土地収用と正当な補償

分配の公正基準に基づく補償基準によれば、基本的人権を侵害するに至るほどの損失はすべて補償されなければなりませんが、次の点に注意が必要です。まず第一に、自らの意志に反して、被収用地を去って、新しい土地に住まなければならないことに伴う精神的苦痛、旧来の人間関係の崩壊等による損失があります。これらは、主観的なものであって、確定することは極めて困難ではありますが、被収用者にとっては重大な問題となります。ところが要綱の施行に関する閣議了解は、従来一部において行われてきた精神的損失に対する補償、協力奨励金その他これに類する不明確な名目による補償等の借置は、行わないものとする。と述べています。さらに、被収用者が被る金銭的損失は、収用後にも発生する可能性があります。つまり、もし収用されなかったならば得られたであろう利益が、収用後に得られる刺益よりも大きければ、その差額もまた収用による損失に他なりません。例えば華々しい都市開発事業の陰には、新しい諸条件に適応できず営業活動そのものを放棄しなければならない人も少なからず存在します。したがって収用によって被収用者が被る損失は、本来は収用時には確定し得ないものです。

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土地取用法等の現行法では、収用の前後を通じて被収用者の財産に増減がないようにするとの建前が貫かれていますが、それらは収用によって被収用者の生活、営業活動における諸条件も変化し、それに伴って様々な損失が発生する可能性があるという点を全く考慮していません。あるいは、変化した諸条件に適応できなくても、それはもっぱら被収用者の責任であると考えているといえます。被収用者にとって最も重大な問題は、果たして、変化した状況にうまく適応して、生活を再建できるかどうかという問題です。ここに、生活再建、あるいは生業再建補償の重要性があります。
個人の土地が収用される場合には、一方で公共の福祉という名目で、自らの意志に反して土地を手放さなければならない少数の被収用者が存在するのに対して、他方ではその収用によって利益を受ける者が多数存在します。この点を考慮すると、被収用者が単にその損失を正当に補償されるだけではなく、公共のために特別の犠牲を強いられる者に対しては、従来よりも彼らの生活水準が向上するように補償すべきかもしれません。もしそうであれば、被収用者が購入し得る代替地は被収用地よりも被収用者にとって有利な条件を備えていなければなりません。また任意買収の場合には、単に損失が補償されるだけでは、被買収者にとっては当然のことにすぎず、任意買収に応ずるインセンティブは全く存在しません。従来の補償理論は、もっぱら被収用者が被る損失にのみ注目するあまり、利益を受ける側がその収用によってどのように分配上有利になるかという視点を欠いていたように思われます。事業損失に対する補償や生活再建または環境整備のための各種措置が、十分に実施されない原因の一つとして、公共事業費が膨大になるという財政上の問題があります。しかし公共性のための効率性基準によれば、被取用者の地位が、少なくとも収用前よりも低下しないように補償しようとすると、公共事業費が膨大になり、公共事業そのものが施行できなくなるのであれば、はじめから、その事業は非効率的であり、したがって、その事業には公共性はないと考えるべきなのです。ところが、従来、攻策当局は新幹線、高速道路、港湾等について、その国民経済的利益が大きいことを理由に、低利の政府資金をこれらの事業に導入することが望ましいと主張してきたのです。
空港、新幹線、高速道路等の公共事業の計画、施行にあたっては、しばしば当該事業は国民生活上不可欠であるとか、膨大な需要が見込まれるとか、多くの人々が事業開始を待ち望んでいるにもかかわらず、一部地元住民の反対で事業開始が遅れているとか、盛んに宣伝されます。しかし、当該事業がそのように大きな社会的利益をもたらすのであれば、被取用者の損失を完全に補償したうえで、なおかつ、利益の一部を被収用者に割く余地が存在するはずです。また、当該事業の実施によって事業損失が生じないような、公共用地の取得も、財政上は可能なはずです。ところが実際には、資金難であるとか国の事業なのに、地方公共団体がその費用の一部を負担することには問題があるとかいった理由によって、正当な補償が行われなかったり、土地利用が不適切であるために深刻な事業損失が発生しています。そうして、政策的には要綱や要綱に関する閣議了解にみられるように、むしろ、いかにしてゴネ得を排除し、過大補償を防止するかといったことにもっぱら努力が傾けられてきたように思われます。
補償理論では、従来、正当な補償とは何かという問題が、もっぱら問われてきましたが、それと同時に正当な補償を行うための資金調達としては、どのような方法が合理的であるのかという点が問われなければなりません。合理的な資金調達手段を欠いているからこそ、損失を補償したり、事業損失が発生しないような空港、新幹線、高速道路等を設計しようとする時の予算がネックになります。
損失補償の資金調達に関しては、受益者負担の原則が通用できる限り、この原則に従うべきです。法律学における平等負担説は、財産を収用される個人の損失を全体の負担に転嫁すれば平等であると考えていますが、全体の負担ということは、具体的には、政府の一般財源から損失を補償することであると思われますが、事業損失補償の資金はその事業のサービスが私的財である場合には、そのサービスを利用する者から料金として徴収すべきです。

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