売主の義務、登記の移転

 土地・建物の売買は、所有権の登記を買主に移転しない限り、完全なものとはなりません。売主は、自分が所有権者でなかったり、または所有権者であっても登記名義人でない場合でも、所有権の登記を買主に移転する契約上の義務を負っています。
 売主は、買主への移転登記の申請に先立ち一定の登記手続を行なっておく義務を負う場合があります。
 第一は、抵当権や地上権などの登記が存在しているため、契約において、これらの権利を消滅させ、その登記を抹消することを約した場合です。
 第二は、売主が登記名義人でない場合、登記名義を売主に移しておくことです。もっとも、この点は、中間省略登記が可能であればそれによってかえることができます。ただし、売主が相続人である場合には、相続登記を省略することはできません。
 第三に、一筆の土地の一部を売却するときは、分筆の登記を行なっておく必要があります。
 第四に、他の人のための所有権移転の仮登記がある場合には、その抹消を必要とします。
 これらの前提的な処理をしたのち、売主から買主への所有権移転登記の申請を行ないます。

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 登記の移転は、売主の義務ですが、手続上は、登記簿上の所有権者(登記義務者)と買主(登記権利者)が共同して申請することになります。
 申請に際して必要な書類は、次のとおりです。
 (1)登記申請書 (2)登記原因証書または申請書の副本 (3)登記済証(権利証)または保証書 (4)登記義務者の印鑑証明書(発行後三ヵ月以内のもの) (5)固定資産評価証明書 (6)所有権移転登記申請手続を買主または司法書士に委任する旨の登記義務者の実印を押捺した委任状 (7)買主の住民票の抄本 (8)所有権移転登記申請手続を司法書士に委任する旨の買主の認印を押捺した委任状。
 (1)は、申請に際してあらたに作成するもの、(2)の登記原因証書は、売買契約書のように権利の移転を証明する証書ですが、実務上は、売買契約書とは別に売主が買主に対して確かに売ったということを証する売渡証書を作成してこれにあてることが多いようです。このような登記原因証書の提出は、それに登記所の「登記済」の記載と公印をうけて登記済証とし、その交付を受けるために必要なのです。ですから、この登記原因証書を提出できないときは、申請書の副本を提出するのでもよいとされています。
 (3)は、前回の所有権取得登記の際にこのように登記済の記載をうけて交付された原因証書です。この証書は、紛失しても再発行されないので、そのような場合には、保証書の提出でよいとされています。
 保証書とは、同じ登記所で登記を受けたことのある成年者二人以上が、登記申請者が登記義務者(現登記名義人)であって人違いがないことを保証する証書です。保証老の印鑑証明書(三ヵ月以内のもの)の添付を必要とします。保証書の提出をうけた場合、登記所は、登記義務者への問合せなど一定の方法でその信頼性をチェックします。
 (5)の固定資産評価書は、登録免許税算定のため、実務上、提出を要求されるものです。(7)は、買主名義が実在者であることを確認するとともに住所の誤りを防止するために必要とされます。
 (6)と(8)の委任状は、売主が買主を代理人として申請する場合または売主もしくは買主が司法書士を代理人として申請する場合に必要とされるものです。
 なお、売主および買主本人が登記所に出頭して申請をするときは、すくなくとも売主は実印を持参する必要があります。登記の申請に際しては、登録免許税を納付します。売買の場合、その額は固定資産評価証明書の評価額の一〇〇〇分の五〇です。
 移転登記は、ここにあげた書類などの手続上の要件がそろっていれば、申請を受理した登記所によって行なわれます。その反面の結果として、権利の変動の実質と必ずしも一致しない登記がなされる可能性もあることになります。その例を一、二あげましょう。
 第一は、A〜B〜Cと売買がなされたのにAからCへ直接に登記を移転する中間省略登記のケースです。この場合、Aを登記義務者、Cを登記権利者としてさきに掲げた書類を作成・提出すると、その通り登記されます。判例上、Bの同意があれば、Cの登記は、たとえAから直接に買ったのでなくても有効とみられています。このような登記をする場合は、買主Cは、Bの同意だけでなく、Aから「当該土地はすでにBに売却したものであるが、所有権移転登記についてはAを登記義務者、Cを登記権利者とすることとし、なんら異議を述べない」旨の申述言(念書)をとっておくとよいでしょう。のちに、AがBへの所有権の移転を否定して、AC間の移転登記の抹消を請求してきた場合に対処することができます。
 第二は、BがAから買い取った上地をB名義にすることを避けて、Cを登記権利者として移転登記の申請をするケースです。Cは登記名義人となっても無権利者であることはかわりません。ただし、Dがこのことを知らないでCから買いうけて登記をDに移転すると、Bは、Dに対しては返還を請求することができなくなります。
 買主は、契約に基づいて売主に登記を移転させる権利(登記請求権)をもっています。しかし、手続上は買主が単独で登記申請をするのではなく売主と共同で申請するわけですから、売主が申請に協力しない限り、通常の方法では登記を移転することができません。
 このように売主が登記申請に協力しない場合には、最終的には、売主を相手として裁判所に所有権登記移転請求の訴を提起する以外にありません。買主が勝訴してその判決が確定すれば、それによって、売主は登記申請に同意したものとみなされ、確定判決を登記申請書に添付して共同申請の形式をととのえ、登記を移転することができます。もっとも、この方法で目的を達するにはかなりの日時を要するので、まず裁判所に対し仮登記仮処分命令を申請し、仮処分命令を得て仮登記を行なっておくべきです。この場合、仮登記の申請書に仮処分命令の正本を添付して、買主が単独で申請することができます。仮登記をした上で本登記の移転請求の訴訟をすすめることになります。
 買主が代金を支払おうとしているのに売主が移転登記の申請に応じない場合には、このように裁判によって強制的に登記を移転させる方法があります。しかし、そうだからといって必ずしも安心していられないことがあります。
 それは、売主が買主に売ることをやめて、他の人に売却してしまうかもしれないからです。売主をA、買主をB、新しい買主をCとしましょう。AB間の売買契約ののち、AがCに売却して登記をCに移転してしまうと、Bが裁判所に登記請求の訴えをおこしても登記を取得することは不可能となるからです。
 そればかりでなく、登記を得られなかったBは、Cに対して自分が所有権者であることをみとめさせることができず、反対に登記を有するCがBに対して所有権を主張すると、Bはそれをみとめざるを得ないという関係におかれます。その結果、Bは、所有権を完全に失うことになりますが、この点は、くわしくはこの本の最後の部分で述べることにします。
 ところでAがCに売却するか否かは、別にAがBと相談してきめることではないので、Bとしては知るよしもありません。または、Aがすでに他の人に売却した土地をBに売ろうとしているのかもしれませんが、そのことも的確にはつかめないのがふつうです。したがって、買主Bにとって権かなことは、登記だけということになります。いいかえれば、土地の買主はできるだけ早く登記を行なって所有権を確保する以外にありません。
 不動産の売買においては、このような二重売却のおそれがつねにありますから、買主としてはできるだけ早く、売買代金を用意して支払いの申出でをして登記の移転を求め、売主がそれを渋るようであったら、事情をたしかめた上で仮登記仮処分の申請をして仮登記をすませておくことを考えるべきでしょう。仮登記がなされても、売主Aが第三者Cに売却して登記を移転することを阻止することはできませんが、のちに述べるように、あとで仮登記を本登記に直すことができ、その場合にA〜Cの移転登記よりもA〜Bの移転登記(本登記)の方が時間的にはあとでも順位として優先すると主張することができるのです。

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