土地財産権の一般法則

 近代市民社会は商品交換社会であり、市民は商品所有者として商品の交換をつうじて自己の経済的生存を維持確保する。それゆえ、人間の生存権は商品所有者としての立場における財産権によって基礎づけられる。所有と労働とが一致している自営業者イコール小市民の場合には、財産権の保障が同時に生存権の保障であるという関係が典型的に見られ、したがってこのような小市民がまだ支配的であった近代初期においては、財産権の保障が、基本的人権保障の中核にあり、財産権の自由・不可侵性は、市民的自由の根底を支えていた。
 しかし、資本主義が本格的に展開し、貧民層や都市自営業者の階層分化が決定的に進む中で所有と労働が分離すると、生産手段所有者の財産権と、生産手段を所有しない労働者の生存権との対立が明白且つ決定的となり、資本主義的財産権(生産手段所有権)は人権の対立物へと転化する。ここでは財産権の自由・不可侵性は、労働者その他市民の生存を保障するものでなく、逆にその生存を侵害し、圧迫するものとなる。この弊害を緩和するために、一方では財産権の自由に対する制限が主張され、他方では資本主義的財産権に対立する労働者その他市民の生存権が主張されるようになる。さらに株式会社制度が普及し、資本主義的財産権の主体が市民個人から法人企業に移るに伴って、この財産権が人間の権利ではなく、基本的人権と無縁なものであることは、いっそう明らかとなる。
 こうして、かつては人間の権利の中核に置かれていた財産権は、少なくとも企業の資本主義的財産権に関する限り、基本的人権ではなくなった。それにもかかわらず、財産権の自由や不可侵性が依然としてうたわれているのは、それが人権であるからでなく、まさに資本主義的私有財産制度の中核をなしているからにほかならない。資本家や法人企業の生産手段に対する私的所有は資本主義経済の本質的要素であり、それなくして資本主義はありえず、その否定は革命を意味する。すなわち、財産権の不可侵性は、人間の生存にとっての不可侵性ではなく、資本主義休割にとっての不可侵性をここでは意味している。それゆえ、かつて当初においては人権として憲法上その尊重をうたわれていた財産権は、現代憲法においては、資本主義を保障する制度としてその尊重をうたわれている。このように財産権の保障という点では同一性があるようにみえるが、人権としての保障と制度としての保障とでは、法理念的にその保障の意味内容が根本的に異なっている。

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 制度としての保障という観点からするなら、それは制度維持の目的のためのもので、制度内在的制限を受けることは当然である。財産権が資本主義的私有財産制度の維持という目的に奉仕するためのものである以上、その無制限な自由がかえってこの目的達成にのぞましくない、あるいは障害となるという場合には、その自由を制限するのも当然である。財産権の保障というも自由の制限というも、いずれにせよ、それらは制度を維持するための単なる手段にすぎないから、国家政策によって、自由の制限の程度をきめることができるはずである。一般的にいえば、独占資本主義段階、さらにその中でも国家独占資本主義という現在の段階に至れば、資本主義的私有財産制度そのものを維持するため国家の財産権への介入とその自由の制限は一段と強まらざるをえず、その法イデオロギーとして公共の福祉概念が広範に使われることになる。
 このように、人権でない資本主義的財産権に限っていえば、公共の福祉による財産権の制限は、現代資本主義そのものの制度的要請であることを何人も否定しえない。この制限の強化を、人権侵害という人はいないであろう。しかし、他方商品交換社会で、その法則にしたがって生きる以外に生きるすべをもたない市民にとっては、財産権の保障が今日なお生存権保障の基礎であることに変わりはない。市民がその生存の必要上、商品交換によって入手しえた消費生活手段に対する財産権はもちろんのこと、自営業の場合には、その生産手段に対する財度権もまた生存権の基礎であり、労働者の場合には労働力商品に対する財産権が生存権の基礎である。この最後の場合における労働力商品所有者としての労働者の権利は、労働基本権として一般財産法の体系から分離独立し、労働法の体系をつくっている。
 かくて現代の財産権は、生存権の基礎となる財産権と、生存権と対立する財産権の、二つのあい異なる、相互に対立する財産権に分けることが感荷となる。前者は、人権としての財産権であるから、その自由の侵害には慎重な配慮を必要とする。これに対し後者は、人権ではないから、当然に国家政策によってその内容を規制されるものであり、したがって公共の福祉の制約を受ける。もちろん、資本庄義宏法である以上、前述のごとく、資本主義的財産権をたとえば無償没収するというような極端なことは憲法のわく内で不可能であるとしても、国家政策、公共の福祉の観点から必要がある場合には、その必要が存する限度で、財産権の自由な行使が制限されるのも当然である。

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