土地信託への期待

 土地信託について、その活用の期待も大きく関係諸官庁や学識経験者の方々の研究も進んできております。特に、信託業界、不動産業界、建設業界が一諸に参加して、いろいろと専門的な検討も進められています。ただ、土地を有効活用して事業を行うのは、信託銀行に土地信託方式でまかせても、結果的には土地の所有者自身ということになります。ですから、土地をお持ちの方々が土地信託を理解して、これを有効に利用しようと決断していただかなければ、土地信託制度は、社会の要請にこたえて十分に活用されるようにはならないと思います。
 私たち日本人の住宅を指して、外国人が「うさぎ小屋」と称したといって一時話題になりました。この報道を聞いた日本の人たちは、そのときどう感じたのでしょうか。納得した方もいるでしょうし、憤慨した人もいるようです。ただ、外国人からみだ日本、の印象は、世界有数の資本輸出国で、貿易による黒字は伸びる一方、日本製品は世界中に普及していて、まさにエコノミックアニマル、であるわけです。そういう印象と、日本人の住宅を見た実感とは、かなりかけ離れたものだったのでしょう。超高層のビルとビルの合い間には、木造の狭い住宅がひしめき合っている。表通りは道路も広く整備されていて、近代的なビルが並んでいます。しかし、通りを一本入ると、決して近代都市とはいえない状況があるわけです。うがった見方をすれば、日本は他人の国へ進出して、その国の市場を圧迫するより前に、自分の国の住宅を、一流国にふさわしい水準に引き上げる努力をすべきではないんですかと皮肉を込めて、それで「うさぎ小屋」などと言ったのかも知れません。
 外国人がどんな魂胆で「うさぎ小屋」と言ったかはともかくとして、確かに日本の大都市は昔から膨大な人口が集中し、政治も経済も文化も何もかもが集中しています。それなのに、住宅環境や都市の施設の整備は、それにふさわしい形では全然進んでいません。むしろ大変立ち遅れているわけです。しかし、現在の国家財政の状態では、とても都市の整備のためにだけ十分な公共投資を期待できる状態ではありません。行財政改革は国策として、それはそれで実行を迫られておりますし、緊縮財政を余儀なくされています。日本経済全体としても、いつまでも貿易にばかり頼っているわけにはいかないし、内需の拡大をやらなければ、いずれまた大変なことになりかねないのです。従来ですとこういう場合、必ず公共投資という切り札が使えたのですが、前述の事情でそうはいきません。それでは、どうやって内需の拡大をはかるのか。ここで出てきたのが「民間活力導入」というわけです。

