第三者に対する損害賠償責任

ビルの建設をA建設会社に請け負わせたところ、A社が下請けをさせたB塗装店の従業員Cが、バケツを足場から落下させて通行人に負傷させてしまいました。被害者から私に損害賠償を請求してきましたが、私が賠償をしなければならないのでしょうか。A建設会社との請負契約では、第三者に損害を与えた場合には請負人がその処理解決にあたると定めてあります。
建築工事によって第三者に損害を及ぼした場合における注文者の責任に関しては、(1)注文者の責任を定めた民法七一六条、(2)使用者の責任を定めた同七一五条の規定があります。ほかにも、(3)一般的不法行為を定めた同七〇九条、(4)土地の工作物に関する所有者責任を定めた同七一七条、共同不法行為に関する同七一九条などもありますが、本問の場合には、主として(1)(2)がかかわってきます。
民法七一六条本文によれば、注文者は、請負人がその仕事につき第三者に加えた損害を賠償する責任を負わないことになっています。請負人は注文者の依頼を受けて独立してその名で工事をし、注文者は通常その工程に関与するものではないから、請負人がその工事によって第三者に与えた損害は請負人がこれを負うのが建前であって、注文者は賠償の義務はない、という考え方です。ただし、注文または指図につき注文者に過失があった場合は、注文者が自己の過失責任として損害賠償の責任を負うことになっています。これもまた、民法七〇九条の不法行為の一般原則からいって当然のことであって、ただこれを注意的に規定したものにすぎません。
本問の請負契約書にある「第三者に損害を与えた場合は請負人がその処理解決にあたる」との条項は、民法七一六条の法意と同様のものと解されます。

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民法七一五条は、ある事業のため他人を使用する者は被用者がその事業の執行につき第三者に加えた損害を賠償する責めに任ずる、と規定していますが、請負契約関係にもこの使用者責任を問われることがあります。今日の判例、通説では、試用関係にある従業員の不法行為について使用者が責任を負うにとどまらず、例えば下請負人の従業員と元請負人との間のように直接的な契約関係がない場合においても、加害者および加害行為につき直接的、間接的指揮監督関係がある場合には、その加害行為が外形上「事業の執行」にあたるものとみなされると、元請負人にも七一五条の使用者責任を負わせております。元請負人は下請負人に対する関係では注文者の地位にあるわけですから、注文者も請負人ないしその被用者の行為に指揮監督関係がある場合には、前述の七一六条とは別個に七一五条によって賠償責任を負うということになります。この場合は、「使用者」たる注文者は、加害者たる下請負人の従業員およびその使用者たる下請負人と不真正連帯債務の関係に立ち、被害者から損害の全額を請求されますと、これを支払わねばなりません。もっとも、規定のうえでは、被害者に支払った分は、過失をおかした従業員に対して求償することができることになっています。
注文または指図に過失があって第三者に損害を与えた場合のように、損害発生につき注文者にも責められる理由があって、それによって加害者のミスを誘った、というように両者に客観的な関連共同性が認められるときは、注文者は、直接の加害者と共同不法行為の関係にたち、全損害につき連帯責任を負うことになります。共同不法行為者として全部の賠償をした場合は、他の者に対して内部的な負担部分に応じた求償権をもつことになります。
これら、注文者に法律上第三者に対する損害賠償義務が認められる場合は、第三者の損害については請負人のみが賠償責任を負う旨の特約があったとしても、それはあくまで内部関係のことであって、対外的関係つまり被害者たる第三者に対してはこの特約をもって対抗できず、損害賠償請求に応じなければなりません。ただ、このような免責条項があれば、注文者は請負人に全額求償できることになります。
本問のバケツの落下事故は、特別の事情がないかぎり、下請負人B塗装店の従業員Cの過失によるものです。このようなビルの外壁塗装作業にあたっては、当然落下物の防止に十分注意すべきであったのに、このような注意義務を怠って事故をひき起こしたのですから、過失にまちがいありません。そうしますと、Cの民法七〇九条による自己責任と、使用者B店の七一五条による使用者責任とが認められます。またA社も、ビル建設の元請負人として、現場監督人を置くなどして指揮監督関係を有した場合には、前述のように七一五条の使用者責任を負います。使用者責任については、七一五条一項但書に、使用者が被用者の選任およびその事業の監督につき相当の注意をなしたとき、または相当の注意をなしても損害が生ずべかりしときは責任を免除される旨規定されていますが、この免責事由は実際には容易に認定されません。
この点につき、建築基準法九〇条は、「建築物の建築、修繕、模様替又は除却のための工事の施工者は、当該工事の施工に伴う地盤の崩落、建築物又は工事用の工作物の倒壊等による危害を防止するために必要な措置を講じなければならない」と規定しており、この規定をうけて、建築基準法施行令の第七章の二「工事現場の危害の防止」第一三六条の四第二項は、「落下物によって工事現場の周辺に危害を生ずるおそれがあるときは、工事現場の周囲その他危害防止上必要な部分を鉄鋼又は帆布でおおう等落下物による危害を防止するための措置を講じなければならない」としておりますから、このような取締法規の下において、バケツの落下により通行人に被害を与えたということは、施工者たるAおよびB自身にも法令違反の過失が認められることになり、七〇九条の自己責任の賠償義務が出てくるでしょう。
では、注文者の責任はどうでしょうか。多分、工事の施工は請負人に任せていたと思われますが、そうであれば注文者は民法七一五条の使用者責任を負いません。また、注文者は、注文または指図について過失がない以上、請負人が第三者に加えるおそれのある危害を防止するための施設をするとか請負人にそうさせるべき義務を負いませんから、自己責任としての賠償責任もありません。

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