損失補償の基準

国家権力によって直接、間接に土地所有権とそれに関連して生活権、人格権が侵害される場合、損失を補償するかどうかは、どのような基準に従うべきでしょうか。法律学における目的背反説によれば、当該財産の本来的機能によって損失を補償すべきかどうかを決定しようとしますが、ある財産の本来的機能とはなんであるかについて、一般的に議論することは困難であるように思われます。従来、当然行使しうると一般的に考えられていたある土地所有権の行使が、法律が変化して制限されたり、あるいは、逆にいままで制限されていた財産権の行使が、その制限を解かれたりすれば、財産を所有していた者の中には、多かれ少なかれ損失を被る者が存在することとなります。どのような国の政策であれ、それが実施されれば、多かれ少なかれ、ある人は利益を受けますが、他のある人は損失を被るという状態が生じます。そのとき、どんな小さな損失をもいちいち補償していたのでは、損失の認定、補償額の決定等に伴う事務としたがって費用が膨大になり、攻策の実施そのものが不可能になってしまうことになります。損失補償は財産権保障にとどまらぬ、生活権や人格権保障の問題を含んでいます。したがって、これらの点を考慮すると、損失を補償すべきかどうかは、すべての人の基本的人権を保障するという立場から考えるべきです。

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損失を補償すべきかどうかは、所得分配の公正に関して、どのように考えるかに依存します。そこである政策によって利益を受ける者は、その政策によって損失を被る者に対して、その損失が個人の基本的人権を侵すほどに至る場合には、その損失を補償しなければならないという、公正基準を採用することになります。これは法律学者による損失補償理論における平等負担説にほぼ一致すると思われますが、財産権制限の種類あるいはその内容とは、全く無関係に設定されている点で、通説とは異なる基準であると思われます。我々の補償基準からすれば、従来、損失補償理論で論議されてきたなにが財産権に対する特別の犠牲か、あるいは、なにが財産権に対する強度の本質的侵害かは、侵害の内容には依存せず、侵害によって被る損失の大きさそのものによって定義されます。したがって、補償の要否の問題とは、どのような原因に基づく損失を補償すべきかということではなく、国家権力の行使によって、個人が被るどの程度の大きさの損失を、個人の基本的人権を侵害するほどの損失と考えて補償するか、という問題に帰着します。このように考えると、我々の損失補償基準は、単に財産権を保障した憲法29条だけではなく、基本的人権の享有を保障した憲法11条、個人の尊重を保障した憲法13条、法の下の平等を保障した憲法14条、生存権を保障した憲法25条等を含めた、憲法全体を貫く精神そのものに依拠するものといえます。
我々の補償基準からすれば、土地所有権とそれに伴う生活権、人格権に対する国家権力による侵害に関して、次のような四つのより具体的な補償基準が導かれます。
第一に、土地が国家によって収用される場合には、公正の基準から正当な補償を要すると考えられます。言い換えれば、何人も国家によって補償されることなしには、財産を収用されることはありません。次に、国家によって個人の土地が収用されるに際して、被収用者以外の者で生活権を侵害される者に対しては生活再建のための補償を必要とします。国家によって土地そのものは収用されませんが、土地所有権の行使が制約され、それによって、個人が損失を被る場合、その損失が個人の基本的人権を侵害するほどの大きさに達する場合には、その制約の内容いかんにかかわらず補償を要します。公共用地の取得後に、国または地方公共団体、公団、公社によって施行される事業によって当該地城の住民が被る損失は補償されなければなりません。

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