土地の引渡しと登記

 売買物件の引渡しと所有権移転登記は、売主が負う最も基本的な義務です。すでに述べたように、この二つは、買主の基本的義務である代金の支払いと対価の関係に立ち、それと同時に履行されるのが原則です。そのため、代金の支払いまだは引渡しを特に早く行なうべき理由がない限り、引渡しと登記は、売買代金の支払いと同時に行なわれる旨を規定します。
 しかし、現実には、所有権移転登記と物件の引渡しを、代金の支払いと同し瞬間に行なうことはできません。そこで、取引実例をみると、一番多いのは、移転登記申請手続と代金の授受を同一時間・場所で行なうという取扱いです。厳密にいうと、登記は、登記所が受理して登記簿への記載を完了しないとおわったことになりませんが、申請の日から多少とも日時が経過して登記簿への記載がなされる現状では、登記完了の日を代金支払いの日とすることは不都合でもあります。売買当事者としては、明確に指定できる日を選ぶほうが便利だからです。したがって、移転登記申請手続が確実になされることになる時点をもって登記を移転する義務が履行されると考えることになります。

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 この時点としては、登記所が申請受理証明を発行した時をとるのが正確ですが、登記所の受付時間の関係で翌日まわしになることもあるので、よリ確実に予定できる時点として、登記手続を代行する司法書士が登記申請に必要な書類が完備したことを両当事者に対して確認した時点をとるのがふつうです。その結果、この確認がおわると、その場で代金の授受を行なう段取りとなります。しかし、契約条項としてはこのようなことを具体的に規定することには限度がありますから、つぎのように抽象的に書くにとどめます。
 「第○条 売買物件の所有権移転登記申請手続は、売買代金の支払いと同時に行なう。所有権移転登記申請に要する登録免許税および司法書士報酬は、買主の負担とする」
 このように、代金の支払いと登記申請を同時とした上で、売買物件の引渡しもぞれと前後して行なうのが通例です。ここでは、代金支払いおよび登記申請の直後におこなう場合についての文例を示します。
 「第○条 売買物件の引渡しは、所有権移転登記申請手続および売買代金授受の完了後、遅滞なく現場において売主および買主の立会いのうえ行なう」
 売買物件について設定されている他人の権利で買主に対して対抗力を有するものについては、所有権移転前に処理しておくことが望ましいといえます。前述のように、他人の利用権(地上権や賃借権)を消滅させることは一方的にはできませんが、拒保権(質権や抵当権)は、債務の弁済によって消滅させることができます。買主としては、代金の一部を内金として前渡しして売主の弁済に協力し、そのかわりに、契約中で売主の担保権抹消義務を明定することがよく行なわれます。
 次にあげるのは、登記された抵当権が存在する上地の買主が所有権の移転登記までに抵当権を消滅させ、その登記を抹消することを売主に約束させる条項です。
 「第○条 売主は、所有権移転登記申請に先立ち、この契約の締結の目現在売買物件について設定されている〔抵当権貴名〕の抵当権の登記(○○法務局○○年○月○日受付第○○号登記)を抹消しなければならない」
 ところで、契約締結時において存在することが明確にわかっている他人の権利の処理については売主との合意によって約定することができますが、契約締結の段階では買主が知らなかった所有権の制限については、この形での処理を約定することは不可能です。そのため、後日判明するかもしれない制限についても、そのことによって生ずることのある買主の負担を売主の責任において解決する旨の条項を設けることが広く行なわれています。これは、売主の権利に関する担保責任の問題です。次の文例は、その一例で、抵当権登記の抹消に関するこの条項に追加する場合の書式です。
 「売主は、前項に定めるもののほか、売買物件について、現に地上権、地役権、質権、抵当権または賃借権の設定その他買主の完全な所有権の行使を制限するいかなる負担もなく、かつ、一切の瑕疵または負担のない所有権を買主に移転する。前項の事項について、第三者から故障の申出でがある揚合は、売主がその処理を引き受け、買主に対してなんらの迷惑もおよぼさない」
 売買契約によって所有権がいつ移転するかは、それだけを独自に論ずるとすればむずかしい問題ですが、契約によってその時期を自由に定めることができるので、契約締結に際してとくに困難はありません。他方、所有権が移転することによって生ずべき法律上の個々の効果(公租公課の負担、危険負担など)については、それぞれ別個に条項をおくので、所有権の移転時期を明定する必要性は、現実にはそれほど大きくないといえます。しかし、売買契約の目的は、法律上は売買物件の所有権移転そのものであること、他方、個々の規定では解決され互い問題が生ずるおそれなしとしないことなどから、契約中に所有権移転条項をいれることが、ほぼ通例となっています。
 「第○条 売買物件の所有権は、買主が売買代金の金額を完済した時に、売主から買主ヘ移転する」
 不動産所有者に課せられる固定資産説や都市計画税は、地方税法によると、毎年一月一日現在の課税台帳(または補充台帳)上の所有者に一年分か賦課され、年の途中で所有者の変更があっても、納税義務者を変更しないことになっています。したがって、売主と買主の間で一年分の租税を実質的にどのように負担するかを定めておく必要があります。
 ところで、一年度の起算日をいつにするかによって分担すべき金額に差異が生じますが、この点については、法律上直接の基準はありません。税法上の基準日とあわせて一月一日とするか、会計年度にあわせて四月一日とするか、主としてこの二つの例がみられます。いずれにするかは、契約上で明記する必要があります。
