不動産取引と業者

 不動産は、すでに述べたようにそのひとつひとつが個性をもった商品であるとともに、運搬によって移動することができない商品です。そのため、たとえば不動産を購入しようとする場合、買手が希望する契約条件に近い条件で購入目的に合致した物件を売却しようとする売手を見出すことは必ずしも容易でありません。売りに出されている物件をひとつひとつ訪ねて適当な物件を見出すまでには、多くの労力と時間を費すことになります。
 このような不動産商品の特殊性から、不動産取引については早くから取引のあっせんなどを仕事とする職業が存在していました。売手や買手にとっては、それぞれ未知の買手や売手をこのような不動産業者を通じて探し、売買の目的を適するわけですから、不動産業者が豊富な情報と職業上の知識および経験をもち、誠実にあっせんを行なう人であるか否かによって大きなちがいが生じます。
 人口の都市集中によって不動産市場の需給にアンバランスが生じ地価がいちぢるしく騰貴している時代においては、不動産取引の事故がひんぱんにおこりがちです。業者の関与がかえって事故をひきおこすこともあります。不動産取引の事故は、商品の価額が大きく、需要者の生活に直接に打撃を与えるので、不動産取引業のあり方自体が社会問題とされることもありました。このような状況に対処するため、不動産取引業に一定の規制を加えることを目的としてつくられたのが宅地建物取引業法です。

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 宅地建物取引業法は、昭和三十二年の宅地建物取引主任者の設置および営業保証金制度の創設などの改正によって次第に整備されてきましたが、他面では、いまだ有資格業者の職業保護の色彩がつよく、需要者の保護という点ではそれほど実効性がなかったといえます。
 その後、悪徳業者の事例が業者のあり方全体について強い批判をひきおこすようになるに至ってあらためて規制の強化が叫ばれ、昭和三十九年には業者の登録制を免許制にあらため、昭和四十二年には誇大広告の禁止、取引態様の明示義務、重要事項の説明義務、書面の交付義務、手付貸与の禁止、行政庁の監督権の強化などの業務内容に関する規制が追加され、昭和四十六年には免許基準の整備、契約内容の適正化、前金保全措置の義務づけなどのための改正が行なわれて現在に至っています。
 宅地建物取引業法によって規制を受ける行為は、「宅地若しくは建物の売買若しくは交換又は宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介をする行為で業として行なうもの」に限られます。
 ここでいう「宅地」とは、「建物の敷地に供せられる土地」一般をさし、現に建物が存在しなくても建物の敷地に伏せられる目的で取引される土地は、その地目が「宅地」でなく、「田」「畑」「山林」「原野」であっても、また現況が耕作地であっても、ここでいう「宅地」に合まれます。とくに、都市計画法で第一種・第二種住居専用地域、住居地域、近隣商業地域、商業地域、準工業地域、工業地域、工業専用地域として用途が定められている地域(用途地域といいます)内の土地は、道路、公園、河川等を除くすべてが宅地建物取引薬疹の適用をうける「宅地」であるとされています。
 つぎに、取引業の内容からみると、宅地、建物の売買または交換を自ら当事者として行なうこと。宅地・建物の売買、交換または貸借について当事者を代理すること、宅地・建物の売買、交換、貸借について当事者に対し媒介を行なうことの三種の行為を業として行なう場合は、宅地建物取引業法に基づいて宅地建物取引業の免許をもたなければならないことになります。
 ここで「業として行なう」というのは、反ぷく継続して一定の行為をおこない、それが社会通念上、一個の事業とみられる程度に建しているという意味です。営利を目的としているか否かは直接関係がありません。
 つぎに、ここにあげた三つの場合を具体的に説明しましょう。以下、すべて土地の売買を例にとります。
