契約の履行と履行をめぐる紛争

 契約の当事者は、契約に定められた条件に従って、それぞれの契約上の義務を誠実に履行しなければなりません。不動産の売買契約においては、すでに述べたように、売主の物件の引渡しおよび登記移転の義務と買主の代金支払いの義務がそれぞれの基本的な義務として対価関係に立ち、同時に履行されるべき関係にあります。以下、これらの基本的な義務がどのように履行されるか、履行されない場合にはどのような解決がなされるかについて述べることにしますが、そのまえに、この同時履行の関係について要点を整理しておきましょう。

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 同時履行の原則は、自己の基本的な義務を履行しようとしないで、それと対価関係に立つ相手方の基本的義務の履行を求めることができないということです。自己の義務を履行したのちでなければ相手方の義務の履行を求めることができないというのではなく、履行の準備をして相手方が直ちにそれを受けることができるようにしておくことが必要です。たとえば、日時をきめて司法書士の事務所で登記申請に必要な手続をすると同時に代金を支払うという約束があれば、その日時に登記申請の必要書類などをもって、または代金を用意して、司法書士事務所に赴くことが「提供」にあたります。この場合、相手方が約束をたがえて出てこなかったとすれば、その後は、相手方に対して履行の請求をすることができます。逆に、そのような相手方から履行の請求があっても、それを拒否することができます。
 ここで、履行の請求ができるというのは、相手方が履行しない場合には債務不履行として契約を解除し、損害賠償の請求をすることができるということを意味しています。逆に、履行の請求を拒否することができるというのは、履行しなくても債務不履行とならず、したがって相手方は、契約を解除したり、損害賠償を請求したりすることができないということを意味します。ひとくちでいえば、売買契約において契約を解除するためには、その前提として自己の基本的義務の履行の提供を必要とする、ということになるでしょう。
 売買契約中で代金支払いの日時、場所、支払手段の種類などについて具体的に定めることは稀で、契約締結後適当な時期に売主と打合せをしてきめるのがふつうです。不動産業者の仲介によって契約を締結した場合は、これらのことがらは業者が調整してくれます。なお、代金の支払いは、あくまでも買主自身(またはその代理人)が行なうべきで、業者に依頼することは避けるべきです。
 代金の支払いが約束の期日までにできない場合は、どうなるでしょうか。売主が履行の用意をととのえている以上、期日におくれれば債務不履行となります。若干の猶予があれば支払いができるという場合には、履行期前であっても売主と相談して延期を求めておくべきです。しかし、売主が猶予をみとめない場合もあります。
 売主は、買主の代金不払いを理由として契約を解除することができます。
 売主が契約を解除するためには、売主側の履行の提供を行なった上で、買主に対し、期限を定めて履行の催促(催告)をすることが必要です。催告をしても期限までに買主が支払わない場合にはじめて、契約を解除することができます。通常、この催告は、のちに確実な証拠を残すために、内容証明付書留郵便で行ないます。契約解除の意思表示も同じ方法でなされるのがふつうです。
 以上が代金不払いの場合の契約解除の原則的な方法ですが、あらかじめ契約で定めておけば、この手続を省略することもできます。たとえば、「売主または買主がこの契約に違反したときは、相手方は、催告をすることなく直ちにこの契約を解除することができる」と定めると、売主は、自己の履行の提供をしたのち、直ちに、内容証明郵便で契約解除の意思表示をすることができるのです。
 また、契的中に特に定めておかなくても、催告と解除の意思表示を一つの書面にまとめ、一回の内容証明郵便でおこなうことができます。その場合の文面は、「○月○日までに支払って下さい。同日までに支払いがない場合は、契約を解除します」というように、条件付きの形をとることになります。この方法は、解除をいそぐ売主にとっては便利ですが、なお買主の出かたをみたいという場合には、適していません。
 そのようなときは、とりあえず催告をして解除権を発生させた上で、その行使を留保し、買主の出方をまつことになるでしょう。その間買主が支払いをすれば、売主の解除権は、消滅します。
 契約が解除されると、契約が締結される以前の状態に戻すことになります(原状回復)。買主がすでに物件の引渡しを受けていれば、引き渡された状態で返還しなければなりません。手付金が支払われているときは、それが違約手付であれば売主がそのまま没収します。解約手付であれば、返却すべきところを売主がその一部または全部を損害賠償金の全部または一部に充当するという処理がなされます。
 代金の支払いができないのではなく、買主の側で売買物件を買う意思がなくなったということもあります。他によい土地の売りものがあって、そちらを買いたいというような場合です。買主としては、すすんで契約に違反することになるわけです。
 まず、買主が解約手付として手付金を支払っている場合は、買主は、手付金を放棄するだけで契約を解除することができます。
