土地投資の有利性と持家指向

なぜ持家指向がこれほどまでに強いのでしょうか、この解答としていくつか考えられますが、そのなかで特に重要と思われる要因は、戦後の住宅価格の上昇率が高く、持家が財産保全としての役割を持っていたことです。つまり同じ家であっても、住宅価格の上昇が予想されるかぎり、借家よりも持家を選択する方が、キャピタルゲインがあるので有利なわけであると述べています。しかし、すでに明らかにしたように、土地と家屋のキャピタルゲインが予想されるかされないか、あるいは予想されるキャピタルゲインが大きいか小さいかは、投資家の土地家屋に投資するかそれとも他の資産に投資するかの選択には影響を及ぼしますが、家計の持ち家か借家かの選択には影響を及ぼしません。つまり土地家屋への投資が有利であることと、個人の持ち家指向とはそのままでは直接の因果関係にはならないのです。

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戦後、持ち家比率が戦前に比べて上昇した原因は、借地借家法の改正と所得税率の変化および住宅金融の拡大という制度的な変化に求められます。まず、借地借家法の改正およびその実際の運用、つまり判例のうちで、持ち家比率上昇の原因として特に重要であると思われます。
借地契約の更新拒絶に関しては昭和16年に、借地権消滅の場合において、借地権者が契約の更新を請求した場合には、建物がある場合に限り前契約と同一の条件を以て更に借地権を設定したるものとみなされ、土地所有者は土地所有者が自ら土地を使用することを必要とする場合、その他正当の事由がある場合に限って、遅滞なく異議を述ベれば、更新を拒絶できると改正されました。地主が更新を拒絶できるのは、正当の事由がある場合ですが、それでは正当な事由とは具体的にはどのようなものでしょうか。4条1項によれば、土地所有者の自己使用の場合は常にこの事由に核当するように思われます。しかし、判例は、他人の土地を宅地として使用する必要がある者が圧倒的に多く、しかも宅地の不足が甚だしい現状では、一般的に土地所有者が更新を拒絶するために必要とされる正当の事由ないし、その事由の正当性を判断するには、単に土地所有者例の事情ばかりでなく、借地権者側の事情をも参酌することを要し、例えば土地所有者が自ら土地を使用することを必要とする場合においても、土地の使用を継続することにつき借地権者側がもつ必要性をも参酌した上で、土地所有者の更新拒絶の主張の正当性を判定しなければならないとしています。
借地権の存続期間は、契約による場合も、堅固な建物の場合30年以上,その他の建物の場合20年以上と長く、そのうえ、いま引用した判例にみられるように、更新を拒絶することは容易に認められません。そうであれば、貸地の所有権は単なる地代徴収権にすぎなくなり、地代の増額請求権が地主に認められるとしても、地主は地代増額交渉においてもきわめて弱い立場に立たざるを得ません。さらに、地代増額交渉が当事者間でまとまらなければ、裁判によってその増額が相当と認められなければ十分に増加することもできません。戦後の日本のように、土地の稀少性が増し、現実に土地の限界生産性が上昇しているのにもかかわらず、相当な地代を経済の論理に疎い裁判官に決めてもらうというのでは、貸地は採算の合わない事業になってしまいます。そのため、戦後では土地に関して新たに賃貸借契約が結ばれることはきわめて稀になり、たとえ結ばれるとしても、借地権を取得するためには、地価の3分の2あるいはそれ以上の権利金を支払わなければならないようです。もしそうであれば、借地人は残りの3分の1を資金調達できさえすれば、所有の利益を完全に享受できるのであるために、このような例は極めて稀なケースとなります。また、戦前に契約された貸地に関しては、地主が借地人に時価の何割引かでその貸地を買い取ってくれるように要求することが多いようです。戦後の日本のように、土地を売却、あるいは山林、農地から宅地ヘ転用してゆくことがきわめて有利である場合には、この正当事由の要件具備に関する判例は地代増額請求権の限界とあいまって、土地の賃貸借契約に対してほとんど禁止的に作用してきたと思われます。
