借地権の対抗力

借地上に建物を建築し、居住して一〇年になります。ところが最近、地主から土地を買ったという見知らぬ人が訪れてきて、あなたの借地権は登記がないから新地主である私に対抗できない。すぐ建物を取り壊して立ち退いてほしい、と寝耳に水の要求をされて、困惑しています。たしかに、建物を新築したさい、私のほうから登記の手続はふみませんでした。しかし、建築後まもなく登記所の職員と称する人が訪ねてきて、建物の現況調査がなされ、そのことが登記簿に記載されると聞きました。その後、登記所にはでかけておりませんが、登記所のほうで職務上登記をしてくれているはずなので、登記がないともいえないように思われます。登記所の職員が職務上怠った登記がある場合でも、あらためて借地人から登記の手続をとらなければならないものでしようか。
借地権には地上権と賃借権とがありますが、こ のうち地上権は物権であり、賃借権は債権です。この区別は学問的にも実務的にも重要なものですが、非法律家にとっては難解かもしれません。そこで、賃借権である通常の借地権について説明しておきましょう。
賃借権の場合には、地主に登記協力義務がないと解されることが多いので、借地期間中に土地所有者が交替してしまいますと、借地人は新地主に借地権を対抗できず、土地を不法占拠していることになって建物の取壊しを要求されるおそれがあります。こういうことは、明治の求、現実に土地の投機売買がさかんだ頃しばしば発生し、地震売買とよばれました。地震売買とは、地主が替わると借地人の建物が取壊しになる、というところからつけられた比喩ですが、建物という多額の投資をした借地人の地位を不安定にするのは許されないので、明治四二年に「建物保護二関スル法律」が判定されました。建物保護法は、借地人が地主の協力なしに単独で登記できるところの建物登記によって借地権の登記に代用させたものでした。借地人は、借地上の自己所有の建物を登記しさえすれば、以後地主が変更しても借地権を失うおそれはないことになったのです。こうして地震売買は制度上封じられることになったわけです。
このように、建物保護法によると建物の保存登記が必要とされています。いいかえると、建物の保存登記がない場合には、借地人はモの借地権を新地主、またはそれに準ずる抵当権者などに対抗できず、建物を収去しなければならないのが原則です。しかし、この原則については、かねてから学界で有力な修正意見が述べられていました。その修正意見には二つあります。
借地権にかぎらず、対抗問題の生ずる法律関係については、その保護を受くべき第三者が善意、無過失であることを要するという見解、この見解は公信力説とよばれ、最近は判例のなかにもかなり浸透しつつあるという見方も有力です。この考え方では、新地主となる者が土地を購入する際、たとえ未登記借地権であっても、その地上に借地人所有の建物が建築され、しかも借地人やその家族が居住していることは一見して判別できるわけですから、土地購入の際そのような現地の調査、確認を怠った点に過失があれば、未登記借地権を否認することができないというわけです。
特に借地権のように借地人の地位 が弱い法律関係にだけこの公信力説の見解を適用しようとするもの、この二つの見解は、借地権に関するかぎり完全に合致することになります。
本問の場合、登記所の職員が家屋の現況を調査に来て、職務上それを登記簿に記載するような言動をした、という記億があるようですが、これは実は登記法にその趣旨の規定があるのです。しかし、登記所の職員が現況を確認し職務上登記をおこなうのは表示に関する登記といわれるもので、それ自体、権利関係の確定ないし対抗力を予定した登記ではありません。もっとも、最近、学説のなかには、そのような表示に関する登記であっても、それによって建物の存在を推認することができるから、借地権に対抗力を認めても差支えないではないか、という見解が有力になり、しだいに通説に近づきつつあるといえます。判例は、このような表示に関する登記に対抗力を認めることについては必ずしも一致しておりません。しかし、近い将来において表示に関する登記に対抗力を認める判例がでることは十分に予測されますから、本問の場合には、その点を主張し新しい判例を形成しながら権利を主張することも、興味ある一方法といえます。
それから、地震売買によって借地権を失う結果になった借地人は、最終的には、地主であった自分の契約の相手方にむかい、借地権を失ったことにもとづく全損害の賠償を請求することができる、というのが通説、判例です。したがって、本問の場合、借地人は、建物が取り壊されることになる場合には、その建物の価格はもちろん、消滅した借地権の価格およびトラブルによって要した訴訟費用や休業補償費用のすべてを、旧地主にむかって損害として賠償を求めることができるわけです。

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土地

こんど借地上の建物を増改築したのを機会に、登記名義を長男のものに移しました。いずれ跡継ぎになる息子なので当然のことと思ってしたわけです。ところが、地主がその登記名義をみつけて、登記の無効を言いたててきました。このままでは借地権の消滅になりそうで不安です。どうしたらいいのでしょうか。
登記というものは真実の権利関係に一致していることが原則ですから、建物の所有権があなたのものである場合には、登記名義はあなたのものでなければなりません。したがって、息子名義にした意図は、(1)建物の所有権まで息子の名義にしたつもりなのか、それとも、(2)建物の所有権は依然あなたのところに帰属させておきながら、ただ将来あなたの死亡されたときにおける相続登記のわずらわしさをあらかじめ回避するため登記名義だけを息子のものに移したのか、という点の認識がポイントになります。
もし(1)の方だとするならば、建物の所有権は息子のほうへ移ったわけですから、借地権同時に息子に移ったことになり、したがってそこには、すでに説明した借地権の譲渡があるとみなければなりません。ところで、借地権の譲渡については、これも原則として地主の承諾を受けるのが民法のたてまえですが、しかし、自分の息子に建物を譲渡し同時に借地権を移転することはわが国の家族生活における長いあいだのしきたりであり、社会通念となっていますので、それだけでは地主に対する信頼関係を破壊したものとは認められないことが多く、したがって借地契約は解除されないとみていいでしょう。
これに反して、(2)の方だとすれば、登記は無効にならざるをえません。つまり、所有者でもない息子の名義に登記をしたからといって、息子としては所有者だと主張する根拠がないわけですから、登記はカラ登記という結果におわります。そうしてその場合、真実の所有者たるあなたは、建物を所有しているにもかかわらず登記を欠いていることになって、対抗力のない借地権を保持している結果におわってしまいます。もっとも、そのような形式的な法律原則とは別に、日本の昔からの社会通念として、家庭共同体とか家団という家族共同生活の意識が続いていますので、父親の所有する建物の登記名義を息子にしておくことは、このような家庭共同体とか家団という社会通念を前提とすれば、単純に無効だとはいいきれない面が残ります。判例では、これを無効にした有名な事件がありますが、学者はその判例を支持しておりませんので、日本の家庭共同体とか家団という社会通念を基礎として、その登記は有効であると解しても、それほど弊害は考えられません。したがって、法律上は有効だと解すべきでしょう。ただし、判例がこの解釈に従わないかぎり、形式的には法的に無効な取扱いを受けることになります。

土地
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