 解約手付として機能する手付金を支払っていない場合は、自ら契約を解除することはできません。この場合は、できるだけ早く、売主に買受けを断念する旨を通知し、売主側の損害を最低限にとどめさせる必要があります。買主側の不買の意思が明確であれば、売主は、契約を解除するだけとなります。買主としては、原状回復をし、必要な損害賠償金を支払って、取引に終止符をうつことになります、違約手付が交付されているときは、売主が没収します。
 物件の引渡しは、移転登記申請手続および売買代金の支払いと前後して、物件の所在現場で行ないます。
 実務上の取扱いとしては、引渡しの日時を記載した「引渡確認書」をとりかわすこともありますが、引渡しそのものは事実上の行為で、その方法がとくに定められているのではありません。
 引渡しをスムーズにすませるために、事前に行なっておくべきことがらが若干あります。
 境界の確認には、隣地所有者の立会いを求める必要があるので、その立会いが可能な日にさきに行なっておくのです。境界を確認することができたら、売主は、引渡しの日までに境界石を埋没するなどの用意をしておくべきです。
 実測売買の場合には、売買代金の支払い前に測量を行なう必要があります。この測量には、売主と買主は必ずしも立ち会いませんが、測量をどの測量士に依頼するかという点については、売主は、あらかじめ買主の承諾を求めておくとよいでしょう。
 土地の売買においては、このほか庭木、庭石その他土地と一体となっているものの確認が必要です。売主が売却にあたって他へもち去ることを望む庭木などは、契約書の物件表示の中で、「ただし○○は、除く」と明示しておかなければなりません。
 とくにこのような留保をしなかった場合は、契約締結時の現状のまま引渡しをすることになります。この趣旨を明示するため、物件の表示に「ただし、この土地の地上物は、すべて現状有姿のままとする」と付記することが広くおこなわれています。
 いずれにしても、契約締結時の現状について売主・買主立会いのもとに確認を行ない、引渡しにあたって再確認をすることが必要です。
 引渡しは、売買契約に定める条件に従って登記申請手続および売買代金の支払いに前後して行なわれるのがふつうですが、売主側の都合によっておくれる場合があります。買主としては、引渡しのメドがつかない場合は、売買代金の支払いをさきにのばすことができます。しかし、売主との協議がまとまれば、ひとまず、登記および代金支払いをすませて所有権を買主に移転し、別に引渡しの日を定めて、それまでは売主に従前どおりの使用をみとめることもあります。この場合の権利関係は、前述のように買主から売主へ無償で貸与する使用貸借関係とするのがふつうです。賃料をとることは借地権を設定することになり、かえってのちの引渡しを困難にするおそれがあるからです。
 売主が登記の移転に応じながら引渡しをしない場合、買主としては、あくまでも引渡しを求めるか、それとも契約を解除するかの選択を行なうことになりますが、最終的には裁判によって引渡しを強制することができること、引渡しがなくても他へ転売することができること、契約を解除すると登記の抹消に応じなければならず、他方売買代金の回収について具体的な保証がないことなどから、契約解除のみちを選ぶことは実際には少ないようです。
 引渡しが遅延したことによって生ずる損害は、売主に対して別個に賠償請求をすることができます。通常は、遅延期間の賃貸収益価格を一応の基準として損害賠償額を算定しますが、引渡しの遅延によって買主がそれを上まわる出費を現実に強いられた場合は、それを損害額とすることになります。このほか、転売を予定して買い受けたが引渡しの遅延によって転売が不可能になったという場合は、転売目的の売買であることを売主が知っている限り、転売の利益を損害賠償として請求することができます。
 売主が引渡しをしないばかりか、登記の移転にも応じない場合は、これと別に考える必要があります。この点は、のちに登記の移転の問題として説明しましょう。
 引渡しの問題に関連して、引き渡される物件の性質・内容・状態などについて生ずるトラブルについて述べておきましょう。
 第一は、引き渡すべき土地が、自然災害によって流失したり、陥没したりした場合の危険負担の問題です。同様の問題は、公権力による公用徴収や道路編入によって土地の一部または全部がとられてしまう場合にも生じます。このような事件が生ずることも想定して契約中に条項をいれておくと、買主は、その選択にしたがって、代金の減額、損害賠償または契約の解除のいずれかの方法で、その損失をすべて売主に負担させることができます。
 この危険負担の特約は、契約締結後に生じた目的物件の滅失などについてのみ適用があり、契約締結前にすでに物件の全部が滅失していたが当事者がそれに気づかなかったという場合には適用がありません。そのような場合には、契約そのものがはじめから成立しないと考えられます。
 この場合の売主の責任は、契約に基づく責任ではなく、契約締結上売主に過失があったため、契約が有効に成立すると信じた買主がこうむった損害についての賠償責任です。買主が契約締結のために支出した費用などが賠償されることになります。

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