区分地上権の設定

私の所有地が地下鉄道の計画路線にあたっています。地下鉄が作られることになっても、地上の住居は取り払わなくてすむでしょうか。この場合、地下鉄会社とどのような契約をしたらよいのでしょうか。
地下鉄の敷設という公共性の強い事業目的に対しては、たとえ土地所有者が頑張って土地の使用されることを拒絶してみても、最後には土地収用の制度が発動されて、屈服せざるをえないのですから、土地所有者としては、各種の条件が合理的なものであるかぎり、地下鉄会社と合意して、ことを決めることが、得策といえましょう。ただし、その条件が客観的にみても不合理だという場合には、収用委員会さらには訴訟にまで持ち込むことも可能で、相手が公益的な事業だからといって、泣寝入りする必要がないことはもちろんです。
この場合、土地所有者として一番簡単なのは、値段の折合いさえつけば、地下鉄会社にその土地を売ってしまうことで、そうすれば、あとに様々な問題が残る心配はありません。しかしそうすると、地下鉄会社としては、普通自分では必要のない地表を利用する権利をも含んだ所有権全部を取得して、そのために余分な対価を支払わなければならず、また土地所有者の方も、土地代金は全額手に入るにしても、住居も取り払って立退かなければならないことになり、おたがいにとって不利益になります。もっとも、こういうときに、従来の土地所有者が建物を存置させてこれを利用しているのを、地下鉄会社が黙認している場合も少なくありません。しかし、この状態は、単に事実上のものにすぎないか、せいぜい地下鉄会社の土地が使用貸借されて いるにすぎないのですから、旧土地所有者の地位は、きわめて不安定だ、ということになります。
そこで考えられるのは、土地所有者が地下鉄会社に土地を売却するに際して、これに付随して両者のあいだで借地契約を結すび、地下鉄会社の所有となった土地を旧所有者が賃借する方法です。これだと、旧所有者の権利は建物所有を目的とする普通の借地権としての安定した保護を受け、従来からの住居は、そこに長期にわたって存置されえますし、地下鉄会社も地代が入ってくるため、双方にとってより合理的だというわけです。ただし、この場合にも、地上と地下との利用を調節するための各種の事項を、借地契約のなかであらかじめ定めておくことが望ましく、それを怠ると、後日のトラブルの元になるおそれがあるわけです。

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土地

いま述べたのは、土地所有権全体をいったん地下鉄会社に移し、それから、借地権という形で地表の利用権を旧所有者に戻すという方法ですが、このようなまわりくどい方法をとらず、土地所有者はいままでどおり土地所有権を保持し、地下鉄会社には地下を利用する権能だけを与えることができれば、好都合なことは明らかでしょう。このために考えられるのは、地下鉄会社が土地所有者からこの土地を賃借する方法と地上権の設定を受ける方法とがあります。
ところで、賃借の方法による場合には、土地の利用は全面的に賃借人がするというのではなくて、賃借人である地下鉄会社は地下だけを借り、地表の利用はいままでどおり、土地所有者にまかせておくというふうに、利用状況について当事者が賃貸借契約で自由に決めることができる点が便利といえます。しかし他面、賃借権は債権で、しかも地下鉄工事のための土地の賃借権は、建物所有のための土地の賃借権と違って、借地法令建物保護法の保護が受けられず、その結果賃借人つまりこの場合の地下鉄会社の地位は、きわめて不安だということになります。地下鉄工事のように多額の資本を投下し、かつ半永久的な利用を予定するもののためには、土地を賃借するだけで不十分だということになるのは、明らかでしょう。
次に、地下鉄会社が地上権の設定を受ける方法は、地上権は物権であり、設定登記さえしておけば第三者にも対抗しうるから、賃借人、地下鉄会社の地位は安泰です。しかし他面、従来の民法の地上権は、土地全体に、つまり地表の上にも下にも一括してその効力が及び、物権法定主義の建前から、この立体的な土地を上下にいわば層に区切って、その一つだけに地上権の効力を限定するという方法は認められていませんでした。したがって、地上権が設定されたとすると、地上権者、地下鉄会社はこの土地の地上地下のすべての空間を利用しうることになり、また土地所有者はまったく土地を利用しえないことになって、前に述べた所有者が土地を地下鉄会社に売ってしまった場合とほとんど同じ不都合が生ずることになります。
このような不便を解消するために設けられたのが、昭和四一年度に借地法、借家法の改正と一緒に民法中に二六九条の二として追加された区分地上権の制度です。同条一項は、地下又は空間は上下の範囲を定め工作物を所有する為め之を地上権の目的と為すことを得としており、平たくいえば、土地全部ではなしに、他人の土地の地下だけまたは空中だけを使う権利としての特殊な地上権が今度新たに認められることになったのです。
本問の場合に、土地所有者が地下鉄会社のために地下利用を目的とする区分地上権を設定すれば、区分地上権者、地下鉄会社は目的どおりにこの土地の地下に鉄道を敷設することができ、他方、土地所有者も地表上についてはいままでどおり住居を存置して、そこに住むことができ、両者ともその目的を果たすことができるわけです。
一般に、大都市では、土地のいわゆる立体的利用がさかんとなり、地下鉄、地下駐車場、地下街など、地下の一定範囲に工作物が構築されたり、高架線、モノレール、高遠道路など、空中の空間の一定範囲に工作物が設置されたりする例が少なくありません。そして、これらの工作物が他人の土地内に構築ないしは設置される場合には、これまでに述べてきたように、区分地上権の設定という方法で権利関係が調整されるのが、もっとも合理的だということになります。このような必要のために、区分地上権という新しい制度ができたのです。

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