 宅地・建物の売買を当事者として行なうこと、たとえば、土地を売却したい人が業者にその旨を申し出て、業者が自ら買手となって、売手と売買契約を結ぶ場合がこれにあたります。
 宅地・建物の売買について当事者を代理すること、土地を売却したい人が業者に売却を依頼し、業者が依頼者の代理人として、売却の相手方(買手)を見出し、その者と売買契約を締結する場合です。売買契約という法律上の行為を行なうのは、代理人である業者であって依頼者ではありませんが、売買契約の効果はすべて依頼者本人について発生します。
 この場合、業者は、依頼者からのみ委任に基づく報酬を受けとることができます。その額は、つぎの場合に一方の依頼者から受けとりうる最高額の二倍までです。他方、業者は、契約の相手方に対しては特別の事情がない限り報酬を請求することができません。
 宅地・建物の売買について当事者に対し仲介を行なうこと、土地を売却したい人が業者に売却の仲介を依頼し、業者が売却の相手方(買手)を見出し、その者と依頼者の問で売買契約の締結に至らしめる場合です。宅地建物取引業法上では「媒介」といっていますが、通常用いられる「仲介」と同じ意味です。契約を締結するのはあくまでも依頼者本人です。業者は、依頼者(売手)からも相手方(買手)からも報酬を請求することができます。
 当事者の一方から受けうる報酬の最高額は、取引金額が二〇〇万円以下の場合、その一〇〇分の五、四〇〇万円以下の場合、二〇〇万円をこえる部分について、その一〇〇分の四、四〇〇万円をこえる場合、四〇〇万円をこえる部分について、その一〇〇分の三とされています。したがって、たとえば、取引金額が一二〇〇万円であれば、業者は、両当事者からそれぞれ最高四二万円まで報酬を受けとることができます。
 このように、宅地建物業者が取引に関与する方法には三つの態様があります(取引態様)。業者は取引の依頼を受けるにあたって、三つのうちのどの態様で関与するかを明らかにする義務を負っています。媒介のつもりで依頼したところ、代理として契約を締結し、二倍の報酬を請求されたというような事件を防止するためです。
 なお、買手の立場からみると、売物件の表示(広告など)中に、業者が売手からどのような依頼をうけているかが明確に示されていないことがあるので注意が必要です。「代理」とか「媒介」と明確に表示されている場合は問題はありませんが、「仲介」「委託」「代行」「斡旋」「委任」などのことばが用いられている例が少なくありません。このうち、「仲介」(非常に多い)と「斡旋」(まれ)は、ほぼ「媒介」と同義であり、「委任」は、業法上でいう「代理」に相当します。「代行」は、「媒介」とことなって、相手方がきまったのちに契約の締結および履行までの事務を引きうけることをさすことが多いようです。「委託」は、いちばんあいまいなことばで、その実際の関係は「代理」の場合もあれば「媒介」の場合もあります。単なる「媒介」であるのを「代理」ないし「委任」のようにみせかけて買手をさそうために、「委託」といっている場合がありますから注意を要します。
 不動産業者を正しく活用することは、さきにのべたような不動産商品取引の特殊性からも必要であるといえます。つぎに、宅地建物取引業者の仲介によって土地の売買を行なう手順を、業者の側の義務を説明しながら示しますが、これはあくまでも一つのモデルにすぎないことをおことわりしておきます。
 まず、土地を売ろうとする人が業者を選んでその事務所に赴き、土地を売却したい旨を述べ、業者の仲介を依頼します。業者は、注文をひきうけるときは直ちに、土地の売却の「仲介」を行なうことを明示すべきです。口頭でも書面でもかまいませんが、つぎにのべる売却依頼書に記入してその写しを交付するという方法もあります。なお、業者が仲介か代理かを確認する際は、報酬の点についても説明すべきでしょう。