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 ですから「民間活力の導入」は、都市政策、住宅政策という意味でも、また内需の拡大という経済政策の意味でも、大変期待されていることになります。
 以上のような民間活力の導入に頼らざるを得ない環境というものが、まず下地としてありました。そこへ、政府が、民間活力導入のための方策として土地信託の活用を提唱し、土地信託が脚光を浴びることとなった次第です。各信託銀行もセキを切ったように、土地信託の具体的な案件の開発に着手し、土地信託は一挙にマスコミでとりあげられる事態に至ったわけです。
 それでは、土地信託というのは自民党の特別調査会が頭をひねって編み出した新案特許みたいなものかと申しますと、実は十数年前から何回か提案され検討されてきたものの、いろいろな理由から実現に至らなかった制度というか手法であったのです。その理由の一つとしては、いわゆる「事業執行型」の信託が監督官庁によって承認されなかったことです。つまり、土地の信託というのは土地所有者が信託銀行に土地を信託し、信託銀行はこの土地を管理すべきものであって、信託を受けた土地に信託銀行が資金を調達のうえ、建物を建設し、賃貸事業を行うという事業執行を伴うものは、信託された土地に信託銀行が手を加えてしまうことになりますから善良な管理者といえるかどうか、明確な見解を見いだせなかったという当時の状況がありました。それが民間活力導入という政治的、社会的状況の変化があって、事業執行型もOKとなったわけです。ですからそれまでは、土地所有者が自分で建物を建設し、そのうえで、土地と建物を一緒にして信託銀行に信託するという「不動産管理信託」の形で取り扱っていました。
 理由の第二は、ご存知のとおり、昭和40年代の列島改造論や、一億総不動産屋のごとく、これまでは不動産は買って持っていれば、値上がり益を享受できた時代でしたから、何も苦労して土地の有効活用などを考える必要がありませんでした。単に持っていて値上がりを待つ、これがもっとも有効な活用方法であったともいえる社会的背景がありました。土地は使用するものという考えがあってこそ、有効利用ということも考えられるわけで、土地とは所有するもの、という考え方の時代にあっては土地信託をあえて必要としなかったといえます。
 さらに信託銀行の側も、高度経済成長期の旺盛な資金需要という環境の中で、貸付信託などの「お金の信託」に精力をつぎ込んでいましたから、土地信託まではなかなか手が回らなかった。不動産の仕事においても、宅地造成分譲や、マンション分譲の販売提携という業務に、かなりのエネルギーをさいていた状況でした。つまり高度成長の時代には、信託銀行の長期金融機能がもっぱら前面に出て、脚光を浴び、財産管理機能は陰にかくれていたのです。これが第三の理由といえるだろうと思います。
 そういう状況があって、土地信託は長い間、日め目を見ないまま経過してきたのですが、民間活力導入の一つの手法として、うまく活用できそうだということ、土地はただ待っていても値上がりを期待できず、所有から利用へと考え方を変えないといけない時代になってきたこと、そういう環境の変化を背景にして一挙に土地信託がクローズアップされてきたというわけです。
 信託銀行はもともと、マンションや分譲地の販売、中古住宅の仲介、土地建物の鑑定評価などを業務として行っておりましたし、お寺や大地主の賃貸用地とか賃貸住宅の管理を、戦前から引き受けて営業していましたから、土地の管理と活用のノウハウは十分に持っています。それに金融機関としての公共性があり、社会的な信用もありますから、土地信託というものが新聞で報道された途端に、遊休土地を持っている多くの人達が、ここは一つ信託銀行にまかせてうまく活用と管理をやってもらおう、と考えて相談を相次いで持ち込んでこられたわけです。
 土地信託の説明会を各地でいろいろな方々を対象にして実施しました。そして、どの説明会でも多くのご質問がありましたが、受けることの多かった質問項目を次にあげてみます。
 配当率は何%ぐらいになるのか。元本保証はされるのか。土地信託の契約期間は何年か。信託が終了した時、地主に戻ってくるものは何と何か。信託銀行に支払う信託報酬はいくらか。配当の支払時期はいつか。委託者(土地所有者)について年齢とか年収などの制限はあるか。土地信託にした場合、税金はどうなるか。相続税が軽減されるとは、具体的にどういうことか。利回りはどのくらいになるか。
 以上の質問は、だいたいどの説明会へ行きましても受けました。そこで感じましたのは、やはり土地信託というものを貸付信託と比較して理解されようとしている、ということでした。
 信託という考え方は、古く古代エジプト時代からあったと言われています。日本でも、16世紀の半ばに織田信長が金銀を京都の商人に渡し、その運用金で、皇居の修理をさせたという話が残っています。ヨーロッパでは11世紀の十字軍の遠征の際、国に残した家族のため、財産を信託する方法が広く行われました。信託という考え方は、自分の財産を守るために、信頼できる人に渡して、管理と運用とをまかせるというもので、古今東西いろいろな場に登場してきたようです。財産のあるところ信託あり、ともいえます。
 信託が制度として社会的に定着したのは、16世紀のイギリスにおいてでした。当時は、封建領主の権限が絶対、という時代で、相続人がなかったり、相続人が罪を犯したりすると、土地は封建領主によって没収されることになっていました。また、戦争に負けると財産は敵方に全部没収されてしまうということもありました。そこであらかじめ、自分の家族に役立つよう管理運用してもらう前提で、土地の名義を教会や教団のものにしてしまう。これを土地の信託的譲渡といいますが、この方法が広く行われまして、これが近代的な信託制度の始まりとされています。
 ですから、信託というものは強大な権力者から、自分の財産を守るための、国民の智恵の結果でもあったわけです。そうした信託が、長い歴史を経て発展し、アメリカにわたり、日本にも伝わってきて、現在の土地信託という形で花開いたといってもよいでしょう。

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