請負建築建物の所有権の帰属

分譲用の建物一〇棟を建築する注文をし、請負人Aが自分で材料全部を調達して工事を進めました。そのうち五棟のが完成しましたが、請負代金はまだ全部支払済みにはなってせん。私は、今の段階から分譲希望者を募って、入居できるろから逐次分譲しようと考えていますが、請負人Aは、出来た建物の所有権は引き渡すまでは請負人にあるから、そのようなことはできないといいます。Aとの請負契約書には、出来あがった建物の所有権のことは定めてありませんが、やはり請負人が所有者になるのでしょうか。その後、Aは完成した建物につき自己名義で保存登記をしてしまいましたが、Aのこのような登記は認められるのでしょうか。
請負契約によって出来あがった工作物の所有権が誰に帰属するか、という問題については、これにそのま該当する規定は見当たりません。強いていえば、物権の設定および移転は当事者の意思表示のみでその効力を生ずる、と規定している民法一七六条によって、当事者たる注文者と請負人の意思で決まるということになりましょうが、当事者の契約の中でこの点がはっきりしていないときが問題になってきます。少し前まで、判例および多教説は、次のような結論を出していました。
(1)注文者が材料の全部または大部分を提供した場合は、はじめから注文者のものになる。
(2)請負人が材料の全部または大部分を調達した場合は、請負人がまず目的物の所有権を取得し、引渡によって注文者に移転する。
(3)請負人が材料を調達した場合でも、特約によって、注文者がはじめから所有権を取得することができる。代金が支払済みの場合は、このような特約を推認することができる。
というものです。この考えは、建築請負契約の場合にもあてはめられてきましたから、本問で請負人が、出来た建物の所有権は引き渡すまでは請負人にあると主張しているのも、ここに述べた(2)の見解に依拠しているわけです。
ところが、このような考え方は、建築請負契約の場合には妥当性が疑われます。建築請負契約の実態からみて、完成した建物の所有権は注文者がはじめからこれを取得すると考える方が適当だと思われます。

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土地

建築請負代金の支払方法は、分割払いがもっとも多く、民間の住宅の場合には、着手時、棟上時、それに完成時にそれぞれ請 負代金の三分の一ずつ支払っておりますし、事務所、工場など比較的大規模な建築工事では、請負代金を工事期間月数で割って毎月均等払いする方法がとられるのが慣行となっています。このような慣行では、建築工事が完了した段階においては請負代金の少なくとも七割前後ないしそれ以上を注文者が支払っていますので、前述の考え方でも(3)の特約を推認することができ、注文者の所有権取得を認めることになります。
また、今日の建築工事においては、それぞれの部分工事を専門の下請工事業者が施工し、元請負人はこれら下請工事業者を指導し、かれらの連絡調整をはかり、その建設工事について総合的な施工管理をして一つの建築物を作り上げる、という施工体制がとられています。小規模な個人住宅の建築でも、請負人が自分で全部施工するのではなく、各部分工事について下請工事業者を使っており、それらの下請工事業者は自分で材料、器物を調達して下請作業をやっていきます。だから、従来のように請負人が所有権を取得すると考えますと、請負人側に複雑かつ奇妙なことが出てくることになります。
そのほか、理論的に考えても、完成した建物を請負人が所有するとなると、不動産工事の先取特権を設定することができなくなり、同時履行の抗弁頻々留置権が意味をもたなくなります。また、注文者が引渡前に保存登記をするとこれを無効といわなければならないし、敷地の利用関係も説明がつかなくなってしまいます。それに、通常、請負人がみずから建物を所有する意思を有しているとは、請負契約の中から考えられません。このような当事者意思からいっても、建物所有権は原則として注文者にはじめから帰属すると考えるべきです。
最近の判例では、注文者に所有権の取得を認めているものがふえています。以前にも、大審院は、建築請負契約において代金が支払済みになっているケースにつき、「建物の完成前にすでに請負代金全部の支払を完了した以上、特別の事情がない限り、当事者間にその建築家屋は工事完成と同時に注文者の所有とすべき暗黙の合意があったものと推認するのが相当である」と判示していましたが、この考えは、請負代金の全額または大部分を支払ったときにまで推し進められ、さらに、最近の最高裁判例は、特に特約の推認という言い方でなく、代金支払の事実があるという理由だけで、注文者が所有権を完成と同時に取得するということを認めました。このケースは、本問の場合に似ており参考になりますので紹介しておきます。
注文者Aが四戸の建物について建築請負契約を結び、請負代金のうち半額以上を棟上げのときまでに支払い、そのあとは工事の進行に応じ数回に分割して支払をしてきました。予定より若干遅れましたがほぼ完成した段階で、注文者が玄関の合鍵をうけたまま未登記にしているうち、請負人Bの債権者Cが、建物は請負人の所有であるとして、仮差押命令を得てB名義の保存登記をしたうえCの仮差押登記をしたものです。一審判決は、建物はすでにAの所有になっているから、これをBのものとしてなしたCの仮差押は違法であるとしました。B、Cは控訴して、建物の請負契約においては、工事完成、引渡によってはじめて注文者に所有権が移るのであって、それまでは請負人の所有に属するから、請負人たるBの所有としてなされた建物の仮差押は有効である、と主張しましたが、大阪高裁、最高裁ともにこの主張をしりぞけました。つまり、本問の請負人の主張が認められなかったわけです。最高裁は、「全工事代金の半額以上を棟上げのときまでに支払い、なお、工事の進行に応じ、残代金の支払をしてきたというのであるが、このような事実関係のもとにおいては、特段の事情のないかぎり、建築された建物の所有権は、引渡を待つまでもなく、完成と同時に原始的に注文者に帰属するものと解するのが相当である」と判示しました。学説でも、最近では、以前の見解を否定する注文者原始取得説が有力になっています。
本問の場合、請負代金がどれほど支払われているかが、やはり一つのポイントになるでしょう。「まだ全部支払済みにはなっていません」ということですが、全額支払われていないとしても大部分が支払われていれば、これまでの考え方からいって、注文者に所有権が認められることがわかると思います。特に本問の場合は、一〇棟のうち五棟の建物が完成したというのですから、可分的なものと考えることができます。つまり、これまで支払われている部分が請負代金総額について何パーセントになるかではなく、五棟相当分について、その全額に当たるか、それに近い額なのか、ということで判断できるわけです。
さらに、代金支払の有無にかかわり なく注文者が所有権者になるという考え方ができます。学説の注文者原始取得説はこの立場をとるわけですが、最近の最高裁判例は、これにやや近い判断を示したものとして注目されました。このケースも、本問に類似しているので大いに参考になります。
いずれにしろ、完成した建物五棟については注文者の所有と考えてさしつかえありません。このように解しても、請負人に苛酷なものとはならないのです。請負人には同時履行の抗弁権がありますから、注文者が約束通り代金を支払わなければ、残りの建築工事を差し控えることができますし、そうでなくても、出来あがった建物につき留置権をもちますから、引渡を拒否をすることができます。また、債務不識行を理由とする損害賠償請求権や契約解除権が認められることも前述したとおりです。

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