 依頼者は、売却物件についで概要を説明し、売却希望条件を提示します。業者は、物件の概要として、所有者、登記名義人、所在地、地目、面積、建物の有無などを把握したのち、売却希望条件を確認します。価額、売却期限、明渡し可能の時期、付属物件(庭木や庭石など)を含めるか否かの別、建物との関係などがその要点です。業者としてはこのほか、現地調査および権利関係の調査のための資料として、交通の便(最寄駅からの略図)、居住環境、ガス・水道などの設備、他人の権利の存否などについてたずねます。依頼を受ける場合には、以上の事項の要点を記載した売却依頼書を作成しておきます。
 なお、依頼者は、売却依頼の際に権利証や実印を業者に預けることは絶対に避けるべきです。もし業者がそれを要求したら、むしろ依頼そのものをやめるべきでしょう。
 業者は、依頼を受けたのち、できるだけ日をおかないで物件の調査を行ないます。その目的は、現場での物件の確認と権利関係の調査です。この物件調査は、業者の側で費用を負担してその責任で行なうことがらです。業者としては、販売活動を効率的にすすめるためにも、また業法上の重要事項の説明義務をはたすためにも、物件調査を欠くことはできません。物件調査の結果、売却希望条件の修正を依頼者に対して求めることもあります。
 物件調査がおわると、業者は、種々の広告・情報手段を用いて当該物件の買受希望者をさがします。買受希望者があらわれると、売却依頼者を紹介し、双方の売買希望条件が一致するようにあっせんをします。この際、買受希望者との間に他の業者が入る場合がありますが、依頼者としてははじめに依頼した業者とのみ仲介契約関係にあるわけですから、介在した業者に直接に報酬を支払う必要はありません。
 業者は、対象を特定しない買受依頼者の中から買受希望者を探すことになります。この場合、買受依頼者には物件調査にもとづいて作成された物件紹介書を数点示して、買受希望にあった物件をさがさせるという方法がとられます。
 買受希望者の意思がかたまると契約の締結(契約条項の確定)に移りますが、業者は、買受希望者の意思がかたまる過程で物件に関する重要事項について説明する義務を負っています。重要事項とは、次の一〇項目です。そのうち、(1)から(5)までは書面によって説明することが必要です。
 (1)当該土地の登記簿上の権利関係 (2)都市計画法、建築基準法等の一定の法令に基づく制限 (3)私道に関する負担 (4)水道・電気・ガスの供給整備状況 (5)造成・建築完了前の取引においては、完了後の形状構造 (6)代金以外に授受される金銭の額および授受目的 (7)契約の解除に関する事項 (8)損害賠償の予定または違約金に関する事項 (9)前金保全推薦の概要 (10)代金に関する金銭貸借のあっせん(いわゆるローン)の内容および貸借不成立の際の措置。
 契約が締結されると、業者の媒介は目的を造したことになります。業者は、依頼者に対し、契約内容中の重要な事項を書面にして交付する義務を負いますが、通常は、契約書面の作成・交付によってこれにかえます。
 契約が成立すると、業者の報酬請求権が成立します。しかし、契約の締結と同時に全額を要求することは少なく、代金の支払いと引渡しおよび登記の移転が完了してから支払いを求める場合や、「契約時半分、履行完了時半分」とわけて支払いを求める場合が多いようです。できれば依頼の受付の際に、報酬の支払時期と方法について合意しておくことが望ましいといえます。
 最後に、業者の報酬請求権に関する若干の原則を示しておきましょう(仲介の場合)。
 報酬請求権は、明示の合意がなくても、契約の成立によって発生します。業者が相手方を紹介したのち、業者の介在をさけて直接に交渉し契約の成立にいたったときも、報酬請求権は成立します。相手方との間に多くの業者が介在しても、依頼した業者に対して所定額を支払えば足ります。数人の業者に重複して依頼し、そのうちの一人の仲介で契約が成立したときは、他の業者は報酬を請求することはできません。契約成立後、業者の責任に属しない理由によって契約が解除された場合には、報酬請求権は消滅しません。業者は、所定の報酬額以外には、特約がない限り、案内料、広告料、調査費などいかなる名目でも金銭その他を請求することを禁じられています。

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