不動産の取引

 不動産の取引とひとくちにいっても、その内容はさまざまです。取引ということばをもっとも狭く考えれば、売買をさすことになりますが、ここでは広く考えて売買以外の取引についてもひととおり見ておくことにします。
 不動産の取引とは、当事者の合意によって不動産に関する権利義務を発生させ、変動させ、または、消滅させる行為をいいます。それは、法律上の行為であって事実上の行為とは区別されますが、取引のことばを最も広く用いて、法律上の行為を行なうために必要な一連の事実上の行為を含めて取引という場合もあります。なお、時効や相続・遺贈による財産の取得は、合意によるものではないので、取引とはよびません。
 ここでは、合意による権利義務の取得・喪失を目的とする行為を取引とよぶことにし、不動産の取引をその内容にしたがって分類すると次のようになります。
 不動産の所有権の得喪を目的とする取引 - 売買、交換、贈与、共有物の合意分割、担保のための所有権移転、信託
 不動産に他人の権利を設定することを目的とする取引 - 利用権の設定(地上権、永小作権、地役権等の用益物権を設定する契約。賃貸借、使用貸借等の契約)、担保物権の設定(質権、抵当権の設定契約)
 不動産の建築、改良、維持、管理などを目的とする取引 - 建築請負契約、工事契約、管理契約
 不動産の取引の成立を目的とする取引 - 委任(代理)契約、媒介(仲介)契約

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 不動産の取引のうち、最も代表的でひんぱんに行なわれるのは売買です。不動産の所有者は、売主として不動産を相手方に引き渡し登記を移転する義務を、相手方は、買主として売主に代金を支払う義務をそれぞれ負うことを約束します。不動産の売買契約はこのように、財産権を代金の支払いとひきかえに移転することを内容としていますが、売買の対象となる財産権は、実は、所有権に限られません。地上権や不動産賃借権を対価の支払いとひきかえに相手方に移転する契約も、その性質は売買契約です。
 他方、売主は、必ずしも自分の所有物を売るとは限りません。他人に属している物を勝手に売ろうとする契約も、売買契約として有効に成立します。ただし、そのあとしまつをどうつけるかは問題ですが、この点はのちにゆずります。
 売買契約は、当事者の双方に対等に義務を負わせます。引渡しおよび登記の移転と、代金の支払いは、対価関係に立っているのです。このような契約(双務契約)では、当事者の一方が自己の負担する義務を履行しようとしないで相手方の義務の履行を求めることは許されません。たとえば、代金支払いの用意もしないで不動産の引渡しや登記の移転を求めることはできません。このような場合、相手方が一方的に義務の履行を求めてきても、それを拒否することができます。これを同時履行の抗弁といいます。
 売買に準じて考えてよい所有権の移転として、競売があります。これは、債権者の強制執行または担保物権の実行によって差し押えられた不動産を入札によって公売し、落札した考に競落代金の支払いと引きかえに所有権を移転し、競落代金は債権者への弁済にあてるという手続です。売主と買主が任意に合意して所有権を移転するのではありませんから通常の取引とはことなりますが、所有者(債務者)と取得考(競落人)の間の所有権の移転については、原則として売買に準じて考えてよいのです。
 交換 - ある不動産と他の不動産または不動産と金銭以外の動産を交換することも、不動産取引のひとつです。売買と同様に双務契約です。交換すべき二つの物の価額が同一でないときは、金銭によって差額を支払うのがふつうです。なお、土地収用や区画整理の場合には、土地の交換が行政上の換地処分という形で行なわれることがあります。
 贈与 - 不動産の所有者が無償で相手方に不動産を与える意思を表明し、相手方がそれを受諾すると、取引としての贈与契約が成立します。当事者の一方のみが不動産を引き渡し、その登記を移転する義務を負う契約(片務契約)ですから、実際にはそれほど多くは行なわれません。社会事業を行なう個人や団体に不動産を寄付したり、老後の世話をしてもらう約束で不動産をあらかじめ贈与したりすることなどがその例でしょう。なお、贈与は、書面によって合意しておかないと、贈与者の側で一方的に取り消し、贈与者の不動産を移転する義務を消滅させることが許されていますから注意を要します。
 共有物の合意分割 - 数人が共同して一個の不動産を所有していることがあります。これを共有といいます。数人で金を出しあって不動産を購入した場合や、父母の所有した不動産を兄弟姉妹で共同に相続したときなどに、共有の関係が生じます。共有者は、原則としていつでも共有物の分割を請求することができます。この場合、共有者の全員が協議によって合意に達し、分割の方法を具体的にきめることができます。その意味で共有物の合意分割も、不動産取引のひとつであるといってよいでしょう。分割方法としては、不動産を一括して売却し、その代金を分割する代金分割(この場合は売買と同一になります)、不動産を分筆して分ける現物分割、共有者のうちの一人が他の共有者の持分を譲りうけてその代価を支払い、不動産を独占する補償分割など、さまざまな方法を合意することができます。
