権利金、敷金、保証金

2DKの木造アパートを家賃月三万円の契約で賃借し、居住してきましたが、最近、一ヵ月の予定で外国旅行に出かけたところ、帰国まぎわに病気になり、ニカ月ほど現地で入院してしまいました。ようやく帰国してみると、そのアパートには別人が居住しているのでびっくりし、家主に問い質したところ、契約書に従って処理したといいだしました。契約書を読みなおしますと、一五日以上無断で不在にしたときは、借家契約は失効し、借家人の家具その他の動産は家主の指定する倉庫業者に保管させる、と書いてありました。しかし、六ヵ月分の敷金を入れてあるので、そこから滞納家賃を差し引いてもらえれば、契約は失効しないで済んだのではないかと思います。また、滞納家賃を差し引いた敷金の残りについて返還を求めたところ、三年間の「償却費」として受領し、返還の余地はないといわれましたが、それも契約書に書かれていました。法律的にはどうなのでしょうか。
たしかに、敷金というのは、それを差し入れてあるからといって、それだけで、毎月支払う定期の家賃の滞納分を差し引けと借家人側から要求することのできるものではありません。したがって、六ヵ月分の敷金が差し入れてあるからといって、三ヵ月の滞納を黙認せよという根拠にはならないわけです。しかし、本問の場合では、一ヵ月の予定ででかけた海外旅行が、病気で帰国が長びいたというわけですから、借家人の側に責むべぎ事情があるとはいえないでしょう。
問題なのは、借家契約書にある「一五日以上家を留守にするときは家主の了解を得よ」という条項です。これは、最近、いわゆる蒸発する借家人がときどきあり、なまじ家財道具などを残していってしまいますので、家主としてもその処置に窮することがあるからにちがいありません。しかし、通常の健全な社会生活を営んでいる借家人が、一ヵ月の海外旅行に出かけるからといって、いちいち家主の了解をえたり届けたりするような拘束を義務づけることは、それ自体、公序良俗違反になるおそれが強いといえましょう。したがって、本問の場合、海外旅行に無断で出かけたこと自体について、および、帰国が三ヵ月後になったということについては、特に借家人が法的な義務を負担する必要はないと解していいように思われます。
そこで問題は、そのような帰国の延引と、三ヵ月の家賃滞納との関係です。判例では、三ヵ月以上家賃を滞納したときは催告なしに解除できる、という趣旨の借家契約条項につき、そのような無催告解除の特約は、とくにそのような特約を必要とする事情がないかぎり有効とはいえない、としたものがあります。本問の場合、無催告解除の特約があるようですが、従前特に家賃を滞納するような事情にあった借家人ではなく、たまたま海外旅行にでかけて病気のため帰国が遅れたというわけですから、家賃の滞納が信義則に違反するとはいえないと解されます。したがって、家主が無催告解除の特約および一五日以上の不在については家主の同意を得るという特約条項をたてに契約の解除をしたのは、それ自体、権利濫用禁止の原則ないしは信義誠実の原則に違反するものとして、許されないと解していいでしょう。
したがって本問では、借家人は借家を明け渡す必要はないと解されますが、ちなみに、償却費のことについてふれておきます。ふつう、敷金の特約のなかに償却費の条項を織り込む例はそれほど多くはありません。しかし、家主によっては、建物の自然の損耗まで借家人に負担させようとする例が、ときどきみられます。本問もその例だと思いますが、建物の通常の自然的損耗は、建物自体が物理的存在である以上避けられないものであり、それ自体は家主の元本の減少として当然家主の負担に帰すべきものであり、それを借家人に負担させるには、それなりの合理的理由が必要でしょう。もともと、建物が年数の経過に従って損耗し、その減価を償却してゆくことは、ひとつの経済原則であり、それに応じて家主は家賃の減額、または値上げの停止を自然に強いられていくのも、経済原則だといえましょう。そうだとすれば、そのように本来家主自身の負担に帰すべき建物の減価償却費自体までも借家人に負担させようとするのは、とくにそれを必要とする合理的理由が見出だされないかぎり、その正当性を許容することは困難な特約だといわざるをえません。
このように、合理性のない契約を借家人と家主との契約条項のなかに盛り込んだ場合、それが法律的に有効であるかどうかを決定する基準としては、民法九〇条の公序良俗の原則と、借家法の、借家人に不利な特約を禁止する条項とがあります。本問における償却費の場合、特に借家法の明文の条項にあてはめるのはむずかしいと思いますが、同法七条の家賃増減額請求権の条項に有機的に結合している問題だと考えられますので、同法七条によってそのような特約は無効であると解することもできるのではないでしょうか。