 「第○条 売買物件に対する固定資産説および都市計画説その他の租税公課については、負担の起算日を○月一日とし、売主は、起算日から売買物件の引渡しの月(日)までの分を、買主はその翌月(日)以降の分を、それぞれ納付する
 契約を締結したのちその履行までに目的物が滅失したり、毀損した場合、その責任(損失)は、契約当事者のどちらがひきうけるべきかという問題です。まず、滅失や毀損の原因について当事者の一方に責任があればその者が負担するのが当然です。この場合は、法律上は損害賠償の問題としてとりあつかいます。
 これに対して、当事者のいずれの責任にも帰することができない原因(たとえば自然災害のような不可抗カ)によって滅失または毀損したときは、当然に一方の負担であるといえないので、法律上の基準を設けておくことが必要となります。
 この点について、民法第五三四条は、不動産のような特定物については、物件の引渡債務の債権者すなわち買主が危険を負担する、と定めています。しかし、それには不都合があります。買主としてみれば、いまだ引渡しを受けていない物件をもはや手にいれることができなくなったとき、その原因について自分のほうにはなんら落度がないのに、代金だけは全額支払わせられるのは理屈にあわないといえるからです。
 そこで、契約を締結する際には、この種の危険の負担を売主に負わせるための特約条項を設けるのがふつうです。
 特約のしかたについては、さまざまな形が者えられますが、損失の程度によって解決のしかたをかえ、比較的軽微な場合は代金の減額と損害賠償によって処理し、契約をした目的を達成することができない場合には買主に契約の解除を許す、という二段がまえの条項を設けることが望ましいでしょう。
 土地については、単なる物理的現象としての滅失や毀損は、流失や陥没などきわめて稀なケースしか考えられません。しかし、公用徴収や道路編入など、いねば人為的原因による場合も考えなければなりません。文例としては次のようになるでしょう。
 「第○条 この契約の締結後、第○条によって売買物件の引渡しを行なう日までに、売主または買主のいずれの責めに帰すべき事由にもよらないで、売買物件の全部または一部が流失、陥没その他によって滅失または毀損したとき、または公用徴収、道路編入などの負担が課せられたときは、その損失は、売主の負担とし、買主は、売買代金の減額または原状回復に要する費用についての損害の賠償を請求することができる。
 前項の滅失もしくは毀損または負担によって買主が契約締結の目的を達することができない場合は、買主は、この契約を解除することができる。この場合には、売主は、第○条に定める手付金を買主に返還しなければならない」
 当事者の一方がその契約上の義務を履行しない場合(債務不履行)、相手方は契約を解除して契約がなかった状態にもどし、契約の目的が達せられなかったことによって生ずる損害の賠償を請求することができます。これは、民法によって定められている法律上の権利ですから、契約中でとくに定めなければならないという性質のものではありせまん。しかし、当事者が相互に契約をまもるように注意を喚起する意味もあり、また解除権の行使の方法や、損害賠償の方法を定めるための前提としても必要なので、どの売買契約でも、そのための条項を設けています。
 契約違反には、基本的な義務の違反から付随的な義務の違反まで多種多様なものがあり、また違反の程度もさまざまに考えられます。したがって、契約違反があれば契約は解除される、という簡単な書き方をすることには、問題がないわけではありません。しかし、契約違反の場合をあれこれ想定して、その処理の方法をひとつひとつ具体的に定めることはとうてい不可能です。そのため、契約書式上の表現は、ひとまず簡潔なものとし、具体的な問題の処理については、できるだけ当事者の協議によって解決し、最終的には裁判所の判断に委ねるという考え方をとるべきでしょう。
 「第○条 売主または買主がこの契約に違反し、かつ、履行の催告に応じないときは、相手方は、この契約を解除することができる」
 つぎに、契約違反の場合の損害賠償についてどう定めるか、という問題があります。債務不履行によって相手方に損害を与えた当事者は、法律上の義務として、その損害を賠償しなければなりません。このことは、契約解除権と同様に、契約によって定めてはじめてみとめられる権利義務関係ではありません。
 他方、違約手付として手付金を授受する場合には、損害賠償の問題は、手付の効果を定める条項によってほぼカバーされます。したがって、違約手付について定める場合には、そのほかにあらためて損害賠償の規定を設けないのがふつうです。
 解約手付として手付金を授受する場合は、これと同じではありません。解約手付は、契約違反の有無にかかわらず契約を解除することを許す制度ですから、債務不履行の場合の損害賠償とは本来無関係なのです。
 そこで、解約手付がうたれている場合に生じた債務不履行については、契約の解除にあたって請求すべき損害賠償の規定を設けておく実益があります。その場合の文例は、つぎのようです。なお、この条項は、契約解除に関する条項のつぎにおくものとします。
 「第○条 前条の場合には、この契約に違反した売主または買主は、相手方に対して違約金として金○○円也を支払う。ただし、第○条に定める手付金は、売主が違反したときは買主に返還され、買主が違反したときは買主が支払うべき違約金(の一部)に充当される」
 この場合、違約金の額は、手付金と同額でも、それより多くても少なくてもかまいません。
 最後に、手付金の授受を一切行なわない場合にも、債務不履行の相手方が損害賠償請求権をもつことは当然です。この場合、違約金条項をおくことも自由です。

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