 不動産の所有権を移転することを本来の目的とする取引ではなく、債権の担保のために所有権を移転し、債務の弁済が所定の目までになされた場合には所有権をふたたび前所有者に返還するということを内容とする取引です。あらかじめ債権者に不動産の所有権を移しておくので、債権者からみれば確実な担保方法となります。この所有権の移転を売買の形式によって行なう場合と、無償の移転契約の形式によって行なう場合がありますが、両者あわせて広く譲渡担保契約とよばれることがあります。
 これに類するものとして、担保の目的で、所有権の移転を生じさせる契約の予約を行なう取引があります。売買予約や代物弁済の予約などがそれです。債権者は、弁済がなされない場合、予約完結権を一方的に行使して売買または代物弁済の合意を成立させ、それによって所有権を移転させることができるのです。
 これらの担保のための不動産取引は、債務を発生させる契約とあわせてひとつの複合的な取引を形成するのがふつうですが、既存の債務の担保のために別個になされることもあります。
 信託契約 - 不動産の管理や処分を他人(受託者)に行なわせる目的で不動産の所有権をその者に移転し、当該不動産が信託財産である旨の登記をした上で、信託の目的に従って管理または処分を行なわせる契約が信託契約です。所有権の移転そのものが目的ではなく、管理または処分のための手段であるという点で、一般の売買とことなります。他方、担保のための所有権移転と一面において共通しているところがあります。なお、不動産の信託は、実際にはまれにしか行なわれていません。信託登記の手続がわずらわしい(費用もかかる)のがその一因で、実際は、信託会社を代理人として同様の目的を建していることが多いようです。
 他人の所有する不動産を利用するために設定される権利としては、物権としての地上権、永小作権、地役権と、債権としての賃借権、使用借権などがあります。
 地上権は、他人の土地において工作物または竹本を所有するためにその土地を利用する権利です。工作物に建物が含まれることはいうまでもありません。したがって、他人の土地の上に建物を所有する法律関係としては、賃借権などに基づく債権的関係と地上権に基づく物権的関係の二つがあるわけです。他方、竹本には、耕作物は含まれません。
 地上権者が対価(地代)を支払うか否かは、地上権を設定する契約によって定められます。地上権の存続期間についても契約で定めるのが原則ですが、建物の所有を目的とする場合は、借地法によって最低期間の制限が設けられています。
 なお、地上権は、土地の表面の利用だけでなく、地上の空間や地下の一定の範囲についても設定することができます。たとえば、高架線や地下道を設置するために地上権を設定することが可能です。
 永小作権は、小作料を支払って他人の土地で耕作または牧畜を行なうことを目的とする物権です。もっとも、今日では農地賃借権に基づく利用関係が圧倒的に多く、永小作権の事例はきわめて少なくなっています。
 地役権は、他人の土地を自己の土地の便益に供するために利用する物権です。この場合、便益を提供する他人の土地を承役地といい、便益を受ける自己の土地を要役地といいます。このように地役権は、土地と土地の間の関係であって、土地と人の間の直接的な便益供与の関係ではありません。たとえば、要役地Aが必要とする水をひく水路を承役地Bの上に設置するとか、A地への通行のためにB地上に通路を設けるとか、A地の眺望を保持するためにB地に障害物を設置しないという負担を課すために、地役権が設定されるのです。
 地役権は、要役地の所有権ときりはなして譲渡することはできません。他方、地役権を設定された承役地の所有者がかわっても、地役権は存続します。
 不動産賃借権は、賃貸借契約によって成立します。賃料を支払って他人の不動産を利用する権利ですが、法律上は、賃貸人である不動産所有者と賃借人の間の合意によって内容が定められる債権とされています。しかし、賃貸人と賃借人の合意によって内容をきめると不動産市場の需給のアンバランスからしばしば賃借人にとって不利な契約関係になりがちです。そのため、建物所有を目的とする土地賃貸借については、当事者がその合意で契約の内容を決定することができる範囲を法律によってかなり制限しています。建物の賃貸借についても、勤労者保護の立楊から、賃借権の内容を賃借人にとって不利にならないように強化しています。
 使用借権は、賃料を支払わずに他人の物を使用する契約です。無償ですから、実際上は特殊な関係においてしか行なわれません(親子、兄弟友人間など)。他方、無債なので、借主をとくに保護する必要がなく、借地法や借家法の適用がありません。そのため、たとえば建物の売買において売主の移転先がみつかるまで買主に売却した建物を売主があらためて借り受けて住む場合などに、賃貸借契約をむすぶことを避けて使用貸借とすることがあります。
 不動産を質入れしたり、抵当に入れたりする契約も不動産取引のひとつです。質権と抵当権は、ともに、設定契約によって設定されます。担保される債権が特定していることを必要としますが、この債権は、不動産所有者に対するものであることは必要としません。他人の債務のために質権や抵当権を設定することは自由です。