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土地

三年前に、出張所の事務所にするため、現在のビルの一室を賃借しました。契約のさい、保証金二〇〇万円を提供しましたが、この保証金は、一〇年間は据置きで五年目から日歩五厘の利息がつくといわれました。しかし、最近このビルの場所が営業には不向きであることが確認されましたので、賃貸借契約を解消して他のビルヘ移りたいと思い、保証金の返還について交渉しました。しかし貸主は契約書をたてにとり、賃借人の都合で解約する場合には一〇年間は返還しないとつっぱねております。保証金をただちに取り戻す方法はないのでしょうか。
保証金は敷金とちがい、賃貸借契約が終了してもただちには返還されず、本問のように据置きの特約があるのがふつうです。保証金のことをときには建設協力金とよぶこともあります。保証金の性格は、むしろ建設協力金という名称のほうがはっきり示しているかもしれません。というのは、貸ビル業者などが、貸ビル建設資金の一部に充当するため、銀行からの融資を受けるよりは、無利息または金利の安い条件で予約者からかなりまとまった資金を集めることができるからです。いわゆる保証マンションのような、保証金だけで建物を建築し、入居中は無利息で出資金を預かる反面、無償でマンションの利用を許す、という方式などは、その極端な代表といえましょう。
ところで、保証金は、貸主にとってはいわば建設資金の一部であり、随時返還を要求されては資金的な基礎を失って倒産するおそれもあるでしょう。したがって、それ自作は、通常の金銭貸借契約であるならば、特に無効だということはできません。ところが、五年間無利息で据え置いたうえ、あとの五年間だけ日歩五厘という低利で借り受ける場合は、事実上ほとんど無利息に近い状態といえます。
この無利息に近い出資金の対価として、たとえば入居者の賃料をそれだけ低廉にするというような特恵でも与えられるなら、そこには出資金の金利以外の対価関係が保証されていることになりますから、出資者たる入居者と貸主とのあいだの経済的な均衡は保たれたことになります。これに反し、低利の大金を出資させながら、賃料に特恵を与えない場合には、一種の暴利行為に近い問題が発生します。したがって、通常の庶民住宅などの貸借にそのような保証金契約が結ばれた場合には、公序良俗に違反する暴利行為だと判定できることが多いでしょう。しかし、事務所用にするための貸ビルの貸借では、必ずしも賃借人の立場が社会法的に保護されなければならないほど弱いともいえませんので、その程度の保証金契約は必ずしも、公序良俗に違反するとは速断できないことが多いと解されます。
もっとも、賃貸借契約は三年で終了したことになりますから、かりに出資金の対価として賃料に特恵が与えられていなかった場合でも、それは賃貸借と相関関係にあるがゆえにその効力を保持していたにすぎないわけです。したがって、もし賃借人が三年で契約を解消し退去することになりますと、残り七年分が無利息またはそれに近い低利の金銭貸借として孤立することになり、これをそのまま放置することは合理性を失し、その点から公序良俗に違反する暴利行為に相当するという疑問がでてきます。したがって、本問の場合には、賃貸借契約が終了した時点から通常の世間並みの金利契約に自動的に転換するか、または協議によって転換するか、どちらかの途が認められないかぎり、公序良俗に違反する暴利行為となり、賃借人は契約の無効を主張して返還を請求することができると解していいのではないでしょうか。

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