入浜権

日本は海に囲まれ、我々の生活は海と深くかかわってきました。人々は魚を釣り、海岸を散策し景観に憩いを求める等、海浜は多面的に利用されてきました。のみならず、干潟は稚魚、稚貝の産卵場、生息地であり、渡り鳥の寄宿、生息地であるほか、流入河川を浄化する場所でもあり、海浜は地球上のあらゆる生物にとりかけがえのないものです。その一方、平野が少なく人口密度の高い日本では、大規模な産業用地を造成するため安易に海岸線が埋め立てられ、白砂青松の浜はコンクリートで固められ、企業による海岸線の破壊と独占が進行しました。兵庫県高砂市では、瀬戸内梅に面した市の全海岸線が埋立工業基地となり、一般市民が釣りや散歩すらできなくなったため、企業に占拠された海岸を取り戻そうという市民運動が起こり、海に対する発想の転換を可能にし一般市民を海に結びつける論拠として、入浜権が提唱されました。

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土地

入浜権の由来は、昭和五○年二月の入浜権宣言に求められますが、その実定法化の試みである昭和五一年八月の神戸提言によれば、この権利は、海浜の万民共有、海浜への自由な立入りと使用、海浜の独占的排他的使用の禁止、海浜にいたる土地の立入通行などをその内容としています。権利主体は地域住民、後背地住民および海浜を使用しうる市民であり、その効果としては、埋立手続上の権利者となり、その同意を欠く免許に対しては差止訴訟ができ、すでに海岸への立入りが不可能なところでは、立入り、通行請求など、妨害排除請求のできることなどが期待されています。入浜権については、さしあたり次の諸点が間題となります。
神戸提言は万人はすべて等しくその環境を共有し、その恵みを享受する法以前の権利、環境権を有すると述べ、入浜権を環境権の具体化したものとして理解していますが、環境権とは、万人が、健康で快適な生活を亭受しうる権利であって、憲法一三条の幸福追求権と同二五条の生存権とを根拠として構成される人権であり、この権利を承認することによって、行政訴訟では、取消訴訟のみならず規制権限の発動や予防的不作為訴訟を求めることがより容易となり、民事訴訟でも、差止請求や損害賠償請求の認容されることがより容易となります。環境権はまた、市民は国法上いかなる取扱いをうけうるのかという点において、適正手続の要請をも内在させており、その点においても新しい人権です。
入浜権という着想は入会権に由来していますが、入会権は一定地域の住民がその資格において一定の山林原野に共同的に立ち入り、生活に必要な薪炭の採取等をなしうる慣習法上の財産権であるため、これに類似しているのはむしろ漁業権です。入浜権はこれらの権利とは異なって、もっと広範囲の住民が、より人間らしく生きるために必要な海浜を利用する権利です。通常は入浜権と漁業権とは矛盾しませんが、漁業権がもっぱら財産権として処分される段階では入浜権と衝突する場合もでてきます。
行政法学では海岸、河川、湖沼等は、国、地方公共団体その他これに準じる行政主体により、直接、公の目的のために一般公衆の共同使用に供された有体物として、道路、公園等とともに公物と観念され、その管理権は行政主体に属するとされています。公物は、他人の共同使用を妨げない限度で一般公衆が自由に使用することができ、ここから、海岸、河川、湖沼を自由に使用することを包含する入浜権は公物の自由使用として構成することができます。通説によれば自由使用は、公物が一般公衆の用に供せられたことの反射としてこれを享受する利益であって、権利ではないとされ、このような反射的利益が侵害されただけでは訴える法的利益はないと説かれてきました。事実、公有水面埋立免許行政の場では、漁業権、引水権、占用権等の権利者には同意が求められ補償等がなされますが、公水を自由に使用してきた一般住民にはそのようなことは考慮されてきませんでした。しかし、一般住民の法的主体性を等閑視することは、公物は行政主体が国民の信託をうけて管理するものだという新しい理論とは相容れません。他方で反射的利益論は、実体法上の権利保護を目的としているドイツ行政裁判制度のもとで考案された訴えの利益の範囲を限定する法技術であって、行政処分の違法性排除を目的とする日本の行政訴訟には導入すぺきではないとする説もあります。すでに判例上も、村道の自由使用を反射的利益であるとした原判決を破棄し村民の妨害排除請求を認めた例、道路の利用者である近隣住民が歩道橋設置を争う原告適格を認めた例等、公物の自由使用に裁判的救済を与えょうとする例もみられます。

土地
道路の種類/ 道路の設置と管理/ 公共施設の土地の私権行使/ 河川敷占用許可の法的性質/ 公園予定地の時効取得/ 公共用公物の法的性質/ 入浜権/ 公共用公物の占用/ 公有水面の埋立て手続き/

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