売主の履行遅滞と損害賠償請求権

商売を始めるつもりで土地と建物を買い受けました。そのために、今までの家屋を売却し、営業に必要な準備もしていたのですが、売主側の事情によって、その引渡が数カ月余り遅延してしまいました。このため仮住居を借り、仕入れた商品は季節外れとなって、かなりの損失が予想されます。このような場合、売主に対して、損害の賠償を請求できるでしょうか。
土地、建物の売買契約によって、買主は、売主に対してそれらの所有権を移転すること、移転登記をすること、それから引渡をすることなどを請求することができます。売主が引渡をしないことは債務不履行となります。債務不履行には三つの型があります。第一は、債務者の責に帰すべき事由に因りて履行を為すこと能わざるに至りたるとき。つまり、履行不能です。第二は、履行が可能なのに債務者が履行をしないとき、つまり、履行遅滞です。第三は、債務者は履行をしたのだがそれが債務の内容と違ってて不完全である場合、つまり、不完全履行です。履行遅滞と不完全履行とは、債務者が其債務の本旨に従いたる履行を為さざるとき。という場合に当たり、債権者は損害賠償請求権をもつことになります。
本問の場合には、引渡をなすべき履行期が来ても引渡がなく、しかも引渡が不可能になったわけでもありませんから、履行遅滞に当たります。売主が不可抗力によって引渡の遅れていることを立証すれば、責任を免れます。また、代金支払と引換えでなければ引渡をしない、という同時履行の抗弁権を売主がもっているときも、債務者としての責任は生じません。

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土地

買主が賠償請求できるのは、履行遅滞によって生じた損害、つまり遅延賠償といわれるものです。土地や建物を引き渡せ、という本来の給付請求とともに、これに加えて、損害発生の事実と損害額とを立証することによって遅延賠償の請求ができます。ところで、損害は二つのかたちで生じます。ひとつは、債務不履行のために、つまり、履行期に引渡がなかったために、債権者が余分の支出を余儀なくされ、既存の財産がそれだけ減少した場合の、積極的損害とよばれるものです。例えば仮住居を借りるために支払った権利金や家賃がこれです。もうひとつは、債務不履行のために、得べかりし利益を失った場合の、消極的損害とよばれるものです。履行期に売主が引渡をしてくれていたら買主が得ていたであろうと考えられる利益の例として、例えば営業収益を挙げることができます。
しかしこのようにして履行遅滞を原因としその結果として生ずる損害の全部が、売主の責任になるわけではありません。なぜなら、実際に損害として生ずるのは、履行遅滞という原因に、さらに様々の原因が加わっており、因果関係のあるかぎりすべて売主の責任と見るなら、損害の範囲はきりがないし、また千差万別ということになります。例えば積極的損害の場合、買主の家族数が多かったり、買主は特別贅沢な好みの人だという要因が加われば、高い賃料を支払ってマンションを借りるでしょうし、消極的損害の場合、買主が人並すぐれた商売上手だという要因が加われば、特別大きな営業収益が得べかりし利益ということになるでしょう。そこで民法は、因果関係があってもなお相当な範囲内にある損害に限って賠償請求を認めることにしています。相当というのは、債務不履行を原因として一般的、類型的に生ずる損害、というほどの意味です。
相当な範囲ということの基準には二つあります。第一は、通常生ずべき損害、第二は、特別の事情に因りて生じたる損害であっても債務者がそれを予見したか予見することができたものです。後者は、もともとは相当因果関係の範囲内に入らない損害ですが、債務者に予見可能性があったときに限って相当因果関係の範囲内に入れることにしたのです。特別事情による損害には、たとえば、すでに例示したような営業収益、また、木問の場合には問題になりませんが、買主が第三者と転売契約を結んでいた場合の転売利益のように債権者個人の事情から生じた損害があります。こんな場合には、履行期には債務者に予見可能性があったことを立証して賠償請求をすることができます。
このほかに、特別事情による損害には、債務不履行後の経済事情の激変のように客観的な事情による損害もあります。ところで、激変というほどでなくても、今日のように地価が急騰している場合にはどうなるでしょうか。買主は、売主の履行遅滞を理由に契約を解除し土地、建物の引渡をうける代りに損害賠償を請求することができますが、かりに同じような土地、建物を買い入れるとしたら、値段が上がっているため余分の出費をしなければなりません。これは売主の債務不履行が原因です。とすると、填補賠償の損害額は売買目的物の時価で計算すべきだということになります。それはよいとしても、どの時点での時価かが問題です。履行期、解除時、訴提起時、判決時といろいろあり、後になればなるほど債権者には有利となり、債務者には不利となります。判例は、解除の場合、履行に代わる填補賠償請求権は解除によって生ずる、という理由から、損害額は解除当時の目的物の時価を標準に定めるべきであり、契約締結の当時すでに物価騰貴の状勢があれば、売買代金と解除当時の時価との差額は、売主の債務不履行によって通常生ずべき損害だとしています。今日のような継続する地価変動についてはこの考え方で処理してよいでしょう。しかしこれに対して、ふつう、戦争などの急変による解除後の物価騰貴の場合はこれを特別の事情だと考えるべきでしょう。先例には、買主が解除後、他から高価で買い入れたとき、その実際の価格と売買代金との差額の賠償を認めたものがあります。
以上のように考えてきますと、本問の場合は、仮住居借入の権利金や賃料を請求できます。しかし、売主から買った家に比べてあまりに条件がよい仮住居であれば、普通以上に高い部分については、権利金や賃料の請求は駄目でしょう。もちろん、急に家を見つけるにはこれ以外に方法がなかったなどの特別事情を売主が予見できる可能性があったのなら別です。商品仕入代金は、特別事情による損害です。しかし仕入代金全部が損害とはなりません。営業をしたとしても売れ残る部分かおりますから、これは損害から控除さるべきです。営業収益の損失を主張するなら、特別事情による損害として認められる可能性がありますが、その場合には、営業をすることを売主が知ることができたこと、予想される収益などを立証しなければなりません。また、契約を解除したときは、前に述べたとおり、少なくとも解除時の土地、建物の時価が考慮されます。

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