建築をめぐる紛争と法律

 一戸建てにせよ、マンシヨンにせよ、住まいを建てるとなると、資金の問題は別としても、まず土地を購入し、つぎにどんな建物を建てるか建物の設計をし、さらに施工業者を選び請負契約を結ぶという段階をふむことになります。しかし、恰好の土地を入手し、立派な設計ができ、信頼のおける業者に恵まれるという三拍子揃った状態で家が建つということは稀で、なにかと不服、不満はつきず、紛争が起こりがちです。
 家は大変高価なものであるうえ、そこで暮らしていくわけですから、トラブルなく家が建つかどうかは、金銭的な問題ばかりでなく、快適な生活ができるか否かにかかわる重大な問題です。
 これらの紛争を解決するにも、予防するにも法律的判断が必要になります。家を建てるという一大事業を失敗なく進めるためには、法律知識は欠かせません。しかし、建築に関係する法律といっても、前述の各段階で数多くの法律がかかわってきますし、しかもそれが複雑に入り組んでいます。
 以下、私が体験したこと、耳にしたことや判例など、建物完成までに生ずる紛争の例をあげながらどういう法律問題になるかを考えてみましょう。

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 二〇年あまり前、私は家を建てようと思い立ち、知人が懇意にしている不動産業者のあっせんで、すり鉢状の畑地でしたが、眺めのよい南傾斜他の中腹の一区画を買うことにしました。購入してすぐに家を建てようと建築確認申請をし、確認通知の交付を受けました。
 ところが、私の買った土地と道路一つへだてた反対側の土地は、すでに大手業者が大半を買い占めており、一、二年のうちに盛土して分譲する予定であることがわかりました。
 この大手業者は当初雛壇式の土地とする計画で役所の許可を取っていたのですが、後でいっしょに盛土してやるという条件で周辺の地主の承諾を取りつけ、計画変更の許可を取ったのです。間もなく盛土工事に着手し、翌年には分譲地が完成しました。
 私の土地も三分の二くらいが盛土されたので、二、三年そのままにして地盤の固まるのを待って建築した方がよかったのですが、業者にこれ以上の盛土はしないということを確かめたうえで、翌年の春建て始めました。
 大手業者は境界の道路沿いに1mも盛土してしまい、そのため私の土地が一番低くなってしまいました。そのうえ、数年後には地盤が沈下し、建物の南側半分の床が下がり、床と壁の間に隙間ができてしまいました。
 ところで、当初の設計は傾斜地に建てる設計でしたので、盛土した結果、基礎部分につき設計変更を余儀なくされたのですが、その変更の申請を怠ったために建物完成の検査済証の交付が受けられず、保存登記もできませんでした。
 その後、この土地と建物を手放すことになり、不動産業者が買うということで売買契約の運びとなりました。ところが、今度は接道問題が起きたのです。というのは、この土地は角地で、購入時は北側道路は四m幅の私道で、東側道路は長道(幅は二m足らず)でしたが、北側道路はその後ガス・水道管を敷設する際に各地権者が市に寄付し、公道になったといわれていました。ところが、私の敷地に面する部分だけは、地権者が不在地主だったためか手続未了で公図には私道となっており、不動産業者の建築計画が許可されるかどうかわからないということでした。そのため、不動産業者との契約は、建築確認を得られない場合は契約を解除するという条件付の売買とされ、一ヵ月半もたってしまいました。
 幸いに許可が下りましたが、万一許可にならなかったら、契約解除か、相当多額の減額を余儀なくされるところでした。建物は、建築基準法により、原則として幅四m以上の道路に接していなければならないということを忘れるととんだ損失をこうむることになります。
 このように、せっかく手に入れた土地に家を建てたところ、大雨で擁壁が崩れて家が倒壊しそうだとか、地盤が不同沈下して建物が傾斜したという話を耳にします。これは土地造成工事が不完全だったか、盛土工事の材料の欠陥によるものが多いでしょう。不動産業者に民法の売主の責任(「瑕疵担保責任」といいます)を追及できるか、または宅地建物取引業法の不動産業者の責任を追及できるかという問題になります。
 実際に、分譲地の買主が家を建てたところ、地盤沈下により建物が傾斜したとして不動産業者を訴えたのに対し、不動産業者は施工業者と設計・工事監理を引き受けたエンジニアリング会社を訴えたという事件があります。この事件はその後和解となり、施工業者とエンジニアリング会社とで損害賠償を分担して解決しましたが、建売住宅について、買主の損害賠償請求が認められた判例もあります。
 こういうケースはわが国にかぎったことではなく、外国にもあります。テネシー州の土地所有者が山峡に盛土する工事を建設業者に請け負わせ、工事完成後エンジニアリング会社に検査させたところ、盛土に大きな岩、土壌、おびただしい量の有機物などが含まれていたうえ、十分締固めがされておらず、基礎工事をするのに適しないとの判定が出たというものです。土地所有者が不適合材料の撤去と基礎工事の設計のやり直しに要する費用を請求する訴えを起こしたのに対し、裁判所はこの請求を認めて建設業者に一六万四千ドルの支払を命じました。建設業者が控訴しましたが、控訴裁判所はこの主張を認めませんでした。
 建築の設計について重要なことは地質調査です。マンションの建築などでは土質について的確な資料がないと基礎工事の正確な設計ができず、後日設計の変更や工事のやり直しが必要となります。土地が盛土の場合は、木造家屋でも壁のひび割れや建物のひずみが生じることがあります。
 もっとも、建築工事の定額請負契約において、土質調査をしないで推定で基礎工事の設計をした場合に、軟弱地盤による増加費用につき施工業者の請求が認められなかった事例があります(東京高裁昭和五九年三月二九日判決)。
 このような基本的な問題でなくても、よくあるのは設計図についての誤解です。素人には図面がよくわからず、工事が進むにつれてここはこんなつもりではなかったというような不満が生じがちですし、専門家でも図面を見誤ることがあります。
 さらに、設計自体の欠陥の問題もあります。ある会社の社長が、信頼している新進の設計者の設計で自宅の建築を依頼し、建築業者ができてきた設計図を見て、この設計では雨漏りは避けられないから設計を変えるよう社長に進言したのに聞き入れず、そのまま工事を進めたところ、完成後に雨漏りを生じたという例もあります。
 さて、設計ができるといよいよ着工の運びとなりますが、この段階でも施工を阻害する種々の問題があります。たとえば、不測の地下条件の発見、火災その他不可抗力の発生、現場事故の発生、近隣者とのトラブルなどです。これらは主として施工業者が処理すべき事柄ですが、騒音・振動、地下水流出などの問題(「生活妨害」といわれています)については、注々にして注文者も責任を問われることがあります。民法に、注文者は請負人が第三者に加えた損害については原則として不法行為責任を負わないが、注文者に注文または指図につき過失があったときは、注文者も責任を負う(七一六条)と定めているからです。
 問題はどのような場合に、注文または指図につき過失があったとするかですが、判例は一貫せず、ある判例は被害の発生を予見し、あるいは予見が可能であったときはただちに過失があったとし、他の判例は予見または予見可能であったのにこれを防止するための指図をしなかった場合に過失があるとしています。
 請負人の専門知識、技術に委ねている以上、注文者には注文、指図の過失はないとするものもありますが、近時の傾向としては、注文者が工事について専門的知識がなくても、「社会通念上一般人として予見し、または容易に予見しうる可能性がある場合」には、というような表現により注文者に責任を負わせる事例がまま見られます。

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