立退料

立退料というのは、借家契約終了の際に家主から借家人に提供される移転に関する費用です。立退料については、民法にも借家法にも特別の規定はありません。しかし、すでにかなり長期間にわたって、実際の借家明渡に際し立退料を支払うという慣行がほぼ確立しているといえます。したがって、いわば不文法として、それ自体かなりの程度に法的効力のある慣習になっているといえましょう。判例もまた、立退料の支払を条件として解約を許容する場合があり、その点においては判刑法になっているともいえるわけです。このように、立退料に関する原則は、不文法、慣習法、判例法などによって、今日では、借家人の側にも、また家主の側にも、それぞれ法的な効力のある金銭として意識されるにいたっています。しかし、もともと慣習のなかで形成された法律問題なので、その額の計算基準や支払方法などについては、具体的、個別的な事例の相違に応じて、多様です。
立退料は、主に借家について問題となりますが、借地の場合でも支払われることが少なくありません。しかし、借家の場合と借地の場合とでは、立退料に間する法律的な意味にかなりの違いがあることに注意しなければなりません。
借地の場合には、もともと借地権の存続期間が法律によって保障されており、期間の中途で借地人が立ち退かなければならないことは、原則としてないわけです。遂にいうと、借地の場合には、期間の中途で借他人を立ち退かせようとすれば、それは、借地人との合意による立退料の支払を条件としてのみおそらく可能となるに違いないのです。
この点、借家の場合には、借地契約のように期間の保障がなく、家主は正当の理由が備わりさえすればいつでも解約の申込ができるという解約方式となっています。このため、借家の場合には、正当の理由が不足している場合に、それを立退料によって補完して解約を実現しようとする家主があらわれやすいのです。こうして、立退料の慣行は、借家関係で主に発展したわけです。
そこで、立退料の問題を考える場合には、そもそも立退料を提供しさえすれば正当の理由がつねに成立することになるわけではないということを、はっきり認識しておく必要があります。いいかえると、立退料は、本来、正当の理由に代替しうるものではなく、むしろ、正当の理由が存在し解約が許される場合でも、解約によって借家人に発生する損害を埋め合わせるために提供する必要のある金銭である、ということも注意しておく必要があるでしょう。

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土地

二〇年ほど前に、木造二階建二〇坪、敷地三五坪の現在の建物を賃借し、今日に至りました。私達家族は、この建物および土地によくなじみ、生活もこの土地から離れては考えられないほどになっております。ところが最近家主が、この建物を取り壊し鉄筋コンクリートの事務所を建てて自分の事業に使いたいから明け渡してほしいと申入てきました。私は、他の土地に転居することを考えたこともなく、生活も安定しているので、移転する気は毛頭ありません。そこで、その旨を伝えたところ、家主は立退料を二〇〇万円提供するから、それと引換えに明け渡してほしい、もし承諾しなければ裁判にかけても取り戻してみせる、と言いきっております。立退料を提供しさえすれば、立退きをさせることができるのでしょうか。
すでに説明しましたように、立退料さえ払えば立ち退かせることができるというわけではありません。家主が借家人を立ち退かせることができるのは、正当の理由がある場合にかぎられます。
本問の場合、家主はその場所で事業を起こしたいと考えているようですが、その場合、家主の生活上の必要性とその事業との関連性が問題となります。この点は、すでに説明したとおり、具体的な状況にこまかくあたってみないと結論はでませんが、仮に家主の生活利益が、解約申込基準の切実にあたるとした場合、あなたがた借家人の必要度も切実ないしは、死活に近いものといえると推測できます。かりにそのような前提で考えてみますと、双方が切実にあたっている場合には、家主の正当の理由はないと解釈してよいと思います。しかし、このような場合、家主の提供する立退料の額いかんによっては、それによって正当の理由が補完され、解約を認められる場合も、例外的ではありますが、判例にみられます。
立退料には、次の三つの種類があります。
(1)引越料に相当する立退料。これは、新しい借家に移るためのいわゆる運送費です。この引越料に相当する立退料は、本来からいえば、家主に正当の理由がある場合でも、借家人の責任によらないで立ち退かせるわけですから、支払義務があるというべきはずなのです。この点、日本では判例はありませんが、実際には、厳密な判断を加えることなく、漠然たる立退料の中に加算されていることが多いようです。
(2)借家人が新しい借家に移るための権利金。敷金、保証金、礼金等の一時金のたてかえに相当するもの、いねば損失の補償ともいうべき立退料です。このなかには、敷金のように、将来借家人が借家を立ち退くさいに返還される可能性のある金額もあり、それらはいわばたてかえ金のような性格を有することになります。この損失補償としての立退料も、家主に正当の理由がある場合でもなおかつ負担するのが、条理にかなったものといえます。
(3)純然たる借家権という権利を消滅させることに対する補償。これが立退料の軸になると考えられております。この場合には、借家権という権利の具体的強さがどの程度であるかによって計算されます。例えば、建物も老朽化し、借家人も老齢で、後継居住者も存在しないような場合には、借家権は遠からず消滅することが予想されますから、財産的価値はそれほど高いものとはいえないでしょう。これに反し、建物の耐用年数もかなり長期間を残しているだけでなく、借家人もまだ働き盛りであり、また後継居住者が存在するときは、借家契約の解約も困難となりますから、借家権の財産的価値もかなり高価なものとなります。時には、土地、建物の売買価格の四割から六割に達するでしょう。
立退料は、恩恵的、好意的に家主から与えられるものか、それとも権利として借家人から請求できるものかについては、学説のあいだに見解の相違があります。しかし、そのような見解の相違は、単純に平面的な角度から考えると正しくないのです。家主に明渡要求の正当の理由がある場合には、立退料の支払は原則としてほとんど必要なく、むしろ、そのような立退料を支払えないところにかえって家主の窮乏が認識され、明渡しが認められうるわけなのです。それに反し、家主側に解約の正当の理由が存在しない場合には、立退料を提供しても、本来は明渡しが認められないはずのものですが、例外的に、立退料によっていわば借家権を買い戻し、かつそのほか借家人に発生するすべての損害を補充する意味で、立退料を提供することができれば、解約を許すことがありうるわけです。
したがって、正当の理由がある場合には、家主が提供する立退料は、その一部を除いては恩恵的、好意的なものとなるでしょうが、正当の理由がない場合では、むしろ借家人側の権利として請求しうることになるでしょう。

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