不動産登記制度と機能

 不動産の取引を行なう場合には、契約締結前に目的物件の登記簿を必ずしらべなければなりません。不動産業者に取引の仲介を依頼した場合でも、業者にまかせておけばよいというのではなく、すすんで業者から目的物件についてどのような権利が登記されているかを正確に説明してもらうことが必要です。宅地建物取引業法でも、この点は、依頼者に対し書面によってくわしく説明しなければならない第一の事項とされています。
 登記簿をみると、目的物件についてだれを権利者としてどのような権利がどのような順序で登記されているかが明らかになります。もっとも、登記簿の記載はかなり複雑ですから、そのよみ方を知っていなければなりません。権利の登記は、表題部につづく「甲区」に所有権に関する登記を、それにつづく「乙区」に所有権以外の権利に関する登記を、それぞれ区別して行ないます。

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 つぎに登記簿の記載は信頼できるか、ということが問題となります。もとより、登記簿は、公官署である法務局(出張所)によって不動産登記法令に基づき厳密な手続方式にしたがって作成・管理・保存される公の帳簿ですから、その意味では最も信頼できる記録資料です。しかし、登記は、原則として登記権利者および義務者から申請があり、申請書および添付書類が法定の要件をみたしている場合になされるのですから、申請そのものが実際の権利関係の変動に忠実にしたがってなされているか否かは、本来明らかでありません。登記官は、登記簿にあらわれる権利関係の変動が現実のそれと一致しているか否かを審査する手段をもっていないのです。したがって、登記の記載が現実の権利関係の変動を正しく反映していると信ずることは、誤りです。
 しかし、登記簿を信頼するということを、登記簿を信頼して取引をした場合なんらかの保護をうけるという意味でいうならば、それは別の問題です。
 日本の登記制度では、この点の原則は、次のとおりです。
 (1)取引にあたって登記簿上権利者として表示されている者を権利者と信じた場合、この信頼を理由として保護をうけることはできない。
 (2)取引にあたって登記簿上権利者として表示されていない者を権利者でないと信じた場合、この信頼を理由として保護をうけることができる。
 (1)は公信の原則がみとめられないことを、(2)は公示の原則がみとめられることを意味しています。それぞれ具体的に説明しましょう。
 (1)まず、真正の権利者でないにかかわらず登記簿上所有権者と表示されている者、たとえば、申請書や添付書類を偽造して登記名義人となった者や、その者から売買契約によって登記の移転を受けた者を真正の所有権者と信じてその者と売買契約を締結し、その登記を移転しても、所有権者とはなりません。真正の所有権者からの登記抹消と明渡しの要求があれば、それに応ずる以外にないのです。
 動産については取扱いがことなり、無権利者から取引によって平穏、公然に動産の引渡しを受けた者は、無権利者を権利者と信じ、かつ、そう信じたことに過失がない限り、所有権を取得します。その結果、真正の所有権者は、権利を失います。これを公信の原則とよびますが、日本民法は、不動産についてはこの原則の適用をみとめていません。
 しかし、例外的に、無権利者から登記を信じて不動産を買いうけた場合、信じたことに過失がない限り真の所有権を取得することがあります。それは、仮装売買によって虚偽の買主となった者から、善意で不動産を買いうけた場合です。この場合、仮装売買の売主(真正権利者)も買主(登記法上の仮装権利者)も、善意の譲受人に対し、仮装売買は虚偽表示だから無効であり、買主は無権利者であった、と主張しても、所有権をとり戻すことはできないのです。
 (2)つぎに、真正の権利者であっても登記簿上権利者でない者(たとえば末登記の買主)については、第三者との取引において、無視することができます。未登記の権判者は、権利の取得を第三者に対抗することができないからです。この公示の原則は、動産についても(対抗要件は、引渡し)不動産についても(対抗要件は、登記)みとめられています。ただし、これにも若干の例外があります。この対抗力の問題については、次にくわしく述べましょう。
 民法第一七六条では、物権の設定および移転は当事者の意思表示のみで効力を生ずる、といっています。不動産の売買契約についていえば、不動産の所有権の移転は、売買契約だけで行なわれるということです。これに、「ただし、売買契約の当事者(売主と買主)の間では」とつけ加えるとわかりやすいでしょう。買主Bは、売主Aに対して、売買契約がなされたということだけで自分が所有権を取得したのだと主張することができます。Aは、Bからみて当事者だからです。
 ここで、別の人CがAから同じ不動産を買う契約をしたとします。AはいったんBに対して売った不動産をCにかさねて売るわけですから、道義上は決して好ましいことではありません。しかし、法律上は、二つの売買契約は、それぞれ有効です。Bは、AB間の契約を理由としてAに対して所有権を主張することができ、Cは、AC間の契約を理由としてAに対して所有権を主張することができます。このような二重の関係がともかくも許される前提には、契約は当事者だけを拘束し、当事者以外の第三者に対しては効力がない、という考え方があります。
 したがって、Bからみれば、AC間の契約によって拘束されるはずがなく(その結果、AC間の契約とそれに基づくCの所有権取得の主張を無視することができる)、逆にCからみればAB間の契約によって拘束されるはずがない(その結果、AB間の契約とBの所有権取得の主張を無視することができる)ということになります。客観的には二つの契約が存在しているのですが、BとCは、それぞれ自己とAの間の契約のみが存在すると考えざるを得ないのです。