一方で借家契約の更新に関しても、昭和16年に建物の賃貸人は自ら使用することを必要とする場合、その他正当の事由がない場合には、貸主は更新を拒絶することができないと改正されました。借家の更新拒絶のための正当事由をどのように解釈するかについても、借地法の場合と同じように、変遷がみられます。つまり、借家法1条の2は貸主の解約申入れが不当な家賃値上げを強要したり、空家として他に売却する手段としてなされることを抑止しようとして、制定されたものであったために、改正当時の考え方としては、家主が自らその家屋を使用する必要が生じた場合などは、正当事由の典型的な場合として、借地人側の事情の如何にかかわらず、当然に正当事由があると解されていました。しかし、太平洋戦争も末期に入って、住宅難が深刻化してくると家主が自己使用の必要に基づいて解約申入れをする場合でも、それだけでは当然には正当事由ありということはできないとして、家主側の家屋使用の必要性と借家人側のそれとを比較し、一般の住宅事情をも斟酌して、両者の利害を調整する解釈がなされるようになりました。しかし、戦争による家屋の焼失破損のため、都市の住宅難はますます深刻の度を増し、家主の自己使用の必要性が著しく高くなると、借家人に借家の一部明渡しを命じたり、借家人に家屋全体の明渡しを命じますが、その代償として家主に別の家屋を借家人に提供させるといった妥協的な判決が現われました。さらに、その後、住宅難が緩和されてくるにつれて、昭和33年以降、立退料を提供することを条件とする明渡し判決が出現し、現在では正当事由判決の主流をしめるに至っています。
結局、正当事由の有無の判断は上、借家人に建物を引き続き使用させることが、具体的に妥当であるか、それとも、家主に借家を引き渡させることが妥当なのかをきめるすぐれて政策的裁量的な判断になります。
正当事由の判断に斟酌される事情の中で、特に注目されるものでは借家を空家にして売却したり、有利に再賃貸しようとすることは、一般的にいって正当事由にならないものと考えるべきであろうとされます。そして、その理由に家屋は借家のままでも売却は可能であるという点があげられています。しかし、他方で新たに借家を買い受けて、明渡しを求めるいわゆる新家主の明渡請求は、旧来の家主からの明渡請求よりも難しいと考えなければなりません。もし、そうであれば、家屋は借家のままで売却が可能であるとしても、新家主の立場は旧家主の立場よりも弱いのであるため、借家権が設定された土地、家屋は、それが設定されていない場合よりも、著しく低く評価されることになります。一方で家主がそのように低く評価されるのを嫌って、空家にして売却したけれぱ正当事由の判断に斟酌されるような他の事情がないかぎり、多額の立退料を支払わなければならないことになります。このように正当事由と認められる要件が厳しくなると、それだけ家主にとって立退料という転用、解約費用が増大し、また家賃増額の交渉においても家主の立場は弱くなります。その結果、貸家経営はそれだけ不利になり、したがって、貸家の供給が滅少します。
以上のように、昭和16年の借地借家法の改正とその後に集積された判例によって、借地借家権はしだいに強化され、貸地、貸家人にとっての転用、解約の費用が著しく増大しました。その結果、貸家の経営は戦前よりも有利でなくなり、貸家の供給が滅少しました。このことは貸家借家の組合せを選択したときの費用と持ち家を選択したときの費用とのプラスの差が、戦後借地借家権が強化されたために、一層拡大したということに他なりません。また、例えば貸家を経営している場合、貸家経営をやめて、その土地、家屋を売却しようとするときの転用、解約費用は、戦後、借地、借家権が強化されたために、戦前よりも著しく大きくなっています。それに対して、貸家経営などせずに、空地にしておいて、適当な時期にその土地を売却して他の資産に乗り換えるときには、転用、解約費用は存在しないために得られるキャピタルゲインは、貸家経営している場合よりもはるかに大きくなることになります。

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