには無催告解除を認めたといえましょう。また、無断増改築の場合は、その程度がひどいときには催告して原状に復帰させるのも大変ですから無催告解除を認めたといえるでしよう。しかし、地代を滞納した場合は、普通は催告して、いつまでに地代を払えと予告して一定の猶予期間を与えてやり、その期間内に滞納分の支払がなされるなら、それでょいわけです。それでもなお支払がないときは、解除権の行使ができるのです。しかし、近時の判例は、地代滞納、催告、解除という形式を単純に適用しないで、滞納がやむをえない事情から生じたものであったかどうか、その他の地主、借地人間の請事情も考慮し、信義則または権利濫用で解除権の行使を抑えたり、信頼関係が破壊されているとみられる場合にのみ解除を認めるという形で解除権の発生を制限したりしています。以前には信義則や権利濫用で抑制する形式が多かったのですが、最近は信頼関係の形式で抑制する形式がみられつつあります。ですから、一ヵ月分でも、また少額でも足りなかったら、催告なしに解除できるという特約があっても、それはそのまま効力を生ずるものではなく、通常は、催告なしにいきなり契約を解除することは認められません。
しかし、借地人が地代を何期分も続けて滞納しており、その間借地人になんらの誠意も認められない場合とか、滞納して催告があれば支払うが、またすぐに滞納をくり返すというふうに、地代滞納の態様が極めて悪質な場合には、信頼関係が破談されているとみてよいわけですから、地主は催告をしないで借地契約を解除することができると考えられます。最近の学説はしだいにこのような考え方に傾きつつあるようです。もっとも、滞納の期間、借地人の誠意、滞納の態様の性質などは程度の問題ですから、実際のケースでは、無催告解除を認めるかどうかについては、裁判所もそれのみでは判断に苦しむことも多いと思います。ですから、いろいろの事情を酌量して、けっきょくは信頼関係が破談されているかどうかに最後の判断基準をおくことになるでしょう。例えば、少額の地代滞納の場合でも、借地人の行為が悪質であれば、信頼関係が破られたものとして、即時解除を認めることも生じるでしょう。逆に、滞納の期間が長く、金額も大きくなっているケースでも、地代の増額請求をめぐる争いに関連してその滞納が生じた場合には、一概に信頼関係が破談されている重大な義務違反といえないこともあるでしょう。

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