 質権は、動産に対しても、不動産に対しても、または他の財産権に対しても設定することができます。質権の設定に際して、質物を質権者に引き渡すことが必要です。不動産質権者は、質にとった不動産を自ら使用し収益することができる反面、担保された債権について利息をとることができません。不動産の所有者からみれば、質入れ期間中は自己の不動産を使用し収益することができないので、担保の方法としてはその点で不便だということになります。不動産の引渡しをしなくてすむ抵当権はひんぱんに利用されるのに、不動産質権が設定されることはきわめてまれであるのもそのためです。なお、不動産質権の存続期間は、一〇年をこえることができません。
 抵当権は原則として不動産についてだけ設定することができる担保物権です。不動産の引渡しを必要としないので、不動産所有者は、抵当にいれたのちでも、その不動産をひきつづき使用し収益することができます。
 抵当権は物権ですから、不動産が第三者の手にわたった場合でも、その不動産の上にひきつづき存在します。そして、債務者が所定の期日までに債務を弁済しない場合には、その不動産は抵当権者の申立てによって競売に付され、最終的には競落人の手に移ってしまいます。したがって、抵当権つきの不動産をそれとは知らずに買った人は、せっかく人手した不動産を失い、思わぬ損害を蒙むることがあります。このような事態をさけるため、抵当権者が抵当権の効力を第三者に対して主張するためには、抵当権設定契約を行なっただけでは足りず、抵当権設定の登記を行なうことが必要とされます。不動産を買う者は、登記簿をみて他人の抵当権が設定されているか否かを調べれば、のちに不測の損害を受けるということにはならないからです。
 このように、登記をすれば、のちにその不動産について権利を取得した者に対しても、それ以前に設定された権利をみとめさせることができるという制度を、不動産公示制度といいます。登記された権利をみとめさせる力を対抗力といいます。この制度は、抵当権に限らず、所有権の移転や地上権、永小作権、地役権、不動産質権の設定など、いままで説明してきた不動産物権の変動に共通して適用があります。
 いままで述べてきたのは、不動産について成立する権利の得喪に関する取引の主要な例でしたが、不動産に関する契約にはまだいろいろなものがあります。不動産の物質的な変更や維持を目的とする契約の若干の例をつぎにあげます。
 建築請負契約とは建築をたのむ契約は、通常、注文者と請負人の間で結ばれる請負契約です。請負人は、予定された建物を建築する仕事を完成する義務を負い、注文者は、仕事の結果について報酬を支払う義務を負います。仕事を完成させる期間や、材料および費用の提供ないし支払い、工事の方法、所有権の移転時期などを契約中で定めるのがふつうです。
 なお、建築契約と区別すべきものとして、建売契約があります。もっとも、建売りといっても業者によって必ずしも同じ意味につかわれてはいません。すでに完成した同種の建物をいっせいに売りだす場合もあれば、建築中の段階で売る場合もあり、または、規格・仕様を定めてモデルハウスを数種用意し、注文によってはじめて建築にかかる場合もあります。第一の場合は、建物の売買契約に近く、第三の場合は建築請負契約に近いといえますが、いずれの場合にも、建売業者の側で画一的な契約書をつくっていることが多く、契約内容の自由なとりきめが事実上困難であることが多いので注意を要します。また、建売りの場合は、土地付きであるか、借地権付きであるか、それとも土地利用権について未定のままであるのか、などをよくしらべてから契約をする必要があります。
 工事契約とは土盛り、整地、石垣などの築造などによって土地を改良する工事や、建物その他の工作物の修繕などについて行なう契約です。この種の契約の法律的性質は、建築契約と同様に請負契約であるのがふつうです。
 なお、土地や建物が賃貸されている場合には、賃貸人が賃貸物の使用・収益に必要な修繕をする義務を負っています。したがって、賃借人の使用・収益を妨げる損壊が生じたときは、賃貸借契約に基づいて賃貸人にその修繕を要求することができます。また、使用・収益をつづけるために必要な修繕工事を賃借人がみずから行なった場合は、直ちにその費用の支払いを賃貸人に求めることができます。これらの賃貸借契約当事者間の権利義務は、両者の問で工事契約を結ぶことをいっさい必要としません。
 管理契約は不動産の管理を他人に委ねる契約です。不動産の保存や収益に必要な法律上の行為を委ねる場合は、通常、委任契約を締結し、受任者が所有者本人の代理人として必要な法律行為を行ないます。単に事実上の管理行為を委ねる契約は、法律上は準委任契約とされ、委任契約に準じて取り扱われます。不動産については、実際上は、両者を含めて委託するのがふつうであり、それを管理契約とよぶことが多いようです。不動産を賃貸して賃料を収益し、他方、必要な修繕などを行なうことを一括して委ねる場合や、分譲マンションのような区分所有建物において玄関・廊下・エレベーターなどの共用部分の管理を他のサービスとあわせて委託する場合などがよくみられます。管理業務の内容や報酬については、すべて契約で定めます

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