材料費と労賃の値上げと請負代金

家屋の新築を建設業者に発注し、請負代金は一、〇〇〇万円、材料は請負人の負担、工事の完成は七ヵ月後ということで契約しました。ところが、工事に着手した後五ヵ月ばかりしてから、請負人は、「材料費も労賃も値上りしたので工事費を値上げする。もしこれを承認しないならば残りの工事はできない」と一方的に申し入れてきました。材料費や労賃が値上げになれば、請負代金は当然に値上げできるものでしょうか。請負契約書に「双方が協議のうえ請負代金額または工事の内容を変更することができる」とある場合はどうでしょうか。請負契約書を見ますと、「注文者と請負人との間に紛争が生じたときは、当事者は建設業法による建設工事紛争審査会の斡旋または調停によってその紛争を解決する」という条項があります。請負人が一方的に値上げした請負代金を請求して訴訟を起こした場合は、この条項との関係でどうなるのでしょうか。
請負契約は、当事者の一方がある仕事の完成を約束し、相手方がこれに対する報酬(請負代金)を支払うことを約束することによって成立する契約です。請負代金は、仕事を完成させるのに必要な材料や労力等の見込額に一定の利潤を加えて算出した金額で決められるのが原則的な形です。仕事の完成を一定金額で請け負うわけですから、建前として、請負契約を結んだ後、労賃や資材などの値上りがあったり、必要量の見込違いがあったとしても、問題になりません。この点が、投下した労働力の量に比例して報酬を支払う雇用契約や、買った物の代金の合計額を支払う売買契約と異なる特徴です。請負人が当初の予想を上回る労力や材料をつぎ込んだとしても、約束どおりの仕事を完成しなければ、債務を履行したことになりません。要するに、定額請負の場合は、原則として、工事途中の労賃や材料費の値上りがあっても、請負人は、このことを理由に請負代金の値上げを請求することができないわけです。これが、民法の請負の原則です。

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法律は、当事者が自主的に判断して契約をした以上、この契約どおりの法的効果を与え、もし一方(債務者)がこの契約を履行しなければ、相手方(債権者)に、履行の強制や損害賠償を求める権利を認め、さらに契約の解除権を与えています。つまり、債務者は契約どおりにこれをなす義務を負い、債権者はこれを請求する権利をもつわけです。しかし、契約当時に全く予想もされなかったような社会的事情などの変化が生じたため、契約の文言どおりに履行させることがかえって信義誠実の原則に反する場合もでてきます。このような場合には、遂に債務者に、契約の内容をしかるべく修正することを請求する権利が認められ、ケースによっては契約の解除権が認められます。これが事情変更の原則です。借地法一二条の地代増減請求権、借家法七条の家賃増減請求権、身元保証に関する法律四条の身元保証人の契約解除権などは、この事情変更の原則が成文法にとり入れられている例です。
ただ、注意されるべきことは、契約締結の後で、少し都合が悪くなったといって、勝手に事情変更の原則をもち出し、責任の回避を図ることは、許されません。事情変更の原則が適用される要件としては、
当事者の予見しなかったまたは予見しえなかった著しい事情の変更が生じたこと。
その事情変更が当事者の責めに帰すべからざる事由によって生じたものであること。
契約の次回どおりに履行を強制することがかえって信義則に反することになること。
が必要だと解されています。契約全般についてこのような要件が考えられているのですが、とくに請負契約については、前述のように仕事の完成を一定金額で「請け負った」という特賃がありますから、この要件を充たしているか否かを判断する場合に、厳格な態度が要求されるでしょう。本問の場合も、単に労賃率材料費が値上りしたというだけでは請負代金の値上請求権は認められません。
ちなみに、前述の地代、家賃増減請求権については、土地、建物に対する租税その他の公課の増減や土地、建物の価格の昂低により、または比隣の借賃に比較して「不相当たるに至ったとき」となっていますが、建築請負契約では、前の請負代金が「明らかに不相当」になったか否かにかかるでしょう。
請負代金の変更について当事者間で特約してあれば、この特約によって値上請求権が認められます。建設業法は、建設工事の請負契約の当事者に、建設工事請負契約書の作成義務を課し、必要記載事項の一つとして、「価格等の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更」をあげています。これをうけて、中央建設業審議会作成の民間建設工事標準請負契約約款、標準請負契約約款、および四会(日本建築学会、日本建築協会、日本建築家協会、全国建築業協会)連合協定の工事請負契約約款においても、同旨の条項がみられます。
これらの価格変動条項からわかるように、最近の建築請負契約は、民法の請負の原則から離れた特殊の契約となっており、工期内に賃金や物価の変動があることをある程度予想して、労賃や資材価額の値上りの場合は、一定の条件のもとで請負代金を変更することができることになっているのです。請負代金の決め方も、前述の定額請負のほかに、請負代金の確定を後日に予定し、契約を締結するときには概算額を定めるにとどめる「概算請負」の方法があり、この場合には、後日の労賃や資材の値上りを理由に増額をすることが認められていると考えられます。
請負契約書には「双方が協議のうえ請負代金額または工事の内容を変更することができる」とあるのですから、やはり、事情によって値上げすることが認められているといえます。問題は、値上請求が認められるだけの事情が発生しているか、値上げの幅をいくらにするか、ということになります。ただ、協議のうえ変更することができるとなっていますから、請負人が一方的に値上げを通告し、これを承認しないなら残り工事はでぎないというのは、法律的にも妥当ではありません。おそらく、請負人は同時履行の抗弁権を法的根拠に考えているのだろうと推測されますが、同時履行の抗弁権は、こういう場合には認められません。前述の地代、家賃の値上請求権については、値上請求の一方的意思表示で値上げの効果が発生する、つまり形成権である、と判例、通説で考えられています。もちろん、値上請求権行使の要件を充たしていなければなりませんが、本問の場合は、請負人の一方的申入だけで直ちに値上げの効果が生じ注文者が債務を負うと解すべきではないでしょう。
当初の請負代金が著しく不適当とみられるにいたるほどの労賃や材料費の値上りの場合は、「協議のうえ」とあっても注文者に値上請求に対する拒否権はないと解すべきですが、それほどの事情の変化がない場合は、協議して合意に達しない以上新たな債務が注文者に発生しませんから、請負人が工事を遅滞するにつき正当事由は認められないわけです。

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