 しかし、不動産は一つしかありません。Aは、BかCのいずれか一方に対してのみその所有権を移転することができるだけで、同時に双方に所有権を移転することはできないのです。したがって、BとCの間で争いが生でます。この争いを解決するためには、もはや、契約だけで所有権が移転するという民法第一七六条の条文は役に立ちません。契約そのものではなく、それとは別の決め手が必要となります。
 民法第一七七条は、登記をその決め手とすることを明らかにしています。同条を売買契約に即していいかえれば、不動産の所有権の移転はその登記をしない限り、売買契約当事者以外の第三者に対してみとめさせることができない、ということになります。
 このBとCの争いは、BとCのいずれがAから登記の移転を受けるかによって決着がつけられます。Cが登記を得れば、CはBに対して所有権の取得をみとめさせることができ。BはCに対して所有権の取得をみとめさせることができないことになるので、Cが確定的に所有権者となるわけです。
 このように、当事者の間の所有権移転のルールと、第三者に対するルールはまったく別次元のこととされています。所有権者であると主張するためには、当事者開では契約だけで足り第三者に対しては登記がなければなりません。ここにあげた例は、売主が二人の買手に別々に同一の不動産を売却したという簡単なケース(二重売買)ですが、同じ理屈は原則として不動産物権変動一般についていえるのです。次の例はやや複雑です。
 (1)AがBに土地を売却する契約を結んだ。
 (2)AがCに同土地を売却する契約を結んだ。
 (3)AがDから借金し、その担保としてDに対し右の土地に抵当権を設定する契約を結んだ。
 (4)AはDの抵当権の登記を行なった。
 (5)AはCに対して(2)の契約に基づき所有権の移転登記を行なった。
 (1)から(5)の順に、ことがはこぼれたとします。この場合、まず、Bは、いちばんはじめに契約をしたのにかかわらず、登記がないのでCに対してもDに対しても自分が所有権者だと主張することはできません。Cは、所有権の登記を得ていますから、Bに対しては自分が所有権者だと主張することができます。しかし、Dに対して同じ主張をすると、それは同時に、すでにDの抵当権の登記がついている所有権の登記をAから得たと主張することになります。Dの抵当権の存在をみとめた上で、はじめて自己の所有権をDに対して主張することができるのです。最後に、Dは、抵当権者であることをBにもCにもみとめさせることができ、その上でCの所有権をみとめればよいことになります。したがって、BCDの中では、Dが最優先で、Cがこれにつづき、Bはなんら所有権を主張することができない結果、確定的に所有権者でなくなります。他方、Cは、Dが抵当権を実行すると自己の所有権を原則として失なうのです。
 「第三者」民法第一七七条は、物権の得喪は登記がない限り第三者に対抗することができない、と定めているので、たとえばAB間の不動産売買契約によるBの所有権の取得は、その登記がない限りAB以外のすべての第三者に対抗することができないというように読めます。しかし、厳密にいうと、登記がなければ対抗することができない「第三者」の範囲はかなりしぼられています。次に、要点だけ掲げましょう。まず、「第三者」とは、ABおよびそれらの包括承継人(たとえば相続人)以外の者で、AB間の所有権の移転によって損害をうけるために登記がないことを主張することについて正当な利益を持つ者に限られます。その結果、次の者は、「第三者」でないとされます。
 (1)名目上は権利者であっても実質上は無権利者である者(およびその者からの譲受人)たとえば、申請書や添付書類を偽造して行なった無効な登記の名義人や、架空の売買によって登記名義人とされたにすぎない者、または、本来相続人でないのに相続登記をした者などです。
 不法占拠者や、滅失、毀損などの加害者などは、所有権者からの立退請求や損害賠償の請求に対して、所有権者が登記をもっていないことを理由として請求を拒否することができない、ということです。
 詐欺・強迫によって登記の申請を妨げた者および他人のため登記を申請する義務を負っている者(たとえば権利者の法定代理人)これらの者は、いずれも保護に値しない者として、不動産登記法第四条および第五条によって排除されています。
 背信的悪意者、たとえば、AからBへ不動産が売買されたのにいまだ登記がなされていないことに目をつけて、主としてBの利益を害することを目的としてAから二重に買い受けてその登記をした者がこれにあたります。AからBへ売却されたことを知っているだけでは、たとえ自分が買えばBが損をするだろうという予測をもっていても、これにはあたりません。そのような行為は、すくなくても第二の買主については、自由競争の原理から正当化されるからです。
 これに対して、前掲の例のように主としてBに損害を与える目的で二重に買い受けた者は、Bに登記がないことを主張する正当な利益をもたないと考えられています。
 自己の行為と矛盾する主張をする者 たとえば、抵当権つきという理由で安く不動産を買った者が、抵当権の登記がないことを理由として、抵当権の存在を否定することはできません。
 転々移転した場合の前主および後主、AからBへ、BからCへと売買によって不動産が移転したとき、Aは、BC間の移転が登記を欠いていることを理由に、Cの所有権取得を否定することができません。また、Cは、AB間の権利の移転を否定することもできません。いずれも、そのような主張は、AまたはCにとってなんら利益をもたらさないからです。
 ここに列挙した者はいずれも、民法第一七七条にいう「第三者」にはあたらないと考えられています。いいかえれば、これらの者が権利者に登記がないことを理由にその権利を否定することを許さないということです。
 これに対して、次の者は、「第三者」であり、これらの者に対しては登記をしなければ物権の収得などを対抗することができません。

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