無権代理と表見代理

売却広告のあった土地が気に入り、それを扱っている宅地取引業者を訪ね、売主の代理人というAを紹介されました。Aは、売主からこの売買については一切をまかされているため、Aと交渉して契約がまとまり、代金の一部を支払いました。ところがその後、売主本人Bから、Aに土地の売却など依頼した覚えはなく、売却の広告もAが勝手にやったことだろうが知らないと言われました。この場合、Aと結んだ売買契約はどういうことになるのでしょうか。
代理人と称する者に実は代理権がなかった場合でも、いわゆる表見代理が成立して、相手方が保護される可能性はありますが、本問のように、本人Bが頼みもしないのに、Aが勝手に不動産売買の広告や契約をしたときは、この可能性はまったくないといえます。こんな場合にもB自身が売買したときと同じように扱われるというのでは、Bとしてはたまったものではないでしょう。ですから、Bとの間には当然には売買契約は成立しません。それなら、買主はどのような救済をうける途があるのでしょうか、もっとも、Aが高い値段で売ってくれて有難いとBの方で思えば、Bからに対して、Aのした売買を認めるといえば(追認)Bとの間に初めから売買契約が成立したことになります。
まず、契約の成立を望まれるのなら、適当な期間を定めてBに追認してくれと催告できます。しかし、これはBか自由に断われますし、この期間を過ぎたのにBが黙っていれば、拒絶したのと同じことになります。逆に、Bが追認しない間は、Aに代理権のないことを知らなかった買主の方から、AまたはBに対して、売買を取り消すこともできます。ところで、このような方法は、不安定な状態をとにかく打開する途ではあっても、それ以上に買主を救済するものではありません。
本問の事情のもとでは、Bが追認してくれることはまず期待できないでしょうから、結局、無権代理人Aに対してその責任を追及するほかない、ということになります。
この場合、買主は、Aに代理権があると信じられたことについて過失がないといえますから、無権代理人Aに対しての売買契約の履行と求めるか、損害賠償を請求することができます。どちらを選ぶかは買主の自由です。Bから土地を購入して自分によこせ、とAに請求してみても、Bがそれを実現することは不可能でしょうから、売買契約の履行を求める方法を選んでも仕方がないでしょう。したがって、買主としては、宅地を入手できていたら取得したであろう利益を失ったわけですから、その賠償をAに対して請求されればよいと思われます。

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土地

Cの代理人Dと、Cの土地を買う契約をしました。代金を用意して、登記書類を受け取りに行きましたところ、売主のC本人がやってきて、Dには別の土地の処分をまかせただけなのに、勝手にこの土地を売ってしまったので、申し訳ないがあきらめてくれ、と言ってきました。この場合、この売買契約をあきらめなければならないのでしょうか。
これは別の土地の処分について代理権与えられていたDが、本人Cに相談もせず勝手にこの土地を売却した、ということですが、この場合Cが一方的に契約を破棄できるかは疑問です。民法一一〇条の表具代理成立の可能性があるからです。別の上地についてにせよ、とにかくCはDに売却の代理権を与えていたのですから、Dがこの代理権の範囲をこえて、この土地についても代理権ありと称して買主を信用させた本問では、範囲をこえてDが行為する誘因をつくったCよりも、Dを信用した買主を保護するほうが妥当ともいえます。しかしCに言わせれば、なぜ自分に確かめてくれなかったのか、ということにもなるでしょう。つまるところ、Dがこの土地の処分について代理権をもっていると信じるについて正当の理由があるかどうかが決め手になります。
正当の理由ありとするのは、家政一切を処理している長男が15万円余の山林を売主本人に無断で売却したケースについて、彼が以前にも他の山林を売却して事なく済んだ事情があるときは、買主が長年にわたって売主の家に出入していたとしても、本人に代理権の有無につき確認するはない、とした例です。
これと逆に、甲が乙の代理人と称して丙に乙の土地を売却した場合に、以前乙は隣接地を丙に売った際この土地を売るのを拒否した、乙丙は近所に住んでいて交際もある、甲が委任状などを持っていなかった、という事情のあるときは、乙に真意を確かめなかった丙には正当の理由がない、と判断した例があります。
表見代理も一種の無権代理ですが、たとえば本問のように、無権代理か表具代理かがはっきりしないときに、相手方はどちらかを必ず先に主張しなければならないものでしょうか。具体的に言いますと、買主がCに対して表見代理を主張されるか、Dに対して民法一一七条の無権代理人の責任を追及されるかは、自由に決められることか、それとも、どちらかを必ず先に主張しなければならないか、ということです。多数の学説は、表見代理が成立するときは無権代理人の責任は生じない、と説いています。しかし、これに対して、Dに無権代理責任を追及したところ、本件は表見代理の成立するケースだからCを相手にしてくれ、とDが抗弁できるのはおかしいし、また、Cを相手に表見代理を主張したところ、これは無権代理だからDの責任を追及してほしい、というCの言い分を認めるのも穏当ではない、という理由から、買主のような立場にある人は、表見代理と狭義の無権代理とのいずれを主張してもよい、と説く学説もあります。

土地
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